役はフィクション、役者はリアル──別物にもかかわらず、名演がゆえに役と役者が同一視されることがある。そんな当たり役に恵まれることは役者として幸運なことではあるが、時にそれが足枷になったりすることもある。誰もが知る当たり役を演じた名優が、そんな葛藤を経ていま思うことを明かす。
自分なりの滝沢像を作り上げた
「おれはこれからお前たちを殴る!」。数多くの名せりふを生んだドラマ『スクール☆ウォーズ』(TBS系)は、実在する高校ラグビー部と監督をモデルにした馬場信浩さんのノンフィクション小説『落ちこぼれ軍団の奇跡』が原作のフィクションドラマだ。
主役の教師・滝沢賢治を演じた山下真司(72才)は、1984年の放送当時、32才。初の主演作だった。
「滝沢は、元ラグビー日本代表の山口良治さんがモデル。名監督である山口先生を演じることは光栄でしたが、自分はラグビー未経験。オファーをいただいたときは、期待と不安が入り交じっていましたね」(山下・以下同)
モデルはいたが、役作りでは自分なりの滝沢像を作り上げたという。
「撮影前に山口先生にお会いしたい気持ちもありましたが、影響を受けてしまいそうで、撮影後に交流を持たせていただきました」
ドラマは放送を重ねるごとに話題を呼び、最高視聴率は20%を超えた。
「当時はSNSもなく、世間の反応なんてわからない。でも街で子供たちから“イソップの先生!”と声をかけられたり、“ドラマを見てラグビーを始めた”と言われたりすることが増え、大きな影響を与えたのだと感じました」
滝沢に恥じない生き様を貫く決意は変わらない
山下は、ドラマ放送終了後も、“この作品のイメージを崩してはいけない”という使命感にかられ、滝沢の印象が壊れると思える役はすべて断った。そのなかには、タイトルを聞けば誰でも知っている大ヒットドラマの主演オファーも。生徒と恋に落ちる教師の役だったため、悩んだあげく辞退したという。
「それだけぼくは滝沢という役に責任感を持っていましたし、この選択に後悔はありません」
当たり役のイメージを払拭するのではなく、壊さないことに役者人生をかけたのだ。とはいえ、最近は心に変化が出てきたようだ。
「昔はこの作品が茶化されることにも抵抗がありましたが、自分が出演することで出演者や視聴者の皆さんが喜んでくれることがありがたくて……。70才を過ぎてようやく、どんな役でもやってみようという気持ちになりました。でも役者として、人間として、滝沢に恥じない生き様を貫く決意は変わらない。ぼくの体の奥深くには、いまもずっと滝沢が生き続けています」
【プロフィール】
山下真司/1951年、山口県生まれ。1975年に文学座に入所。1979年にドラマ『太陽にほえろ!』(日本テレビ系)で俳優デビュー。1984年の初主演ドラマ『スクール☆ウォーズ』(TBS系)が大ヒット。
※女性セブン2025年1月1日号