家事・ライフ

専業主婦から46才で大学入学、61才で作家デビューした桐衣朝子さん「40代、50代なんてまだまだ鼻垂れ小僧」

桐衣朝子さん
専業主婦から46才で大学に入学、61才で小説家デビューした桐衣朝子さん
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専業主婦から46才で大学に入学、61才で小説家デビューした桐衣朝子さん(73才)。その後は人気コミック『4分間のマリーゴルド』(作者は桐衣さんの娘であるキリエ姉妹)のノベライズを手がけるなど、年齢にとらわれずに人生を切り開き、7月30日には新刊『赤パンラプソディ』(小学館)を出版した。今回、専業主婦時代はワンオペ育児や病気なども経験し決して順風満帆ではなかったという桐衣さんに、数々の荒波を乗り越え、自分らしい生き方を手に入れた秘訣をインタビュー。第1回は、専業主婦時代から40代で再就学するまで人生を振り返ってもらった。【前後編の前編。後編を読む

ワンオペ育児でうつや強迫性障害に苦しんだ時期も

「夫は好き勝手する人で10年以上家に帰ってこなくて、子育ては完全にひとり。その上、娘たちは体がとても弱く虚弱児でしたから、孤独と不安な毎日の中でうつ症状が出たことも。2人目を出産したときには強迫性障害に苦しみました」と桐衣さんは専業主婦時代を振り返る。

歯科衛生士などの仕事を経て28才で結婚し専業主婦になった桐衣さんは、2人の娘に恵まれた。しかし、夫は家庭を顧みないタイプだったため、誰にも頼れず不安な中で子育てをしていた。

「娘が熱を出して寝ずの看病が続いていたとき、車を運転して薬をもらいに行く途中、向こうから青いダンプカーが走ってきた。そのときに、『今、ハンドルを切ったらダンプとぶつかるなぁ、もう大変な思いをしなくて済むなぁ』って思ったことをはっきり覚えています。

すごく追い詰められていたんですよね。当時を振り返ると、娘たちにも『お母さんは笑わない人だったよね』って言われるんです」(桐衣さん・以下同)

そこまで苦しい時期があったにも関わらず、乗り越えられたのは妄想好きな性格のおかげだとか。

「私、妄想族なんですよ(笑い)。夫は“問題児”で家にいませんでしたから、いつかマイケル・ジャクソンが迎えに来てくれるとか、ケビン・コスナーが来日したときに偶然出会って恋に落ちて…なんて妄想するんです。妄想って人を救ってくれる。それで乗り切れたというのはありますね(笑い)。

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今も子育てに悩んでいる人はたくさんいると思うんです。大変さがわかるからこそ本当に励ましてあげたくて。うちの娘たちは、今ものすごく親孝行してくれるんですが、子供は親の苦労を見ているもの。今は大変でもいつか子供からお小遣いをもらえる日が来るから頑張ってほしいです」

あきらめていた夢を叶えようと40代で大学受験

桐衣さんに転機が訪れたのは40代半ばのこと。「母親がこんな暗い気持ちで生きていたら、娘たちが不幸だ」という思いから、自分がどうしたら幸せになれるのかを考えた。

「私は勉強がしたかったということに気づきました。娘たちには、『夢を持って叶えるために頑張ることが大事』と話しているのに、私は10代で夢をあきらめてしまった。勉強が好きで大学に行きたかったのですが、家の経済的な理由で断念していたんです。

だから、『よし、勉強するぞ! 大学に入ろう』と突然思い立って、福岡大学に話を聞きに行ったら受験日まで半年くらいしかなくて死に物狂いで勉強しました。

社会人入試制度の試験は英語と小論文、面接。書くことは好きだったので小論文で点数を稼ぎ、面接で熱意を一所懸命に伝えればなんとかなるかなと(笑い)。ありがたいことに合格できました」

家事と勉強漬けの毎日でも楽しかった大学生活

46才にして見事、福岡大学に入学。主婦としての仕事もこなしながらの学生生活だったが、「大学生になって世界が変わった」と桐衣さん。

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「娘たちは中学生だったのでお弁当作りや塾の送り迎えなんかもあり、朝は5時半起き。好きだった小説を読む時間がないほど家事と勉強漬けの毎日で、休日らしい休日はなかったですね。

一度過労で倒れたんですけど、病院で点滴を受けて大学には休まずに行きました。教授に『大変そうだけど楽しんでますか?』と聞かれ、『人生で今がいちばん楽しいです』って答えたら、すごくびっくりされました(笑い)。10代の子たちと机を並べて勉強するのは本当に刺激的な経験でした。

それに、私は専業主婦でお金を借りても返す術がなかったので、なんとしても特待生になって奨学金をもらおうという気持ちもあって必死で勉強しました」

根拠のない自信のおかげで自分らしい人生に

勉強の甲斐あって学科トップの特待生となり、52才で九州大学大学院へ進学。アラフィフとは思えないエネルギッシュさで夢を実現し、自分らしい生き方を手に入れた。

「私を知らない人は、私のことを『特別な人』だと思うかもしれませんね。でも、全く特別じゃない。もし何かがあるとすれば、根拠のない自信。あまり深く考えずにとりあえずやってみたらいいと思うんです。

私は小さい頃から虚弱児でしたし、25才の頃には難病で1年間入院もしました。丈夫な体と強い精神があったわけじゃない。そんな私にできたのだから誰にでもできます。

『もしも40代に戻してくれるなら全財産をあげる』とおっしゃった大富豪がいるのですが、40代、50代なんてまだまだ鼻垂れ小僧。『もうおばさんだから』なんてあきらめないで夢を追いかけてほしいですね」

◆桐衣朝子さん

きりえ・あさこ。1951年大阪府生まれ。福岡県在住。福岡市の高校を卒業後、歯科衛生士などを経て28才で結婚。専業主婦となり2人の娘を育てる。46才で社会人入試で福岡大学入学、52才で九州大学大学院に進学。59才のときに乳がんが発覚したことをきっかけに小説家を目指す。第13回小学館文庫小説賞受賞し、61才で受賞作『薔薇とビスケット』(小学館)で作家デビュー。著書に、実の娘で漫画家のキリエ原作の『4分間のマリーゴールド』ノベライズ、『僕は人を殺したかもしれないが、それでも君のために描く』があり、最新刊『赤パンラプソディ』が7月30日に発売。

撮影/眞板由起 取材・文/青山貴子

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