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《仕事か?子育てか?の悩みへの回答》薄井シンシアさん「人生は長距離マラソン。水を飲み、バナナを食べてからレースに戻ってもいい」

薄井シンシアさん
薄井シンシアさん「人生は長距離マラソン。水を飲み、バナナを食べてからレースに戻ってもいい」
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薄井シンシアさん(65歳)は17年間の専業主婦を経て再就職。2024年5月に外資系IT企業を定年退職し、6月から嘱託社員として働き始めた。最近、街中で若者に話しかけられることが増えたというシンシアさんの口癖は「子育ては期間限定」。20代でキャリアをすっぱり捨てて専業主婦になったシンシアさんが、仕事か? 子育てか? と悩む世代や、彼らをサポートする親の世代に伝えたいメッセージとは?

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現在にすべてを詰め込む必要はない

《30歳に専業主婦になったため、20代から作り上げたプロフェッショナルの自分を失ったが、子育て後に取り戻した。人生100年と言われている今。人生は長くなったが、子育ては期間限定。子どもはあっという間に大人になり、共に過ごせる時間は限られている。子どもである時間を楽しまなきゃ!》(2024年6月14日、シンシアさんのX〈旧Twitter〉より)

多くの女性は子どもができると、キャリアを取るか、子育てをするか、どちらも中途半端になるか、で悩みますよね。でも人生って本当に長い。だから焦らないで、一つずつ終えていく選択肢だってあると思います。

言い方を変えると、60歳になってから、次に何をしようと考えるのではなくて、もっと手前の30~40歳で、これから30~40年間で何をしようかと考える。いまの場所にすべてをギュッと詰め込んで慌てるのではなく、人生は長いから、スピードを緩めたり、スピードアップしたりと調整すればいい。

本当に必要な生活費を計算したの?

大手メーカーを退職して専業主婦になったある女性は、元の職場から「戻ってこないか」と言われるほど有能です。でも、「小学生のうちは、子どもと向き合う時間を優先したい」と自分の意思で専業主婦を続けています。

その代わり、暮らしは一変して外食をしなくなったそうです。家族3人で外食をしても、せいぜいマクドナルドやリンガーハット。でも彼女は、外食できるように共働きするより、子どもとの時間を大切にしたい。ただ、周りの共働きしている人から「ずるいよね」と言われることもあるそうです。彼女のどこがずるいんですか? 彼女は生活レベルを落として工夫しているのに、そこがフォーカスされていないんですよ。

薄井シンシアさん
本当に必要な生活費を計算したのか?
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共働きに悩む母親から相談を受けるとき、「あなたは本当に必要な生活費を計算したの?」と思うことがあります。子育て期間中は、外食や旅行の回数を減らして生活レベルを落とす代わりに、子どもとじっくり向き合うという選択肢だってあると思います。

これからウェブサイトで、専業主婦を選んだ人たちの話を発信しようと思っています。「裕福だから専業主婦になれるんだ」と嫉妬したり、誤解したりしている人もいるでしょう? でも主婦になった人は無駄な支出を減らして、やりくりしているんですよ。そうやって専業主婦をしている人は、会社に戻れる自信があるから、今は生活費を切り詰めてでも専業主婦をしているのだと思います。

私の考えが若者にも刺さり始めた

先日、ダイソーで安い植木鉢を見ていたら、30歳の女性から「シンシアさんですか?」と話しかけられました。彼女は2か月前に結婚して、旦那さんの仕事の都合で九州に引っ越すそうです。ネットの記事で、私の「Retire Now Work Later(一時期リタイアし、また働く)」という考えを知り、「こういう生き方がいいな」と会社を辞めたそうです。すごく面白い子だったので、後日、1時間ほどお茶をしたら、イラストが上手だと聞いて、今度、コラボしようという話になりました。

午後10時頃、道端で20代ぐらいの女性に話しかけられたこともあります。「なんで若い子が私を知っているの?」と聞いたら、高校時代に父親の雑誌で私の記事を読み、「この人の生き方をしたい」と思ったそうです。雑誌が出たのは数年前。彼女は学校を卒業して就職した今も「ストレスや負担を抱えずにすべてを手に入れたシンシアさんの生き方が魅力的」と言ってくれるわけ。後日、彼女と彼女の30代の友人2人と一緒に食事をしました。

職場で27歳の女性から声をかけられたこともあります。彼女は学生時代に美容院で、私が出た雑誌を読んで「この生き方がいい」と思ったそうです。彼女は私と話した2、3週間後に退職して次のステップへ進むと話していました。

エレベーターで若い女性に話しかけられたこともあります。彼女は海外駐在が決まって悩んでいたので、先日、私が駐在妻を集めた会を開いたときに誘いました。駐在妻たちの経験を聞いて安心した様子でした。最近、私の考えは 若い世代にも刺さっているんだな、と感じることが増えています。

水を飲み、バナナを食べてからレースに戻ればいい

現代の「ワークライフバランス」はスポーツに例えると、平均台の上を歩く体操選手なんですよ。だから、落ちたらアウト。

イラスト
ダイソーで声をかけてくれた女性が手掛けたイラスト
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私は、そんなものは初めから嫌だと拒みます。私の人生の考え方は長距離マラソン。自分のペースで出場して、水を飲んでバナナを食べて、またレースに戻ればいい。走るスピードだって、自分で緩めたり上げたりすればいいと思わない?

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◆薄井シンシアさん

薄井シンシアさん
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1959年、フィリピンの華僑の家に生まれる。結婚後、30歳で出産し、専業主婦に。47歳で再就職。娘が通う高校のカフェテリアで仕事を始め、日本に帰国後は、時給1300円の電話受付の仕事を経てANAインターコンチネンタルホテル東京に入社。3年で営業開発担当副支配人になり、シャングリ・ラ 東京に転職。2018年、日本コカ・コーラに入社し、オリンピックホスピタリティー担当に就任するも五輪延期により失職。2021年5月から2022年7月までLOF Hotel Management 日本法人社長を務める。2022年11月、外資系IT企業に入社。65歳からはGIVEのフェーズに。近著に『人生は、もっと、自分で決めていい』(日経BP)。@UsuiCynthia

撮影/小山志麻 構成/藤森かもめ イラスト/末宗由奈

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