《人生の最期を「施設」で迎えるための準備》施設選びは元気で判断力のある60代から 重視すべきは「スタッフに余裕があるか」「入居者とスタッフの間に笑顔があるか」
「必要額」より「どこまでならお金を出せるか」で考える
自宅と介護施設のどちらを選んでも、お金の問題は切実だ。まずは、平均額を知っておくこと。
生命保険文化センターの調べでは、介護期間は平均55か月(4年7か月)。その期間内にかかる平均費用は、自宅で約331万円、施設だと約843万円と、その差は約500万円以上にもなるが、この数字だけを見て「お金がないから自宅にしよう」と決めてはいけない。

「“自宅ならお金がかからない”と判断するのは極端です。これはあくまでも平均額であり、介護期間や要介護状態、使うサービス、リフォーム内容、施設の立地などで大きく変わる。自宅で過ごすうちに要介護度が上がって保険外サービスも使うようになり、年間数百万円の出費につながるケースもあります。反対に施設に入ったことで買い物や美容院に行かなくなり、むしろムダが減って結果的に貯蓄が増えたケースもある。
肝心なのは“いくら必要か”ではなく、“どんな環境で介護されたいか”“そのためにどこまでならお金をかけられるか”を考えることです」(黒田さん)
選ぶためには、いまの預貯金や年金額などから、あらかじめ「出せる金額」を試算しておくことだ。同時に、「介護の最終決定者」を決めておこう。
「認知症が進めば、自分で判断や手続きができなくなります。そのときに、元気だった頃の意向を汲んで手続きしてくれる人を決めておきましょう。
その人が将来、損したり、嫌な思いをしないような配慮も必要です。介護やお金の負担の割合などを記した『親族等扶養契約公正証書』や『公正証書遺言』があれば、自分が亡くなった後にトラブルが起きにくくなります」(横井さん)
いま「どちらかを選ぶ」のではなく「両方シミュレーションしておく」
「お金がないから」という理由で自宅に決めてはいけないのと同じく、「家族に迷惑をかけたくないから」という理由で施設を選ぶのもおすすめできない。関西医療大学保健医療学部作業療法学科准教授の山田隆人さんが話す。
「入居したからといって、そもそも一生そこにいられるとは限りません。胃ろうや点滴、人工肛門など医療的支援が必要になった場合、たとえ入居してからそんなに月日が経っていなくても、退去して病院に入院しなければいけないこともある。そうなると、家族は施設の解約や転居の手続きをしたりと、自宅での介護とは別の負担が発生します」

大切なのは、自宅と介護施設の両方の可能性を捨てずに「何才で、どんな状態になったら誰の手を借りるか」を決めておくこと。
「ひとりでトイレに行けるうちは自宅にいる」「ひとりでゴミ出しができなくなったら介護施設に入る」など、具体的に決めておくといいだろう。そして、それを子供にも伝えておこう。
「明らかに認知症の症状が出ていても“自分はまだ大丈夫”と言い張るかたは少なくありません。自分が本当に大丈夫かどうか、認知症を発症してからでは判断できないからです。
認知症になると、元気な頃とは人が変わったようになってしまうことも少なくありません。私の親も、元気な頃は“お前に迷惑はかけないよ”と言ってくれていたのに、認知症になったら“いますぐ仕事を辞めて離婚して、面倒を見に来い”と毎日電話をかけてきたほどでした。だからこそ、元気なうちから自分で調べた情報と自分の意思を子供に共有しておくことが大切です」(横井さん)
人生の最期まで自分らしく、後悔なく過ごすために大切なのは「どこで」だけではない。誰と、どんなふうに暮らしたいか――それを考えることこそが、間違えない選択の第一歩なのだ。
※女性セブン2026年10月22日号