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「歯の磨きすぎ」は歯周病を加速させるリスク、脳梗塞や心筋梗塞も 「1日3回」「3分」「フロスが先」”正しい歯磨き”のやり方を歯のプロが解説

正しい歯磨きの仕方を身に着けよう(PH/PIXTA)
正しい歯磨きの仕方を専門家がアドバイス(Ph/PIXTA)
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「心身の健康はお口から」―そう思って毎食後、時間をかけて丁寧にゴシゴシ歯を磨いている人は多いだろう。しかし、その懸命なブラッシングは歯の汚れどころか命を削っているかもしれない。毎日の習慣だからこそ、そのスキルをきちんと磨きたい。

監修・取材

・サンスター財団歯科衛生士 茨木浩子
・医療経済ジャーナリスト 室井一辰
・歯科医 照山裕子さん 著『“食べる力”を落とさない!新しい「歯」のトリセツ』など
・都内在住の小山恵子さん(仮名・52才)

日本で歯の定期健診に行く人の割合は2%

歯の定期健診に行く人の割合はスウェーデン約90%、アメリカ約80%、イギリス約70%なのに対し、日本は2%しかいない――こんな衝撃的な事実が明かされたのは、4月17日に放送された『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)2時間スペシャルでのこと。

スタジオが驚きに包まれるなか、ブラックマヨネーズの小杉竜一(50才)が「2%の1人です、ぼく」と明かすと、共演者たちからは口々に「ウソ!?」「すげぇ」の声が上がった。

同番組では定期健診に行く日本人が少ない大きな要因を「歯医者に行くのは歯が痛くなってから」という考えが根強いことだと分析していた。一方で、歯の健康の重要性についての意識は高まっており、虫歯予防のために毎日歯磨きをしている人は多いが、正しく歯磨きができていなければ、かえって悪影響を与えている可能性があるとサンスター財団歯科衛生士の茨木浩子さんは言う。

毎日の習慣が死を招く!?

「1日に2回歯を磨く人は約50%。1975年に比べると倍増しているにもかかわらず、虫歯など口の病気はあまり減っていません。その理由は磨く時間や力加減が自己流ゆえに、正しく歯を磨けていないことにあると思われます」

とりわけ散見されるのが「磨きすぎ」による弊害だ。都内在住のAさん(52才)の夫は昨年、脳出血のため62才で亡くなった。

「夫に基礎疾患はなく、たばこも吸っていませんでした。むしろ普段から健康に気を使っていて、特に歯は念入りに毎食後10分以上は磨いていました。ところが、看取った医師に“亡くなった原因は歯磨きかもしれない”と言われて……。夫の歯は磨きすぎですり減って歯肉にも傷がついており、そこから虫歯菌が血管に侵入して脳内で出血を起こした可能性があるというのです」(Aさん)

正常な状態と歯周病の比較図
正常な状態と歯周病の比較図
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万病のリスクを上げるオーバーブラッシング

医療経済ジャーナリストの室井一辰さんが指摘する。

「歯の磨きすぎである『オーバーブラッシング』は歯を傷め、健康を害すると指摘されています。1回3分磨けば充分といわれており、それ以上の歯磨きはかえってリスクを高める可能性があります」

なぜ歯の磨きすぎは危険なのか。室井さんが続ける。

「長時間、力を入れてブラッシングしていると歯の表面を覆うエナメル質が剝がれ、内部の象牙質が露出します。象牙質は柔らかく、虫歯菌にも弱いため虫歯になりやすい。また、歯磨きによって歯茎がやせて下がると、知覚過敏や歯の根元が虫歯になる『根面う蝕』も招きやすい。根面う蝕は普通の虫歯よりも進行が早く、歯を失うリスクも高いので要注意です」

全身を巡る炎症性サイトカインの入口に

長時間のブラッシングが引き起こすのは口腔内のトラブルだけではない。歯の磨きすぎで歯茎を傷つけてそこから出血したり、歯茎が腫れたりして炎症を起こし、それが歯周病に悪化することもある。

「歯周病がひどくなると、歯周病菌や炎症性サイトカインという物質が歯茎の毛細血管を伝って体内に入り込み、脳や心臓など全身の血管の中まで侵入します。

最悪の場合、サイトカインが血流に乗って全身を巡ってあちこちの血管中で炎症を起こし、血管を硬くして、ひどくなると詰まる。その結果、引き起こされるのが脳梗塞や心筋梗塞です」(室井さん)

加えて歯周病は糖尿病や認知症のリスクを高め、胃がんや大腸がんのリスクをも上昇させることが最近の研究で報告された。万病を招くリスクに加え、気がかりなのは“磨きすぎ”が歯そのものを失うトリガーになりかねないこと。

間違った歯磨きでは歯周病を加速させてしまう

「加齢とともに歯茎は後退する傾向にありますが、間違った歯磨きでは歯周病を予防できず、歯茎下がりを加速させてしまう。歯周病の原因であるプラーク(歯垢)をしっかり落とせていないと歯周病が進行し、細菌によって歯を支えている骨が溶けてしまい、最悪の場合、歯が抜けてしまいます」(茨木さん・以下同)

歯を失うことはQOL(生活の質)に影響を与える。食べられないものが増えて食事の楽しみがなくなるほか、顔立ちが変わることは大きなストレスになる。

「歯が抜けているのを他人に見られるのが恥ずかしくて笑えなくなったり、外出が億劫になり家族や友人と会う機会を自分から減らしてしまう人もいます。歯を失うことは社会性が失われるだけでなく、食べられるものが偏ってしまい全身の病気につながってしまうこともあります」

歯の磨き方が間違っていると歯茎下がりや歯周病を進行させてしまう
歯の磨き方が間違っていると歯茎下がりや歯周病を進行させてしまう(Ph/PIXTA)
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歯磨きは3分で十分

では、過度なブラッシングで悲劇を招かないために、どんな歯磨きを実践すればいいのか。

『“食べる力”を落とさない!新しい「歯」のトリセツ』などの著者で、歯科医の照山裕子さんは歯茎を「丁寧に扱うこと」を心がける大切さを強調する。

「オフィス街で診察をしていると、昼食を食べた後に急いで歯を磨いたせいで口の中が傷つき、出血している人が多い。そうした磨き方を日常的に続けていると歯茎が擦られすぎて傷がつき、硬くなって縮んでしまいます。
歯茎が縮んだことによって露出した歯の根元をさらにごしごし磨いていると、根元のくびれ部分が削られ、やせて歯が折れてしまう高齢者もいるほどです」

丁寧なブラッシングを心がけつつ、どんな時間配分で3分磨くか決めておくべし。照山さんが続ける。

「磨き残しを防ぐために、時計回りで磨くなど順番を決めるといいでしょう。歯ブラシの当て方や角度を意識しながら歯を1本1本磨き、歯ブラシをちょっとずつ横に動かしていく。歯の部分によっては毛先の角度を変えた方がいい。
歯だけでなく歯茎との隙間を磨くことも大切。隙間に詰まりを感じる部分は絶対に汚れているので、重点的に磨いてください」

力の入れ過ぎに注意

本人はしっかり歯磨きしているつもりでも、汚れが落ちきっていないのは「あるある」だ。

「特に間違った歯磨きに多いのが“力の入れすぎ”。歯ブラシの毛先が開きすぎて歯にしっかり当たらず、プラークがうまく取れません。だから、力加減は歯ブラシの毛先が潰れない程度を意識すること。どうしても力が入ってしまう人は鉛筆を握るように歯ブラシを持つことで、力をコントロールしやすくなります」(茨木さん・以下同)

ブラシをゴシゴシと歯に当て「磨いた気になって」満足している裏で、口腔内の状況が悪化しているケースは意外に多い。

「“年のせいで歯茎が減り、しみるようになってつらい”と言って受診された患者さんがいました。歯磨きの仕方を見せてもらったところ、硬い歯ブラシでガシガシと音が鳴るくらい強く磨いていましたが、汚れは落ちておらず、虫歯と歯周病を併発していました」

歯ブラシ中のイメージ
ゴシゴシ磨いているから大丈夫と思っていませんか?(Ph/イメージマート)
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ほどよい力加減の目安は、歯にブラシを当てたときに、毛先が広がらないこと。

「歯ブラシは1か月に1回替えるのが基本ですが、きちんとした歯磨きができていれば1か月使ってもそれほど毛先が広がることはありません。使い始めてすぐに毛先が広がってしまう人は、明らかに力の入れすぎです」(照山さん・以下同)

ヘッドは親指の爪と同じサイズで

また、歯ブラシを選ぶ際、ヘッドの大きさや毛の硬さに悩む人は多いだろう。

「大前提として口の大きさは十人十色なので、自分の口のサイズに合わせたものを。ヘッドが親指の爪と同じサイズであることがひとつの目安です。硬さは普通から柔らかめくらいがいいでしょう」

「歯磨き=歯ブラシ」との思い込みも大きな間違い。歯磨きの際に「絶対に必要」と専門家が口を揃えるのが、デンタルフロスや歯間ブラシなどの補助的清掃用具だ。

「歯と歯の間のプラークをどれだけ除去できるかを調べた研究によると、歯ブラシだけでは61%しか汚れを取ることができませんでしたが歯ブラシにデンタルフロスを追加すると61%が79%に上がった。歯間ブラシを加えた場合は85%まで除去率が上がることがわかりました」(茨木さん)

使う順序は、「歯ブラシよりもフロスや歯間ブラシが先」が鉄則だという。

「フロスや歯間ブラシを使って歯の隙間を掃除してから歯ブラシで磨くのが、いまのスタンダードです」(照山さん)

フロスが先。歯磨きは3分。うがいは1回

先にフロスや歯間ブラシで汚れをしっかり取っておけば、後の歯磨きは「3分で充分」というわけだ。清掃用具と同じくらい使い方が結果を左右するのは歯磨き粉。虫歯予防に役立つフッ素など、さまざまな薬効成分が含まれている。

「そうした薬効成分を洗い流さない目的から、うがいは1回で大丈夫です。うがいをたくさんしないとスッキリしないという人は、仕上げにマウスウォッシュやフッ素洗口液でフォローしましょう」(茨木さん)

フロスは歯磨き後ではなく前にするのが正解
フロスは歯磨き後ではなく先にするのが正解(Ph/PIXTA)
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「3分歯磨き」の主な動作

「時計回りで磨く」など順番をきちんと決めておくこと。ルールを作ることにより、磨き残しが減る。

自分流の歯磨きの順番を決める
自分流の歯磨きの順番を決める(イラスト/黒木督之)
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1本ずつ横にずらしながら磨いていく。歯だけではなく、歯茎との隙間を磨くのも重要。力加減は歯ブラシの毛先が潰れない程度で。

歯だけでなく歯茎との隙間も忘れずに磨く
歯だけでなく歯茎との隙間も忘れずに磨く(イラスト/黒木督之)
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ブラシを歯に対して直角に当てるのが「スクラビング法」。場所によっては当て方を変えるのが重要。磨きにくい奥歯は45度に当てる「バス法」で。歯茎との隙間に詰まりを感じる部分は重点的に。

「スクラビング法」と「バス法」を使い分けて歯磨きをしよう
「スクラビング法」と「バス法」を使い分けて歯磨きをしよう(イラスト/黒木督之)
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* * *

歯磨きのタイミングと回数は、「毎食後、1日3回」が推奨されている。食べかすを歯に付着させたままにしておくと、細菌がそれをエサに増殖し、プラークの原因となるからだ。

「食べ物が口に入ったらすぐに磨くのが基本です。特に就寝時は菌がいちばん増えるので、最も重視してほしいのは夜の歯磨き。夜にしっかり汚れを落とすことができれば、時間のない朝と昼はちゃちゃっと、という選択肢もアリ。

食事の時間以外に飲み物を飲んだときも、とりあえず水で洗い流すという意識が大事なポイント。ジュースを飲んでそのまま口をゆすがないのは、砂糖水に歯を漬け込んでいるようなものです。コーヒーの場合でも、歯の黄ばみを防ぐためには、すぐに水を含むかうがいをする方がいい」(照山さん)

正しい歯磨きを身につけて、100年使える歯をキープしよう。

イラスト/黒木督之 写真/ピクスタ

※女性セブン2024年5月23日号

●「歯茎痩せ」は間違ったブラッシングも原因!歯磨き習慣の改善、食べ物で予防する方法も

●【これ買ってよかった】アラフィフ女性は歯周病の進行に注意!「歯垢を落とす」のに歯磨きマニアがおすすめする歯磨き剤は?

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