エナジードリンクの多用について農水省が5月に警鐘を鳴らしたが、それに加えて、夏場に多飲しがちなスポーツドリンクの問題を指摘するのは、糖尿病専門医の牧田善二(73歳)だ。新著『疲れない体をつくる最高の食事術』で、医学的な観点から疲労や肥満、老化につながる飲食物の問題点を具体的に提言する牧田医師だが、中でも「取るべきではない食材」があるという。
* * *
慢性的な疲労に導く甘い物の“負の連鎖”
疲れを感じたときに、なにか甘い物を欲しがる人が結構います。みなさんも覚えがあるかもしれません。そんなときは、手軽なコンビニスイーツや和菓子、あめ玉、ジュース、缶コーヒーなどを口にして、ほっと一息つくことでしょう。
たしかに、人間は甘い物を食べると瞬間的に元気になります。でも、それは肉体的疲労が消えたわけではありません。急激に血糖値が上がり、ドーパミンやセロトニンといったホルモンが分泌されることで脳が高揚感に包まれているだけ。要するに、脳が騙されているわけです。
しかも、それこそがみなさんを慢性的な疲労に導いてしまうのです。甘い物を摂ったときの効果は短期的で、元気になるのは一瞬です。その後は、血糖値の乱高下による疲れがどっと出ます。そして、あたかも薬が切れた薬物依存患者のように、甘い物が欲しくてたまらなくなります(別掲図【1】【2】参照)。
つまり、「疲れた」→「甘い物を食べよう」→「さらに疲れた」→「もっと甘い物を食べよう」という負の連鎖に、多くの人がからめとられているわけです。甘い物は、疲れたときの救世主ではありません。救世主の仮面を被った“悪魔”だということを、まずはしっかり覚えてください。
加えて、より重要なのは、その負の連鎖を引き起こすのは、実は「甘い物」だけではないということです。米飯やパン、麺類といった炭水化物も糖質の塊であり、重度の慢性疲労を引き起こす犯人です。
また、コンビニや薬局で売られている、栄養ドリンクやエナジードリンク、スポーツドリンクにも糖質がたっぷり含まれます。「眠気を吹き飛ばそう」「もうひと頑張りしよう」という目的で飲むのは、明らかに逆効果。元気になった錯覚を起こしているだけです。
みなさんの慢性疲労をつくりだしているのは、自分の体に対する誤解、それも「よかれと思っての誤解」がほとんどです。言い方を変えれば、その誤解を解いていけば、すっきり快適な体が手に入ります。
野菜ジュースや果汁100%も糖質だらけ
疲れ知らずで健康な体を保ちたいと考えたときに、絶対に摂るべきではない食材の代表が「液体の糖質」です。具体的には、液体に大量の糖質が溶け込んでいる清涼飲料水、缶コーヒー(無糖タイプを除く)、エナジードリンクなどです。
「○種類の野菜が摂れる」という売り文句の野菜ジュースや、果汁100%の果物ジュースも同様で、非常に多くの糖質を含んでいます。私自身、こうしたものは一切、口にしません。私の水分補給は、もっぱらミネラルウォーターで行っています。
ではなぜ、そこまで液体の糖質を避けるのか。
同じ糖質でも、米飯やパンのような固形物なら、嚙んで、胃で消化して……という時間がかかるため、血糖値の上昇も比較的緩やかです。ところが、液体だと消化の手間がいらないため、すぐにドカンと血糖値を上げてしまいます(別掲図【3】参照)。
この急激な血糖値上昇現象を、専門的には「血糖値スパイク」と表現します。血糖値スパイクが起きると、上がりすぎた血糖値を下げるために、膵臓からたくさんのインスリンが分泌されます。そして、そのインスリンの作用で、今度は血糖値が下がりすぎ、疲労感や吐き気などの症状を引き起こすわけです。
血糖値スパイクを頻繁に起こしていると、そのたびにインスリンを大量に分泌する必要があり、次第に膵臓が疲弊していきます。やがて、疲れきった膵臓の働きが悪くなって、インスリンを出すタイミングが遅れます。すると、血糖値を下げることが難しくなり、糖尿病を発症します。
つまり、液体の糖質は、慢性疲労の原因になるだけでなく、糖尿病に罹りやすい危険な食材なのです。糖尿病に罹れば、その合併症で腎臓がやられ、さらに疲れやすい体になります。