94才にして血管年齢20才、基礎代謝などで測る体内年齢は36才と、脅威の若さを保つ “スーパーおばあちゃん“こと佐藤ヒデさん。若さの秘訣を聞くと、「毎朝ラジオ体操」「お風呂で運動」「22時就寝」「サプリメントはのんだことがない」と、さまざまな習慣が明らかに。若く健やかに生きるヒントが満載の「ヒデさん流・長生きルーティン」を紹介する。【前後編の後編。前編を読む】
きょうだいが教えてくれた「前を向く生き方」
岩手県高田町(現・陸前高田市)出身の佐藤さんは、1930年、7人きょうだいの6番目に生まれた。世界恐慌の波が日本を襲い、戦争へと歩みを進める時代。6才のときに満洲に赴任していた父が事故で亡くなり、家計を支えるために、学校を出たばかりの姉や兄がアイスキャンデーの事業を始めた。佐藤さんは当時をこう振り返る。
「まだ幼い私は遊んでばかりいたけれど、姉たちは生活費を稼ぐために毎日必死で働いていました。努力のかいがあって事業は拡大し、食品の卸業やスーパーを経営するようになっていくけれど、母やきょうだいの背中を見ながら育ったことは、私の生き方に大きく影響していると思う。
前向きで愚痴ひとつ言わず、がむしゃらに働く姿を忘れることはありません。だから東日本大震災の津波で家が流されたときも、きょうだいの顔が浮かんできた。姉や兄ならこんなことで泣き言を言わないはずだと思ったら、自然と体が動いて、片づけをしていたんですよ」
結婚は30才のとき。夫が銀行員だった佐藤さんは、2人の子供を育てながら転勤で40回ほど引っ越しを繰り返し、行く先々では率先して近所を掃除したり、銀行の顧客を自宅に招いた。人の世話を焼くのが好きで、交友関係が広い佐藤さんの自宅には、いまも1日2人は茶飲み友達が訪れる。
「おしゃべりしていると、あっという間に2時間、3時間と過ぎていくんですよ。94才にもなると、新しい情報に触れることが難しくなるけど、若いお友達がいるのでいろんなことを教えてもらえる。この前は『YouTubeをやってみたら?』と言われて、『それって何?』と甥に教えてもらいました。
お友達との会話についていくために、話題のドラマを見たり本を読んだりもします。テレビを見て“最近はこんな嫁姑問題があるんだ”って気づくこともある(笑い)。特にNHKの朝ドラは毎日欠かさず見ています」(佐藤さん・以下同)
震災で被災したときに始めた「ちりめん人形」作り
気になることがあればどんどんチャレンジするのも、佐藤さんのモットーだ。東日本大震災で被災して公民館に避難していたときは「ちりめん人形を作らない?」と声をかけられ「作る!」と即答。これまでに7000体以上もの人形を製作。6年前には、88才にして、未経験から洋裁を始めた。
「地域のコミュニティーセンターで、洋服のリメイク教室が始まると聞いて、『じゃあ、やってみる!』という感じで、ミシンを買って始めました。私は人より冒険心が旺盛で、いつもそんな感じなの。生地の裁断方法も知らなかったけど、『できるか、できないか』ではなく『とりあえずやってみる』ようにしているんです。この前はコートを作りました。できた洋服を部屋に飾っておくと、遊びに来た友達が『あら、素敵ね』と言って、着てくれる。洋服はプレゼントして、お金をいただくことは絶対にしません」
いまでは3日あれば、洋服が1着作れるという佐藤さん。新しいことにチャレンジし、手先を動かすことは、認知症予防にもつながっているようだ。
高齢者ほど趣味を広げて
秋津医院院長で総合内科専門医の秋津壽男さんが語る。
「佐藤さんが作っている服はどれもセンスがある。デザインが次々と浮かぶのも、脳が健康な証です。高齢者ほど趣味を広げるべきだといわれていますが、実際に実行に移せる人は多くありません。佐藤さんのように、ためらわずに何でもチャレンジしてほしい」
取材中は笑顔を絶やさず、人への感謝の言葉しか口にしない。震災で多くの人に支えられた経験もまた、佐藤さんの「生きる原動力」になっている。
「震災直後は、たくさんの人がバスやトラックにガスや魚や肉を積んで、慰問に来てくれました。そんなかたたちの行動力を目の当たりにしたときに、年齢に関係なく、強い気持ちで行動することが大切だと学びましたね。
私はね、嫌なことがあっても、あんまり考えすぎることがないの。悩まずに邁進すると、気持ちが晴れやかになるんです」(佐藤さん)
秋津さんは「こうした苦労に負けない前向きさも、若さの理由」だと分析する。
「どんなときも常に前向きな人は、免疫力が高い。ポジティブシンキングは免疫細胞を活性化して、がん予防につながるといわれています」(秋津さん)
佐藤さんは最近、新たに「切り絵」を始めた。約1m×4mの巨大な用紙には、色とりどりの落ち葉の切り絵がちりばめられている。
「いつか作品を市役所や駅舎に飾るのが夢。いまはひとりで作っているけれど、いずれは地域の高齢者を集めて、みんなで楽しく作りたい。下手だと笑われてもいいんです。地元の人が集まって元気な姿を発信していけば、昔のように賑わった陸前高田になると思うの。多くの人に助けてもらってここまで復興したという姿を、私たちお年寄りが率先して見せることで恩返しになる。それによって、地域の若者たちも活気づいていくと思うんです」(佐藤さん)
そう言って瞳をキラキラと輝かせる佐藤さんの夢は、彼女の健康寿命をますます延ばしてくれるだろう。
※女性セブン2024年11月21日号