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「相続と生前贈与」で失敗しないために「家族会議」は必須 どのように進めるか専門家が解説 「1回だけでは足りない」「切り出すのは親から」「遺言書を残すだけでは絶対NG」

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相続と生前贈与」で失敗しないために「家族会議」はどのように進めるべき?(写真/PIXTA)
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「いつまでもあると思うな親と金」というが、親がいなくなるそのときに向けて、「金」についてしっかり備えておくべきだ。せっかくの財産をムダにしたり、争いの火種にしたりしないために、最大かつ最善の準備は「家族会議」。新しい年を迎える前に、家族のお金の問題を“精算”しておこう。

生前にできる相続への準備として「家族会議」を

家族との別れは、誰にでもいずれ必ず訪れる。多くの経験者が「そのとき」を迎えて感じるのは、悲しみ以上にやっかいな「相続」の手続きや、「財産の後始末」での苦労だという。特にきょうだい間などで遺産をめぐる「争族」にでもなってしまえば、親族全員が疲弊し、関係は悪化する。

いまや常識となりつつあるが、相続争いは「お金持ちだけの問題」ではない。2021年の司法統計によれば、全国の家庭裁判所に持ち込まれた相続争いの76%が財産総額5000万円以下の「ごく普通の家庭」で起きている。相続税には、財産総額が「3000万円+600万円×法定相続人の数」までは非課税になる基礎控除があるにもかかわらず、多くの“相続税非課税世帯”で、もめごとが絶えないのだ。

家族の法定相続割合
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都内で母親と同居していたAさん(67才)は、3人きょうだいの末っ子。母の死後、「全財産を娘の公子に相続させる」という公正証書遺言を見つけた。だが、遺言書の存在を誰も知らなかったために、兄と姉から「こんな遺言は嘘だ」と遺留分(遺産を最低限もらえる権利)請求を受け、現在は調停中だという。このままでは、母と暮らした自宅を売って、兄と姉に遺留分を支払わなければならなくなるかもしれないと嘆く。

いま、こうしたケースが後を絶たないと、相続実務士で夢相続代表の曽根惠子さんが分析する。

「相続対策の知識や情報が広まり、最近は遺言書を作成する人も増えていますが、その内容を相続人に共有している人は少ない。遺言書は作成するだけでなく、その内容を相続人全員で共有しておかなければ意味がありません。

そのためには、遺言書を作成するより前に『家族会議』をしておくことが重要です」

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遺言書を作成するより前に「家族会議」を(写真/PIXTA)
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『円満相続のための家族会議の始め方』の著者で司法書士・行政書士の太田昌宏さんは「生前にできる相続への準備として『家族会議』を提案したい」と話す。

「亡くなった後に、生前対策の不備を嘆いたり、相続人の間で財産の分け方をめぐってもめてしまうことを避けるため、親がまず子供たちを集めて家族会議を開いてあげてほしい」

大切な家族、ひいては次の世代へ財産を託すための“人生最後の大仕事”。どのように進めればいいのだろうか。

娘・息子の参加はマスト

まず覚えておくべき家族会議の鉄則は、実子・養子を含めた法定相続人(財産を相続できる権利がある人)を「全員」集めること。

「素行の悪い子や金遣いの荒い子がいたとしても、のけ者にしてはいけません。かえって、後でもめやすくなるからです。また、“同居してくれた長男の嫁”などは、法定相続人でなくても参加してもらった方がいい場合もあります」(太田さん)

家族構成が複雑な場合などは、専門家にも同席を求めた方がいいケースもある。プレ定年専門ファイナンシャルプランナーの三原由紀さんが言う。

「再婚家庭やステップファミリーなど、事情が複雑だと感情が絡む場合もあります。全員が冷静さを保ちやすいよう、弁護士や税理士、相続診断士資格を持つファイナンシャルプランナーなど、第三者に同席してもらうのもひとつの手です。

全員に平等に発言の機会を与え、数字や事実に基づいて、感情的にならないように進めやすくなります」

「相続の専門家」誰に何を頼む?
「相続の専門家」誰に何を頼む?
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参加者が集まったら、最初の議題は「財産がどれくらいあるか」だ。

「金融資産や不動産、負債を含めたすべての財産の評価額を把握し、相続税の試算をするのが家族会議のスタート地点。

評価額は、不動産なら固定資産税の納税通知書を、土地は路線価、建物は固定資産税評価額を確認します。預貯金は通帳の残高、株は取引明細、生命保険は保険証券、そして負債や借入は返済表などで確認できます」(曽根さん)

負債は「事業に伴う借入」「住宅ローンなどの残債」「保証債務」など、「何のための借金なのか」を明らかにし、できるだけ生前に清算しておこう。

「問題になりやすいのは、古い空き家や田舎の田畑、山林、原野商法で買わされてしまった土地など、著しく価値の低い『負動産』です。一般的な借金とは異なり、現時点で実質的なマイナスではないため先送りしがちですが、相続した子供が負担を強いられることになるので、親世代が元気なうちに、できる限り処分する方針を決めましょう」(太田さん)

見落としがちな財産に要注意
見落としがちな財産に要注意
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安易に決めてはいけない「相続放棄」

負の財産がある場合は「相続放棄」も視野に入る。だが、放棄を選んだ相続人はすべての財産の相続権も失うため、安易に決めてはいけない。

「例えば、法定相続人である子供が相続を放棄すると、自動的に次の相続人に引き継がれます。そのため、負の財産があるときや、事業継承などが関係する場合は、子供だけでなく第2順位の相続人や関係者も参加させる必要があります」(三原さん)

家の中に“埋蔵”されている意外なお宝も、見落とさないようにしたい。

「プラモデルやフィギュア、レコード、カメラ、切手といった趣味のものの中には、本当は価値が高いのに、知識がない人にはガラクタに見えるものも多い。二束三文で売ってから後悔しないよう、価値のあるものは情報共有をしておきましょう」(太田さん・以下同)

また金銭的価値はなくとも、写真やアルバム、人形といった捨てにくいものも、どうしてほしいか伝えておくといい。

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相続放棄は安易に決めてはいけない(写真/PIXTA)
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財産の全容がわかったら、持ち主である親の意向を共有し尊重しながら、分割方法を検討しよう。ここで初めて、各相続人が自分の希望を主張できる。その際に基準になるのは「法定相続割合」だ。財産総額に対し、配偶者は2分の1、子供は2分の1を人数で等分するのが基本。ここでしっかり検討しないと、後々もめる火種になりかねない。

「“自宅はやっぱり長男に”などと、親は安易に決めるのではなく、“同居してくれた次男がいずれ売ってお金にできるように”など、それぞれの相続人に相続させたい理由まで、きちんと考えて伝えてください」

過去に親からの援助があった場合は、遺産分割について話し合う前に明らかにしておくべきだ。ベリーベスト法律事務所の弁護士・田渕朋子さんが言う。

「子供のうち誰かが親に家を建ててもらっていたり、援助を受けているなど『特別受益』がある場合、子供側も包み隠さず共有しておきましょう。特別受益を遺産分割の際に『持ち戻し』(相続の先渡しと見なすこと)の対象にするかどうかを決めておくことも、後々に遺言書を作成する際に役立ちます」