Netflixオリジナル料理対決番組『白と黒のスプーン~料理階級戦争~』は、「ドラマよりはるかにドラマティック」と言われ、韓国では間違いなく今年一番の話題作だ。本記事では韓国エンタメライターの田名部知子さんがこの番組の魅力に迫り、4つの見どころとともにその人気の秘密を探る。
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「白さじVS黒さじ」味だけを基準に選ばれた韓国最強の実力者100人が集結
『白と黒のスプーン~料理階級戦争~』(以下、『白と黒のスプーン』)は、韓国料理界をけん引する20人の有名シェフ(白さじ)と、知名度はそこまでないものの、韓国全土から集まった卓越したセンスとスキルを持つ80人のシェフ(黒さじ)が対決する料理サバイバル番組で、優勝者には賞金3億ウォン(約3300万円)が与えられます。韓国では9月の放送開始から、「寝不足必至」と評判で、飲み会の席では必ずと言っていいほど話題に上がります。Netflix配信開始後、2週連続で視聴数世界1位も記録しました。
見どころ1:多彩で個性豊かな100人の白黒シェフ
『白と黒のスプーン』の出演者はあらかじめ、白さじシェフ20人と黒さじシェフ80人に分けられています。名前とともに華やかに紹介される白さじシェフに対し、黒さじシェフはファイナルステージに行くまで本名を名乗ることが許されず、自ら考えたニックネームを使用。経営していた漫画喫茶の賄いが評判で、日本の料理漫画『美味しんぼ』を熟読して独学で料理を学んだ「漫画男」、現役の給食のおばさん「給食名人」、そして「料理する変人」、「おかもち料理人」などなど名前もバックグラウンドも相当ユニークです。
自分の“推しシェフ”がどこまで勝ち上がれるかをハラハラしながら見ていくのも、K-POPのオーディション番組に通じる楽しさがありますが、中でも多くの視聴者に愛されたのが、審査員を務めるアン・ソンジェ氏の運営する三つ星レストランで働いた経験を持つ「トリプルスター」。彼は本企画で「春巻きの皮を7時間ほど細切りにして手がつった」というストイックさと気品を兼ね備えた若きイケメンで、冷静な采配で多くの女性ファンを獲得しました。
見どころ2:韓国料理界の2トップシェフによる審査対決
100人をジャッジする審査員はたった2人。白黒シェフの豪華な顔ぶれに加え、審査員もまた豪華です。国民的料理研究家ペク・ジョンウォン氏は事業家としても成功し、約20のブランドを全世界で展開。もう一人は、韓国唯一のミシュラン三ツ星レストラン『MOSU SEOUL』のオーナーシェフ、アン・ソンジェ氏です。「ひたすら味だけで評価した」という料理界の重鎮ペク氏に対して、「コンセプトと味が意図と合致しているかどうか」を基準に徹底的に辛口審査を貫く若きアン氏が、ときには意見を対立させながらも互いにリスペクトをもって審査を進める過程も見どころです。
見どころ3:緻密に練られた競技形式と心理戦
オープニングで緊張した黒さじシェフたちが1人ずつ会場に入る様子やその緊張感は、さながらK-POPオーディションや恋愛リアリティショーのようです。1回戦では黒さじシェフ80人が一堂にキッチンに入り、白さじシェフと対決できる20席の権利を賭けて、自身が最も得意なひと皿を作り上げます。その様子を高い位置から見下ろす20人の白さじと、必死に戦う80人の黒さじの対比構図が屈辱的で緊迫感を高めます。
勝ち上がった20人の黒さじシェフは、白さじシェフと1対1の対決を迎え、ここで目玉となるのが、2人の審査員が黒いアイマスクで目を隠して行うブラインド審査。ペク・ジョンウォン氏が「おっ、何だこれは?」と驚くシーンは本作の名シーンとなりました。当然のように敗退する黒さじシェフもいれば、下剋上の屈辱を味わされたベテラン白さじシェフの姿もありますが、一流の人間が自分の負けを認める潔さはかっこいいものです。
白黒シェフの個人対決に加え、白黒チーム対決や敗者復活戦、白黒混合チーム戦と形式も多彩で、卑劣とも思われる作戦や、食材を独占して相手チームにプレッシャーを与えるなど回を追うごとに料理だけでなく心理戦も含まれ、経験や人としての器を問われる戦いになっていきます。
特に、白黒階級を超えた仮想レストラン運営のチーム対決は必見。リーダーはぶつかり合うプライドをどう統制するのかが厳しく問われ、マネジメントや経営手腕までもが勝利の鍵となります。
そしてトップ8まで勝ち残った料理人たちに課せられたのは、1つの食材で勝ち続けなければ終わらない過酷な戦いです。それまで常に余裕を見せてきたシェフですらさすがに苦悩し、慌てたり、くたびれたりした表情に引き込まれます。また勝者のコメントからは成功するためのシンプルな本質に気づかされ、涙を誘われます。
見どころ4:絶妙なエンディングと感情を揺さぶるカメラワーク
エンディングは毎回、韓国ドラマさながらの絶妙なタイミングで構成されていて、すぐに次の回を見ずにはいられないつくりになっています。近未来的な壮大なスケールのキッチンスタジオや、緊張感を煽る淡々としたアナウンスが、Netflixシリーズ『イカゲーム』を彷彿とさせ、さらなる闘争心を掻き立てます。
チーム編成にあたっては、途中で仲間を見捨てなければならない残酷なミッションも。カメラは誰が誰をどんな理由で見捨てるか、キャリアと自信とプライドがズタズタに引き裂かれるその瞬間を見逃さずに追います。敗者の背中を勝者の笑顔越しに映し出すカメラワークはお見事です。
コンビニ展開やグラビア特集など放送後も余波続く
放送終了後も本作の話題は続き、「コンビニ飯」のお題で作られた「栗ティラミス」が韓国大手コンビニエンスストアCUから発売され、短期間で売り上げ記録を更新。ファッション誌『COSMOPOLITAN』のグラビアページを飾ったシェフたちもいます。レストラン予約サイト『キャッチテーブル』もメイン画面に「白黒料理人」のタブを設け、出演シェフたちが経営するレストランの予約サービスを開始しましたが、どの店も当分は予約がいっぱいの状況です。
本作を超えられるか?シーズン2制作が決定
早くもシーズン2の制作が決定。Netflixが投じた壮大なマネーパワーと優秀なスタッフが、既にやりつくされた感のある料理対決プログラムに新たな価値を見出し、ここまで面白い人間ドラマが出来上がるのかと、改めて思い知らされました。白黒階級に関係なく、出演者全員の目の輝き、やり切った表情、やり残した表情、負けを認める潔さなど、何度も見返したくなる作品です。
スケールの大きさと息のつけないスリリングな展開に圧倒されて一気にハマれる本作は、年末年始に家族と楽しむ作品としても最適です。
◆ライター・田名部知子
『冬のソナタ』の時代からK-POP、韓国ドラマを追いかけるオタク記者。女性週刊誌やエンタメ誌を中心に執筆し、取材やプライベートで渡韓回数は100回超え。韓国の食や文化についても発信中。2023年1月から、韓国ソウルで留学生活と人生初めての一人暮らしをスタート。大学が集まる新村(シンチョン)にある西江(ソガン)大学の語学堂に通いながら韓国で就活中。twitter.com/t7joshi