20以上下げると脳梗塞のリスクが増える
精神科医の和田秀樹さんも、数値だけを見て恐れるべきではないと話す。
「高齢者を調べたところ、上の血圧が150mmHgの人と130mmHgの人では、死亡率に差は見られませんでした。そもそも血圧は、全身に血液を送り出すための力なので、活動すれば上がります。つまり血圧は“活力の証し”でもあるので、高いことを怖がりすぎる必要はありません」
特に女性の場合は、基準値だけに翻弄されない方がいいと和田さんは続ける。
「女性は、脳卒中も心筋梗塞も男性より罹患者数が少なく、リスクが高くなるとされる閉経後でも、心筋梗塞は少ない。血圧が多少高くても元気に過ごしている人は大勢いるのに、一律の基準を守ることが推奨されているのです」
基準値だけで「高血圧」と判断することには弊害もある。高血圧と言われてスタートした投薬治療で、福井県在住のAさん(女性・55才)は転倒したと話す。
「風邪で受診したクリニックで、ついでに血圧を測ったところ145mmHgで基準値より5mmHg高かった。すると医師から、『風邪薬と一緒に降圧剤も処方しておきますね』と言われ、のみ始めました。すると、日中にぼーっとすることが増え、朝は足元がふらつくことも。それでも、一度のみ始めた薬をやめるのは不安で、薬がなくなるたびに処方してもらっていました。
しかし1年ほど経った頃、ついに自宅で転倒し、足を捻挫。別の病院を受診すると、『いまの血圧を無理して下げる必要はない』と言われました。それなら最初から降圧剤なんてのまなければ、こんな痛い思いをしなくて済んだのにと、のみ続けてしまったことを後悔しています」
佐藤さんのように、不要な治療を受けている人は多く、血圧を下げることにはリスクがあるケースも少なくないと大櫛さんは言う。
「持病がなく、加齢で自然と血圧が高まっているケースでは、160mmHgまではほとんどの場合で降圧剤は必要ありません。むしろ血圧を20mmHg以上下げると脳梗塞リスクや死亡率が高くなるという研究があります。また最近では、降圧剤で脳の血流が悪くなり、“脳のゴミ”がたまって認知機能の低下を招くというデータも報告されているので、安易に血圧を下げることには慎重になった方がいい」

病院や健康診断で測定した血圧を見て、高血圧と判断してしまうのも誤りだ。
「血圧は常に上下するため、運動はもちろん、緊張するだけでも大きく変動します。一度の測定で治療の必要性は判断できません。病院では緊張から一時的に血圧が高くなる『白衣高血圧』が起こることもあるので、日頃の血圧を知っておくことが大切です」(下方さん)
坂東ハートクリニック院長の坂東正章さんも、家庭での正しい血圧測定を忘れないでほしいと話す。
「朝、起床後に排尿を済ませたら、背もたれのある椅子に座って1~2分たってから、原則として左腕で測定するのが正しい測定法。もっとも正確に測れる血圧計は、腕の上部にカフを巻く上腕式です。挿入式は前かがみの姿勢で測るので血圧が高めに出やすい。間違った血圧をもとに『高血圧』と診断されているケースは珍しくありません」
最近「薬をやめた」と話すのは、栃木県在住のBさん(女性・66才)だ。
「150~160mmHgを推移していて、3年前から薬をのんでいましたが、150前後で数値が安定していることや体調を見て、かかりつけの医師から“いったん薬はお休みしてみましょう”と言われました。1日3回の血圧測定を毎日記録していてよかった。
薬をやめたら自分でも驚くくらい頭がクリアになって、起床後のダルさがなくなりました」
坂東さんは、血圧の数値だけで治療内容を決めることはできないと話す。
「軽度高血圧の140mmHg程度であっても、心臓弁膜症や頸動脈狭窄があるなど、すでに病変があれば、すぐに薬で血圧を下げる必要があります。
医師には血圧の数値だけでなく患者さんの全身の健康状態を見極めて、治療することが求められます」
大櫛さんも続ける。
「血圧が上がる原因として、原発性アルドステロン症、腎臓病、甲状腺機能低下症、睡眠障害などがある。こうした場合に、原因を治療しないで降圧剤を使うと病気が悪化するため、血液や尿の検査が必要です。血圧の変化が加齢に伴うものか、病的な変化かを識別するためには、毎日血圧を測って記録してください。朝の血圧が高くても、就寝前に下がっていれば大丈夫です。急な血圧の上昇や、一日中160mmHgを超えるときは、複数の診療科のある病院を紹介してもらって精密検査を受けてください」
一方で、持病や家族歴によっては、すぐに治療を始めた方がいいケースもあると和田さんは言う。
「例えば脳に動脈瘤があれば、血圧が高いと破裂するリスクが増すので、130mmHgくらいまで下げるべきです。腎臓や心臓の疾患がある人も、持病が悪化するので下げた方がいい。親や兄弟姉妹など家族に脳卒中の既往歴がある場合も、発症リスクが高いので血圧の管理が必要です」