近年、炊飯器業界は、よりおいしいご飯を炊くためにしのぎを削っています。その方法やご飯のでき栄えはメーカーやモデルによってさまざまですが、ひそかに注目されているのが、シャッキリして弾力のある“粒立ち”ご飯を追求した、「非圧力IH式」と呼ばれる炊飯方式です。
そもそも、「IH式」とは? 圧力をかけるのとかけないのとでは、何が違うのでしょうか? 家電ライターの田中真紀子さんに教えてもらいました。
今の炊飯器は「圧力IH式」が圧倒的に多い
まずは基本的なことからおさらい。ご存じの通り、炊飯器は大別すると「マイコン式」と「IH式」があります。
「『マイコン式』は、価格帯が数千円から1万円未満の安価なモデルに多い炊飯方式です。電熱ヒーターが釜の底面にしかないため火力が弱く、全体的に熱が通りにくく熱ムラが起きやすいため、炊き上がりもいまひとつの傾向に。一方、『IH式』は内釜全体を発熱させるため、高い火力で内釜の中をムラなく温められ、よりおいしく炊き上げることができるのです」(田中さん・以下同)
そして、このIH 式に付加された機能が「圧力」です。
「内釜を密閉状態にして圧力をかけることで100℃以上の高温状態を作り、お米の芯までしっかり加熱。その結果、甘みともちもちした食感を引き出すとされています。近年の炊飯器の多くは、圧力IH式を採用しています」
IH方式の中でも、あえて「非圧力」にこだわる理由
ところが、IH式の中でもあえて「非圧力」にこだわるメーカーもあるそう。その理由は?
「ご飯の味の好みは、実に千差万別。圧力をかけたIH式ならではの、甘くてもちもちした食感が好きな人もいれば、粘り気を抑えた、米のしっかりした粒感や弾力、存在感を楽しみたい人もいます。あえて『非圧力』にこだわっているのは、そんなニーズに応えているからです」
つまり、「非圧力」IH方式は、お米は「もちもち」派より「シャッキリ派」な人におすすめといえるようです。ただし非圧力なら何でもいいわけではないといいます。
「機能が低くて圧力を搭載していないものと区別するため、価格は5万円以上が目安、かつ、あえて『非圧力』をうたっているかどうかをチェックしたいところです」
例えば、次のような「非圧力」IH方式なら味も間違いないと田中さんが言います。
【1】三菱電機『本炭釜 KAMADO NJ-AWB10』
最上位モデルに、非圧力の炊飯器を採用している三菱電機。
田中さんによると、三菱電機は非圧力にこだわりを持つメーカーの代表格だそう。非圧力にすることで、どのようにおいしさが引き出されているのでしょうか?
シャッキリしたほどよいかたさと甘みを兼ね備えた、絶秒な粒感
「かまどで炊いたご飯がおいしいのは、米粒全体がうまみを閉じ込める“保水膜”という膜に覆われているから、というのがメーカーの着眼点。ただ、圧力をかけると保水膜が少し崩れてうまみが流れ出てしまうのが難点でした。そこを非圧力方式でカバーしたのが、本製品。さらに、お米の芯まで熱を伝えるため、内釜には、素早く発熱し熱ムラを抑える本物の炭(※1)を使用しています」
※1 木炭や竹炭とは異なる炭素材料(純度99.9%)を使用。
その結果、一粒一粒がシャッキリした、ほどよいかたさ。それでいて、噛むとしっとりして柔らかく、甘みがある。そんな、ご飯本来の粒感が実現したのだそう。
本製品には、全国50銘柄の米を炊き分ける「銘柄芳潤炊き」機能のほか、「まとめ炊き(冷凍用)」モードという便利機能も。
「近年、ご飯を多めに炊いて冷凍しておき、必要なときに解凍する家事方法が、時短ワザとして定着していますよね。このモードでは、時間をかけてじっくり吸水し、甘みを引き出し芯までみずみずしく炊き上げることで、冷凍してもおいしさをキープします。
保水膜に覆われているため解凍しても粒立ちのよさはそのままで、お弁当にもぴったり。外見的にも、丸みのあるデザインがかわいらしいと評判です」
【2】アイリスオーヤマ『瞬熱真空釜 IHジャー炊飯器5.5合』
ムラなく均一に加熱するために米を“おどらせて”炊く炊飯器は多いです。
そんな中、あえて逆の手法で炊飯しているのが、こちら。
粒立ちの良さを追求した“おどらせない”炊飯器
「個性的な炊飯器を次々に登場させているアイリスオーヤマ。今年8月に発売した炊飯器も、かまど炊きのおいしさを追求した結果、“おどらせない”で炊く方が米が傷つかずに、粒立ちのいいツヤのあるご飯が炊けるとして、非圧力IH方式を採用しています。
では釜全体に熱を伝えるためにどうしたのか? そこがアイリスオーヤマのユニークなところ。炊飯釜に、同社がLED照明技術で培った熱伝導技術『ヒートパイプ』を採用することで、釜全体を高速に、かつ同じ温度で均一に加熱することに成功。釜の中で対流による摩擦が起こらないため、米が傷つかず、粒立ちがよくうまみを閉じ込めたご飯が炊きあがります」
アイリスオーヤマ独自の便利機能も、そのまま搭載。
「例えば、お米の分量に合わせて必要な水量を自動計測してくれる『量り炊き』、お米の特長に合わせて炊き上げる『銘柄炊き』、器によそったご飯のカロリーの目安を表示する『カロリー計量』、低糖質ご飯や雑穀類が炊ける『ヘルシーメニュー』など。アイリスオーヤマの中では上位モデルですが、10万円近い高価格な炊飯器が多い中、6万円前後という価格も魅力です」
IH式の中でも少数派な「非圧力」方式を採る炊飯器。普段は「もちもち派」の人でも、試してみる価値はあるかもしれません。
◆教えてくれたのは:家電ライター・田中真紀子さん
白物家電・美容家電を専門とするライター。雑誌やウェブなどの多くのメディアで、新製品を始めさまざまな家電についてレビューを執筆している。https://ameblo.jp/makiko-tanaka89/
取材・文/桜田容子
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