健康・医療

女優・黒田福美が語る“正体不明の病”と闘い続けた10年間 「一歩一歩を踏みしめるたび痛みに苛まれる生活は本当につらいものでした」

黒田福美
「骨髄浮腫症候群」を患うも、再起をかけてあきらめずに努力を続けた女優・黒田福美(68才)
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テレビや舞台で華々しい活躍を見せる著名人たち。しかしその笑顔の裏には、決して人には見せない苦悩があった――。大病を患ったものの、見事“生還”した女性たちを紹介する。「骨髄浮腫症候群」を患い、それでも再起をかけてあきらめずに努力を続けた女優・黒田福美(68才)に話を聞いた。

初めて症状に気づいたのは2013年の秋・韓国での登山時

「骨髄浮腫症候群」――この病名にピンとくる、という人はまずいないだろう。それは、10年以上この病気に苦しめられた黒田も同様だった。

初めて症状に気づいたきっかけは2013年の秋。韓国での登山だった。

「下山の折、左足首に負担がかかったようで、痛みを感じました。捻挫をしたのかなと思い、とりあえずサポーターで固定したものの、痛みは増すばかり。帰国してすぐに整形外科を受診しましたが、レントゲンでは異常が見つからず、MRIで画像検査を行ったところ、“距骨壊死”との診断が…。

初めて聞く病名に驚きました。なんでも、くるぶしの内側にある小さな骨(距骨)が壊死してしまっているとのこと。放っておくと、体重で骨がつぶれてしまうので、負荷がかからないようにする措置が必要だと言われました」(黒田・以下同)

そこで、足首に荷重がかからないようにする特殊な装具を左足に装着することになった。

「装具の装着は一時しのぎに過ぎず、治療は骨の置換手術しかないとのこと。それも日本では手術例がほとんどなく、奈良県にある病院でしか治療できないと言われました」

手術をすれば回復まで相当の時間が必要だろう。都内での仕事が控えていたこともあり決心がつかなかった。ほかに方法はないかとセカンドオピニオンを求めたという。

「距骨壊死という診断は変わりませんでした。ただ、装具をつけていれば足首に体重がかからず、痛みが感じられないので、経過観察することにしたんです」

どんな病気も早期発見・早期治療がよい、とされがちだが、このときは、この判断が功を奏すことになる。

壊死したはずの骨が再生し始めて…

それからは1か月ごとに通院して症状を観察したが、距骨壊死と診断されて装具で固定してから3~4か月後、なんと距骨が再生し始めた。壊死した骨は、二度と再生しないと言われていたのに…。

「医師も腑に落ちない、という面持ちで、“距骨壊死ではないのかもしれない”と思い始めたようでした。次第に痛みも緩和されていきました」

痛みの度合いに応じて、両松葉、片松葉、一本杖を使い分けている。痛いから寝込むという選択肢はないようだ
痛みの度合いに応じて、両松葉、片松葉、一本杖を使い分けている。痛いから寝込むという選択肢はないようだ
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結局、発症してから半年後には回復してしまった。疑問は残ったものの、これで日常に戻れると思った。ところが、それも束の間のことだった。

「最初に発症してから2年後の2015年、右股関節に引きつるような痛みを感じ、近隣の病院で今度は『大腿骨頭壊死』と告げられました。骨形成の名医である某大学病院の医師を訪ねると“骨髄浮腫はあるが、骨壊死はない”と明言され、この症状はよく骨壊死と間違われるということも聞きました。松葉杖がないと歩けないほどの痛みはありましたが、時間をおけば回復すると言われ、前回のときよりも安心しました」

医師の言う通り、3か月ほどで痛みはなくなった。ところがこの後、1年から1年半ほどするとまた痛みが出る、という状態を繰り返すようになった。それもすべて別の部位だ。

2013年の左足距骨から始まり、右大腿骨頭、左大腿骨頭、左膝関節、右踵骨、右足距骨と、2021年までの8年間で6か所に痛みが生じては消えるようになった。

「激痛が走る初期段階では、患部に体重がかからないよう松葉杖での生活に。ひどいときは痛みで家事すらできないほどで、ヘルパーさんに来てもらうことも。

痛み止めもほとんど効かないのですが、1か月ほどがまんすると、痛みがやわらいでいくのです」

闘病中も仕事はできるだけ続けた。事前に足に痛みがあることを伝え、相談しながら進めたという。

「あるドラマの撮影では入水自殺のシーンがあると言われ、さすがにそれはできないだろうとお断りしようとしたところ、そのシーンのときだけ後ろ姿にして代役を立てると言ってくださって…。正直に話すことで理解を示してくださるスタッフさんに恵まれました。本当に感謝しています」

病気だから、自由に動けないからとあきらめず、いまの自分にできることはないか模索し続けたからこそ、引き寄せた縁だったのではないだろうか。

病名は判明するも原因も治療法も不明

発症を繰り返すものの、放っておくと治る正体不明の奇病――。命にはかかわらないものの、黒田にとって“どこかしらが痛い状態”が当たり前になった。このまま一生、痛みとともに生きていくのか…。

痛みがあっても、足が地面につけられるようになったら、手押し車を活用してリハビリに励んでいるという
痛みがあっても、足が地面につけられるようになったら、手押し車を活用してリハビリに励んでいるという
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そう思っていた矢先の2021年、長く診察を受けていた医師から、似た症状について書かれた論文を見つけたと連絡を受けた。それが、「骨髄浮腫症候群」だった。

「原因や治療法はまだわかっていませんが、やはり自然に治るのが特徴のようです。症状が似た骨壊死と間違われることがあるようなので、すぐに手術に踏み切らず、様子を見てよかったと改めて思いました」

根本治療ではないものの、骨粗しょう症薬の服用で再発が抑えられることがわかり、この3年ほどは病から解放されている。

病名の判明は、黒田にこの上ない安堵感を与えた。

「一歩一歩を踏みしめるたび痛みに苛まれる生活は本当につらいものでしたが、伴走してくださった医師や理学療法士の先生のおかげで、この病気とのつきあい方がつかめてきましたし、病名がわかったことで、適切な指導が受けられるようになりました。いまは元気に歩ける喜びを享受しつつ、せっかく珍しい病気にかかったのだから、多くの人にこの病気について知ってもらい、同じように悩む人の助けになりたいと思っています。

専門医の間でもまだ知られていないので、骨髄浮腫症候群という病気があることを多くの医師に知っていただきたいし、骨壊死が疑われた場合、まずは経過観察をすることで、早まった置換手術などが行われないことを願っています」

◆女優・黒田福美

くろだ・ふくみ/1956年東京都生まれ。1977年ドラマ『夫婦ようそろ』(TBS系)でデビュー。以降、女優、エッセイスト、翻訳家として活躍。芸能界きっての韓国通として知られ、1980年代から、放送、著作物、講演などを通して韓国理解に努めてきた。2011年には韓国政府より「修交勲章興仁章」を受勲。韓国観光名誉広報大使ほか、各地の広報大使を務める。

取材・文/土田由佳

※女性セブン2024年12月19日号

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