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《認知症になった末の資産凍結を避けるために》「法定後見」「任意後見」「家族信託」認知症になる前に使える制度、なった後に使える制度の違いを徹底解説 

2024年9月に亡くなったピーコさん(右)とおすぎさん
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認知症になったら財産が凍結され、不動産も売却できない。そうした事態に陥らないためにやっておくべきことがある。大切な家族のため、そして何より自分のために、9月に亡くなった大山のぶ代さん(享年90)と、ピーコさん(享年79)から学ぶ「本当の対策」とは──。

大山さんの自宅は、2017年に大山さんの夫・砂川啓介さん(享年80)が死去して以降、空き家状態が続いている。大山さんの認知症が進行したこともあり、自宅を売却することができなかったようだ。また、砂川さんと大山さんの間に子供はおらず、かねて大山さんには身寄りがないとされており、相続できない状態となっている可能性が高い。

一方、ピーコさんが、双子の弟であるおすぎさん(79才)と一緒に暮らしたマンションは、2012年から名義上はおすぎさんが所有していたが、認知症の症状が出たピーコさんが施設に入ってから5か月後の2023年8月、無人となっていたマンションは売却された。関係者が、おすぎさんに成年後見人をつけたことで、売却ができたという。

2人の事例から「認知症になる前にやっておくべきこと」を学ぶ。【前後編の後編。前編から読む

認知症で判断能力が低下すると資産凍結に

ともに認知症の症状があったにもかかわらず、大山さんとは異なる道を辿ったおすぎとピーコさんの自宅マンション。その違いは、「認知症になる前にやっておいたこと」があったのかもしれない。

認知症になる前にやっておくべきこととは(写真/PIXTA)
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高齢化が進む日本は本格的な「認知症大国」となりつつある。認知症の患者数は年々増加し、65才以上の認知症患者は2020年に約602万人だったのが、2030年には約744万人に増えると予想されている。これは高齢者の5人に1人が認知症になるという計算だ。  認知症発症で判断能力が著しく低下すると、どのような弊害が生まれるのか。

司法書士法人宮田総合法務事務所の代表司法書士・宮田浩志さんが解説する。

「金融機関が本人の判断能力は不充分だと認識したことにより、預金や証券口座などの金融資産は名義人本人であっても自由に使えなくなり、家族でも引き出すことができなくなる“資産凍結”のケースが増えています。資産があっても、認知症を患った本人の介護施設への入所費用の捻出にさえ、苦労することも少なくありません。本人名義の自宅不動産などの売却もできず、空き家になるかもしれません」

資産凍結は、銀行の口座名義人などが認知症になった場合、判断能力が低下した名義人本人の財産を守るために行われる。詐欺や横領などの犯罪に巻き込まれることを避ける防御策なのだが、財産が自由に処分できないと大山さんやピーコさんのように、さまざまな不都合も生じる。

法定後見人による横領などの被害は約289億円

時に家族のいさかいも生みかねないが、こうした問題を解決する方法のひとつが「成年後見制度」だ。

これは、知的障害や認知症などで判断能力が充分でない人に法律上の代理人となる後見人がつき、財産管理や契約締結などを代わりに行う制度。

認知症になる前となった後では制度が異なる
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2000年に始まった同制度は2種類ある。認知症と診断される前に本人が希望する人物を後見人に指定できる「任意後見制度」と、認知症と診断された後に裁判所が選定する「法定後見制度」だ。

老後の資産問題に詳しいプレ定年専門のファイナンシャルプランナー・三原由紀さんが解説する。

「認知症と診断された後では、一般的には法定後見制度しか利用できません。家族や行政などが家庭裁判所に“成年後見の開始”を申し立てると、裁判所が後見人を選任します。後見人が決まれば、認知症を患った本人名義の自宅の売却や、銀行口座のお金を動かしたいときなどは、その後見人を通じて裁判所の許可を取る必要があります。後見人に家族が選ばれる確約はなく、多くの場合は本人と面識のない弁護士や司法書士が選任されます」

後見人には財産の総額に応じて月額2万~6万円の報酬が発生し、本人が亡くなるまで支払いが続く。法定後見人が第三者の専門家であることは、財産を巡って親族などが揉めることを避けられるのが最大のメリットだろう。

しかし、近年はトラブルが頻発している。

「法定後見人が勝手に預金を引き出して横領するなどの事件が増えているんです。認知症の人の銀行口座から、後見人としての報酬を自分でおろすことができるため、多めに引き出すことも可能。最高裁の調査によれば、2011年から2021年の10年間で、この制度による横領などの被害は約289億円にものぼる」(全国紙社会部記者)

「任意後見制度」と」「家族信託」のメリット、デメリット

そのような悪意ある第三者の関与を防げるのが、自分の意思で後見人を指定できる「任意後見制度」だ。ただし同制度を利用するには、認知症になる前に手続きをしておく必要がある。

「“事前に自分で”後見人を選べるので、信頼できる自分の子供を後見人に指定する人が多い。

しかも、指定した後見人が財産管理をスタートするのは本人が認知症になってからなので、認知症にならなければ、死ぬまで自分で財産を管理することができます」(三原さん)

後見人を指定するには認知症になる前に手続きをする必要がある (写真/イメージマート)
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ただし、任意後見人には家庭裁判所が選任した「任意後見監督人」が必ずつく。そのため、たとえば後見人になった子供が父親名義の自宅を売却したいと考えても、監督人に申し立てをして、家庭裁判所の判断を待つ必要がある。

さらに、詳細な財産の収支報告を裁判所に提出する必要があるなど、事務的な負担も大きい。子供を後見人にしたことで、認知症になった後に苦労をかけるのは気が引ける。そんな葛藤を抱える人も少なくないという。

第三の選択肢となるのが「家族信託」だ。

「家族信託とは、本人が持っている財産の管理を、認知症を発症する前に特定の家族に託す契約です。管理を託された家族は家族信託の専用口座から本人のために自由にお金を引き出すことができ、不動産の売却もできる。また本人の希望に応じて、不動産の買い替えや、投資など資産運用も可能です」(宮田さん)

ただし、「認知症になってから」管理が始まる任意後見制度とは異なり、家族信託は「家族間で信託契約を交わした時点」で管理がスタートする。元気なうちは自分で財産を管理したいと考える人も多いはずだ。

「家族信託では“信託する財産”と“最後まで自分で管理する財産”を分けることができます。たとえば預金3000万円のうち、500万円は自分で管理を続け、残りの2500万円だけを認知症発症後の資産凍結に備えて家族に託すことができます」(宮田さん)

認知症になってからでは後悔すらできない。いまのうちに、結論を出したい。

(了。前編から読む

※女性セブン2024年11月21日号

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