「後出しジャンケン」で弁護士会による処分
実は、一連の騒動の本質は、それらの“スパイ行為”が事実かどうか、ということだけではない。東京弁護士会と日弁連が、不正ととられかねない手段で入手された証拠をベリーベスト追及の材料に使っている――それこそが不可解な事態なのだ。
弁護士会は2016年9月にA氏による懲戒請求を受けた後、A氏が在職期間中にベリーベストに過払金請求の依頼をした顧客からの陳述書を根拠に、弁護士会独自の懲戒請求を行った。元顧客の陳述書は、具体的な情報の無い簡素なものであったが、直前にあったA氏による懲戒請求と一体化されたことで、情報が補強された形となった。
日弁連は日頃から原則的に、「違法に収集された証拠は刑事事件では無効である」と強く主張してきた。しかしベリーベストに対する懲戒では、不正が疑われる証拠を“フル活用”するダブルスタンダードの動きを堂々と見せた。
そもそも同じ東京弁護士会内の2つの委員会で、異なる見解が出された“混乱”も、そのあたりに理由がある、と多くの法曹関係者が見ている。つまり、昨年12月、綱紀委員会ではスパイ活動が事実認定されたが、1年後の今年11月の懲戒委員会でその事実認定が“保留”されたのは、今年6月にベリーベストへの懲戒を「妥当」だとする東京高等裁判所の判断が出されたことで、「懲戒の原因となった証拠が違法に収集されたものだと、弁護士会として認めるのは都合が悪い」という保身的な判断があったからではないか、ということだ。懲戒委員会で明確な反証がなされたわけでもないのに、綱紀委員会の判断が覆ったのは、異例のことだという。
しかも、そのベリーベストの懲戒処分のロジックは、憲法に抵触する「事後法」に該当するという指摘もある。前述の通り、司法書士からの案件引き継ぎのルール化は、司法書士の業界団体が求めても、日弁連があえてガイドライン策定を避けてきた「グレーゾーン」である。
今回の懲戒処分に関する訴訟では、日弁連は「取引履歴、引き直し計算データ等の引き渡しと依頼者及び事件の紹介とは、いずれかだけでは意味なく切り離せない」として、案件の引き継ぎで金銭が発生した場合、すべからく紹介料である、という解釈を「新たに」行ったという側面がある。このように、実行時には基準がないものについて、後になって新たな基準を作ってアウトだと認定して処罰することは、法律的には、事後法による遡及処罰といわれる。いわば「後出しジャンケン」である。
ベリーベストと弁護士会・日弁連の紛争は、裁判所に持ち込まれた。弁護士会による懲戒処分の取り消しを求める訴訟の場合、日弁連の審査請求が司法手続きに準じる「信頼性の高い手続き」として、一般市民のように地方裁判所から始めるのではなく、いきなり高等裁判所で審議が始まるという“特別ルール”が適用される。しかし前述の通り、日弁連は「違法収集が疑われる証拠」を使っていたり、「事後法」に該当しそうな判断をしていたわけで、「信頼性の高い手続き」ができる体制・制度なのかどうかには疑問が残る。
さらなる深刻な問題は、今年6月の高等裁判所の判決だ。それは日弁連による処分を追認するものだが、その判決には、原告であるベリーベストの主張についてほとんど判断しないものであり、日弁連におもねったものではないかと、疑問の声が上がっているのである。