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真木よう子の“表情の力”に息をのむ 映画『アンダーカレント』は新たな代表作に 

真木よう子の新たな代表作に

真木さんはこれまでに数多くの映画やドラマに出演し、日本のエンターテインメント界の中核を担ってきました。彼女の代表作は何かと問われれば、あなたは何と答えるでしょうか。

彼女が主演を務め、各話ごとに異なる脚本家や演出家とタッグを組んだ『週刊真木よう子』(2008年/テレビ東京系)、坂本竜馬の妻を演じた大河ドラマ『龍馬伝』(2010年/NHK総合)。あるいは、『最高の離婚』(2013年/フジテレビ系)や『問題のあるレストラン』(2015年/フジテレビ系)も放送当時に大きな話題となりました。

映画『アンダーカレント』場面写真
(C)豊田徹也/講談社 (C)2023「アンダーカレント」製作委員会
写真17枚

映画ではやはり、国内外で高く評価された『ゆれる』(2006年)や『さよなら渓谷』(2013年)あたりでしょうか。ともあれ、観客/視聴者それぞれ異なる作品が思い浮かぶと思います。主要キャラクターの一人として出演した『次元大介』の配信も、Amazon Prime Videoにてスタートしたばかりです。

時代劇から“いま”を捉えた現代劇まで、エンタメ色の濃いコメディ作品から、作家性の強いシリアスな作品まで。ジャンルに囚われることなく真木さんは各作品に適応し、パフォーマンスを展開してきました。

映画『アンダーカレント』場面写真
(C)豊田徹也/講談社 (C)2023「アンダーカレント」製作委員会
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俳優デビューから20年を超えたいま、そして、おそらく多くのかたが彼女の代表作として挙げるであろう『さよなら渓谷』から10年を経たいま、この時代を代表する映画作家である今泉監督と真木さんがタッグを組んだことは必然のように思います。本作は間違いなく、彼女の新たな代表作として語られることでしょう。

表情の力に思わず息を呑む

映画の冒頭では、タイトルである「アンダーカレント」という言葉の意味が示されます。一つは“下層の水流、底流”で、もう一つは“(表面の思想や感情と矛盾する)暗流”というものです。

映画『アンダーカレント』場面写真
(C)豊田徹也/講談社 (C)2023「アンダーカレント」製作委員会
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人間の心というのは、まさに「水」のようなものではないでしょうか。清らかに流れることがあれば、ときには濁流のようになり、澱んでしまうことだってある。真木さんが演じるかなえの心の奥底にもこの水が流れていて、他者と交流するたびにその状態は変化します。

そしてこのような変化というのは、取り繕おうとして取り繕えるものではないように思います。そのさまを、真木さんは表現してみせているのです。

映画『アンダーカレント』場面写真
(C)豊田徹也/講談社 (C)2023「アンダーカレント」製作委員会
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いくつかのシーンに見られる彼女の表情には、思わず息を呑んでしまいます。目は虚ろで、全体的に硬直し、まるで魂が抜けてしまったかのよう。フタをしていたはずの感情に思いがけず触れたとき、かなえの魂はいま/ここではないどこかを彷徨っている。

映画『アンダーカレント』場面写真
(C)豊田徹也/講談社 (C)2023「アンダーカレント」製作委員会
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この表情を目にしたとき、私たち観客は“真木よう子=かなえ”の心に触れることができます。彼女の表情には、そんな力すら感じるのです。

人をわかるってどういうこと?

劇中に「人をわかるってどういうことですか?」という印象的なセリフが登場します。この問いかけそのものが本作の主題であり、ハッとさせられるかたは少なくないことでしょう。筆者もそんな一人です。

映画『アンダーカレント』場面写真
(C)豊田徹也/講談社 (C)2023「アンダーカレント」製作委員会
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この作品が描いているのは、生きるために嘘をつく人々の物語でもあります。誰だって自分を守るため、心にフタをしていることがあるのではないでしょうか。このフタを外すことができれば、もう少し生きやすくなるかもしれない。そのためには、心を許すことのできる他者の存在が必要です。

映画『アンダーカレント』場面写真
(C)豊田徹也/講談社 (C)2023「アンダーカレント」製作委員会
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SNSなどにより、簡単に他者のことを理解した気分になれてしまうこの時代。鑑賞後、湖の底へと沈んでいくような余韻の中、「人をわかるってどういうことですか?」という言葉が何度も脳内で反響します。

◆文筆家・折田侑駿さん

文筆家・折田侑駿さん
文筆家・折田侑駿さん
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1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。https://twitter.com/yshun

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