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《血縁関係なくても、同じ墓に入る》「墓友」が注目される背景 子や孫の“縦のつながり”よりも友人などの“横のつながり”が求める人が増加 

エンディングセンターが行う合同祭祀「桜葬メモリアル」。年に1度、桜が咲く春に会員が集い、故人をしのぶ(写真提供/エンディングセンター)
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まったく別の人生を歩んできた者同士が「墓」を通じて出会い、「友」になる。家族という「血縁」に縛られず、出会いという「結縁」でつながっていく。死後の世界を共に生きる友人として「墓友(はかとも)」を持った人たちは自分の最期をどう決断し、その瞬間の心構えをしているのだろうか。【全4回の第1回】

見直されている「墓」との向き合い方

東京都町田市の閑静な住宅地。その戸建てに集う人々が口々に言う。

「さあ今日は、沢木耕太郎さんの本を読みましょう」

「これは旅の本だけど、私は山形を旅行したことがあるんですよ」

その家には多くの高齢者が訪れ、一緒に本を読み、懐かしの唱歌をハモり、ヨガや太極拳でリフレッシュし、それぞれの人生について語り合う。時には誰にも言えない不安を打ち明ける。そして、活動を終えるとそれぞれの家に帰っていく。

この家は“もう1つの”わが家であり、ここに集うのは血縁関係こそないが、死後に同じ墓に眠る「墓友」たちなのだ──。

多死社会を迎えた現在、「墓」との向き合い方が見直されている。

現在では墓との向き合い方が見直されている(写真/イメージマート)
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「核家族化の進行により、“あの世の住まい”である墓に対する人々の意識が大きく変わりました」

そう語るのは、シニア生活文化研究所代表理事の小谷みどりさんだ。

「いまはリアルの核家族化とともに“あの世の核家族化”も進んでいます。1980年代まで65才以上の高齢者の過半数を占めた三世代同居は、核家族化によって1割未満になりました。

もはや祖父母は家族ではなく親戚というイメージで、一緒に暮らしていない親戚と同じ墓に入ることに違和感を持つ人が増えた。同時に墓を継承することに対する人々の意識が希薄になりました」

さらに少子高齢化や非婚化、子世代の都市圏流入などにより、管理が難しくなった田舎の墓を「墓じまい」する人や、「入る墓がない」と嘆く人も顕在化している。

そうした状況で注目されているのが、冒頭で紹介した「墓友」だ。

2005年、認定NPO法人「エンディングセンター」は、東京都町田市にある霊園「町田いずみ浄苑」に「桜葬墓地」を開設した。桜葬は樹木葬の一種で、桜の木を墓標にして、周囲の個別区画に遺骨を直接土に埋める葬法である。エンディングセンター理事長で、墓友という言葉の生みの親である社会学博士の井上治代さんが語る。

「桜葬墓地を契約した人たちは『墓友』になり、死を迎える前から交友関係を結んで仲間意識を育みます。

一人ひとりまったく別の人生を歩んできた人たちが墓を介して出会い、関係性を持つのです」

自分が求める墓を自分で選ぶようになった背景

墓友が現れた背景には、人々が望む墓の形態の変化がある。

「1990年代以降、継承のいらない永代供養が普及するとともに、“自分らしく”という個人志向や、“死後は自然に還りたい”という自然志向が目立つようになった。その結果、跡継ぎを必要とせず、樹木を墓標とした『樹木葬』が登場し、注目されるようになりました」(井上さん)

実際、お墓探しの情報サイト「いいお墓」経由で墓を購入した人へのアンケート調査(2024年)では、購入した墓の種類のトップが「樹木葬」で約5割を占め、「一般墓」と「納骨堂」の約2割が続いた。また、「跡継ぎ不要の墓を購入した」という人は約64%にのぼった。

購入したお墓の種類の約半数は樹木葬となっている
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なぜ多くの人は一般墓に入るよりも、墓友とともに「自分のお墓」に入ることを望むようになったのか。

「まず考えられるのは、夫との関係です」

そう語るのは小谷さん。

「墓はあの世での住まいですが、“夫と一緒の墓に入りたくない”という女性はとても多い。背景には、夫のわがままを長年耐え忍んできたので、せめて死後くらいは別居したいという『あの世離婚願望』があります。さらに“姑や、見たこともない夫の親戚と墓の下で一緒になるのは嫌”との意見も根強い。夫にとって肉親や親戚でも、妻には赤の他人ですからね」(小谷さん・以下同)

多様な墓の普及や、経済状況も影響している。残された家族に負担をかけたくないと考える人もいるようだ。

「いまはさまざまなタイプの墓が普及し、複数のかたの遺骨を同じ場所に納骨する『合葬墓』の方が、残される人に負担をかけず、時代の先端をいくイメージがあります。

加えてみんなで一緒に入るタイプの墓は一般墓より安価のため、経済的な理由からそちらを選ぶ人も少なくありません」

「深い関係」を築ける墓友

時代に即したさまざまな理由から、人々は自分が求める墓を自分で選ぶようになった。その際に出会う墓友とは、「深い関係」を築けると井上さんは言う。

「普通の友達や家族には自分の死後に関する不安や疑問を打ち明けることが難しく、たとえ話しても“何言っているの。まだ大丈夫だよ”と言われかねません。でも同じ墓を買った者同士だと何でも打ち解けて話すことができ、死後に対する不安を和らげることができます。“あちらに逝ってもこの人たちと一緒なんだ”と感じることができ、死んでからもひとりではないんだと思えます」

死後の世界に対する共通イメージを持ち、心が通った墓友たちは、墓という“究極の終の棲家”に入る前から交流を深めていく。

「エンディングセンターで出会った墓友たちは時々集まって一緒にご飯を食べたり、サークル活動を行っています。自主的に世話係を決め、『俳句の会』などの活動をするようになりました。かつて家族が担っていた機能が望めないなか、血縁ではなく、墓を核として結ぶ結縁でつながり、互いに助け合えるのが墓友のすばらしさです」(井上さん)

冬にはサークル内でクリスマス会も開催される(写真提供/エンディングセンター)
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墓の契約を機に知り合う墓友だけでなく、近年、もともとの友達と一緒の墓に入ることを望むケースも増えているという。

「昔は親の面倒は子が見るものとされましたが、いまは子や孫がいても、介護が必要になったら老人ホームに入るのが当たり前です。すると一緒に暮らしていない子や孫に墓を守ってもらうよりも、老人ホームで終の棲家を共にした人たちと一緒のお墓に入りたいと望む人が増えています。まさに“遠くの親戚より近くの他人”で、現実に共同墓を持つ老人ホームが急増しているのです」(小谷さん・以下同)

垣間見えるのは「横のつながり」を求める姿勢だ。

「三世代同居が当然の時代では子や孫という“縦のつながり”が重視されましたが、現在は友人や知人という“横のつながり”が求められます。心の距離が近く、同じ価値観を持ち分かり合える人と、老後や死後を一緒に過ごしたいと願う人が増えています」

(第2回に続く)

※女性セブン2024年11月21日号

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