
「念のために」「お医者さんにすすめられたから」と安易に検査や治療を受け、薬をのみ続ける──。しかし、医療を受ければ受けるほど健康になるというものではない。「過剰診断・過剰治療」が、かえって寿命を縮める可能性もあるのだ。あなたや家族が受けている医療は、本当に必要なのだろうか──。【全3回の第1回】
「チュージング・ワイズリー」という取り組み
日本は国民皆保険制度によって、誰もが少ない自己負担で医療を受けることができる。一方、急速に進む高齢化や医療技術の高度化を背景に、国民医療費は2023年度に過去最高となる約48兆円へと膨れ上がった。
誰でも、いつでも、どこでも手厚い医療を受けられることが当たり前となった中、“それが本当に必要かどうか”を果たしてどれほどの人が考えているだろうか。健康によかれと受けている検査や治療、薬が、必ずしも自分の健康長寿につながるとは限らない。
いま医療の世界では、過剰な検査や治療、薬の処方を見直そうとする動きが世界的に広がっている。それが、患者にとって本当に利益のある医療を医療者と話し合いながら選択する「チュージング・ワイズリー(賢明な選択)」という国際的な取り組みだ。
チュージングワイズリージャパン代表で医師の小泉俊三さんが説明する。
「アメリカでは2012年に米国内科専門医認定機構財団によって『チュージング・ワイズリー』の活動が始まり、日本でも2016年から本格的にスタートしています。
現場にいる医師への意識調査では、医療の2~3割は無駄だというデータがあり、私自身も不要な医療が多く存在していると感じます。特に最近は病院経営が厳しいという事情もあり、収入を増やすために検査や手術の件数が増えてしまうという側面もある。日本の医療システム自体が、診療行為を増やさざるを得ないような構造になってしまっているのです」
健康診断が寿命を延ばすという明確なエビデンスはない
日本では企業に対して、年に一度の健康診断が義務づけられるなど、「早期発見・早期治療」の重要性が叫ばれている。しかし、健康診断が寿命を延ばすという明確なエビデンスは存在しないと指摘するのは、『本当はいらない医療』(宝島社新書)の著者で医療ジャーナリストの鳥集徹さんだ。
「欧米では、信頼性の高い『ランダム化比較試験』という研究がいくつも実施され、健康診断を受けた人と受けなかった人を比べると、総死亡率にほとんど影響を与えないという結果が出ています。心血管疾患や虚血性心疾患、脳卒中に対しても同様で、健康診断を受けても健康長寿につながるとは限らないのです」
さらに健康診断では、健康な人まで「異常あり」と判定されるケースが少なくない。
日本人間ドック学会と日本病院会が、約316万人を対象に合同で実施した2015年の調査では、身体測定、血圧、血液検査など健康診断の検査項目において、全項目「異常なし」の人はたった5.6%しかいなかった。
「つまり、健康診断を受けた95%近くの人に、何らかの『異常』が見つかったわけです。しかし、多くの健診項目の基準値が、一定の数値から外れると『異常』と判定するように恣意的に設定されています。高血圧や脂質異常症なども、以前より多くの医師から『基準値が厳しすぎる』と指摘されており、それが結果として、降圧剤やコレステロール治療薬の過剰な投与につながっている。健康診断にひっかかれば、健康に過ごしていても病院通いとなってしまう。つまり、『患者』が“つくられてしまう”のです」(鳥集さん)

不要な検査は過剰な治療につながるだけでなく、体に悪影響を及ぼすこともある。エックス線検査もそのうちのひとつだ。
「日本では、腰痛などですぐにレントゲンを撮る。しかしレントゲン撮影は、放射線被ばく量が大きく、健康への影響は無視できません。CT検査になると、さらに被ばく量が増えます。軽度の頭部外傷でも念のためCT検査をしてほしいという患者さんは多いのですが、特段のリスク要因がある場合以外は控えた方がいいというのが現在の世界共通の認識です」(小泉さん)

(第2回に続く)
※女性セブン2026年7月23日号