
《このドラマのホストクラブにおける一部表現には、違反となりうる営業行為が含まれています》
7月10日にスタートしたドラマ『愛の、がっこう。』(フジテレビ系)で、本編終了後に表示された注意書きが話題になった。
同ドラマは、木村文乃(37才)演じる高校教師・愛実と、ホストとして夜の街で働くカヲル(ラウール、22才)が引かれ合うラブストーリーだ。カヲルが働くホストクラブ「THE JOKER」は新宿・歌舞伎町にあるという設定で、作中では店内の煌びやかな様子も描かれた。
これまでにもホストクラブはもちろん、夜の街を舞台にしたドラマは数多くあった。しかし、前述したような異例の注意喚起を行った背景には、今年6月28日に改正風営法が施行されたことと無関係ではないだろう。新宿に拠点を構え、これまでに3000件以上の風俗トラブルを担当してきた「グラディアトル法律事務所」の代表弁護士・若林翔氏が説明する。
「風営法は、正しくは『風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律』と言います。いわゆる性風俗店のみならず、ホストクラブやキャバクラ、スナックやバーといった夜の店、さらにはパチンコ店や雀荘、ゲームセンターなどが風営法で規制されています」
風営法が大きく改正されることになった背景には、「悪質ホストクラブ問題」がある。
「ホストへの恋愛感情を利用して多額の注文をさせる、料金の虚偽説明、客の了解なくホストがシャンパンを注文するなど、一部のホストクラブで横行していた悪質な行為により、多額の売掛金(ツケ)を客に背負わせることが問題視されました。
また、歌舞伎町にある大久保公園付近での立ちんぼの増加や海外出稼ぎなどの海外売春、詐欺に該当するような『頂き』やパパ活といった社会問題の背景に、ホストクラブへの支払いがあると指摘されたのです」(若林氏、以下「」内同)
夜の業界では、18才未満の未成年を『みてこ』と呼ぶ
それでは、実際に『愛の、がっこう。』で描かれたホストクラブには、どのような《違反となりうる営業行為》があったのだろう。
愛実がカヲルの元を訪れることになった理由は、愛実が受け持つクラスの女子生徒が、ホストクラブ通いをしていたことだった。
「夜の業界では、18才未満の未成年を『みてこ』と呼びます。“身分証が提示できない子”の略語で、働くことはもちろん、客として営業所内に入店させることもできません。店側としては、いわゆる『18禁』の札を店頭に表示する必要があります。仮に客として迎え入れれば法律違反となり、店側に1年以下の拘禁刑(懲役)若しくは100万円以下の罰金、あるいはその両方が科される可能性があります。

ドラマの中では、女子生徒が“高校生じゃない”と嘘をついていたようですが、年齢の確認義務は店側にあります。18才未満であることの認識は必要ですが、未必の故意で足りるので、18才未満である可能性を知りつつ確認をしなかったような場合には、処罰を逃れることはできないでしょう」
夜の店とアルコールは切っても切れないものだ。作中では、シャンパンタワーを頼もうとする女子生徒に対し、カヲルが「酒はダメ、捕まっちゃう」と諫めるシーンがある。
「当然未成年飲酒は禁止です。酒を飲んだ未成年者本人に対する罰則規定はありませんが、未成年であることを知りながら酒類を提供した者には20才未満の者の飲酒の禁止に関する法律により50万円以下の罰金に処せられる可能性があります。風営法では、この法律よりも厳しい規制がなされていますので、ホストクラブで20才未満に飲酒をさせた場合には、1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金、あるいはその両方が科される可能性があります」
「街中を走るラッピングトラック」に大きな顔写真
カヲルが働く「THE JOKER」は複数のホストを抱え、比較的規模が大きい店だった。その中でもカヲルは人気ホストの1人のようだ。店舗前の看板や、街中を走るラッピングトラックに、カヲルを含めた5人のホストの顔写真が大きく張られていた。
「看板やラッピングトラックへの顔写真の掲出には、法的な問題はありません。ただ、今回の改正を受けて《営業所周辺における清浄な風俗環境を害するおそれのある方法で広告又は宣伝をしてはならない》とする風営法第16条の解釈運用基準が大幅に変わり、卑猥な広告はもちろん、過度に客をあおり、競争意識を生じさせるものも規制対象になりました。
そのため、《年間売上〇億円突破》《1億円プレイヤー》などいう文言や、《神》《レジェンド》《幹部》といった格や肩書きを表す文言を営業所周辺や店内の看板や広告に明示することは禁止されました。また、《○○を推せ》《○○に溺れろ》といった、過度な応援をあおる文言も規制されました」

同様に、ホストなどの間で競争意識を生じさせる「ランキング制」の存在を、広告で示唆することも禁止された。
「ドラマ中では、ホストたちの売上額をランキング形式で発表していました。あくまで従業員のみがいる場で発表をするという描写でしたが、店内のモニターには具体的な売上金額が表示されていましたから、営業所内の設備として『接客従業者間に過度な競争意識を生じさせ、営業に関する違法行為を助長する』と判断され、違反だと判断される可能性はあります。
また、そういったランキングが存在し、接客従業者間の競争を強調するような広告を営業所周辺で打ち出せば、違反となります。具体的には《指名数ナンバーワン》《売上バトル》などいった文言です」
風営法第16条違反について刑事罰は規定されていないので、逮捕されることはない。
「ただし、行政指導や指示処分に従わなければ、営業停止などの行政処分がなされる可能性はあります」
「生誕祭」の開催はOKだが…
ホストクラブにおいて書き入れ時の「イベント」の扱いも同様だ。作中では、「THE JOKER」のナンバーワンホストの「生誕祭」が行われていた。
「生誕祭などの店内イベントを行うこと自体は法に触れるものではありません。ただ、イベントの開催を店内の掲示物や営業所周辺の広告物で告知する際に、当該キャストへの過度な応援をあおる文言があれば、広告宣伝規制にひっかかると言えるでしょう」
風営法の転換期により、ドラマ作りも慎重さを抱えながら進められている。
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若林氏の著書「歌舞伎町弁護士」では、改正風営法の詳細解説がされているほか、これまでに若林氏が解決してきた「夜の街のトラブル」のリアルエピソードが収録されている。





