現在、日本の総人口の1.6%、200万人以上が「90才」を超えている。年を重ねると、体も心も弱くなり、自信を失ったり、何もかもおっくうになったりするのは、誰しもあること。だが「老化」は決して「劣化」ではない。60代や70代など“まだまだ若い”と一蹴する、90才前後の「アラウンド90」も少なくない。そんな“大先輩がた”にしか見えない景色、境地を聞いた。【全3回の第3回。第1回を読む】
老いることは「諦めること」ではない
兵庫県のJR三ノ宮駅から徒歩10分のセレクトショップ「HANANOKI」オーナーの木村眞由美さん(88才)は、フォロワー数9万4000人の人気インスタグラマーとしても活躍している。
高校時代は中原淳一の雑誌に夢中になったという木村さんは、取材日は淡い黄緑色のセーターに黒いスカーフとスニーカーを合わせ、アクセントにディオールの真っ赤な口紅をつけて現れた。
「今日なんて、地味な方です(笑い)。いつもは赤やピンクも着ますよ。だって、年を取ったら髪の毛は真っ白になるでしょう? 白い髪に黒い服なんて着たら、カラスみたいになっちゃうじゃない。
年を取ると、華やかな色が映えるんです。肌もたるんでしわができるからこそ、アクセサリーやお化粧も素敵に見えるの。“私はもう、おしゃれなんてええねん”なんて言う人は、表情まで沈んでいます。何才になっても、誰がなんと言おうと、自分の着たいと思う服を着ることが、いつまでも輝いている人の共通点やと思います」(木村さん)
老いることは「諦めること」ではない。それはおしゃれも、仕事も同じ。現在101才の堀野智子さんは、化粧品ブランド・ポーラのビューティーディレクターとして、いまも現役で働いている。2023年には「最高齢の女性ビューティーアドバイザー」としてギネス世界記録に認定された。
月間10万円以上の売り上げを20年以上継続する凄腕で、直近の月平均売り上げは、前年比25%増を記録した。
「仕事に限らず、毎日目標を決めること。目標があるとやる気が出るでしょう? そして、達成するためにどうしたらいいか、自然と知恵を絞るようになる。長生きして元気でいるためには、これが大切なんです。
それと私の場合は、お客さまと直接かかわって、喜んでいただけることも、元気の源。喜ぶ顔が生きがいになっているのね。いまもいろいろと大変な世の中だけれど、戦中戦後に比べたら、年金や老後の生活の不安なんて、大したことじゃないですよ。“いま”を継続できれば、それで大丈夫なんです」(堀野さん)
「いま」を大切に、つながっている人と支え合うこと。兵庫県のさよさん(95才・仮名)も言う。
「“人の縁”ほど大切で、不思議なものはありません。夫とは見合い結婚でしたが、最後までけんかひとつしませんでした。病気のときも、戦後の苦しいときも、助けてくれる人に出会えました。いまでは8人の孫も全員良縁に恵まれています。若い人には、いまの縁をどうか、大切にしてほしい」
周りを気にしては長生きはできない
いまの85才以上は、戦争を知っている「最後の世代」だ。長崎県の美智さん(93才・仮名)が振り返る。
「この年まで生きてこられて思うのは“大切な人を死なせずに済むのがどれだけ幸せか”ということだけ」
ジャーナリストの田原総一朗さん(90才)は、小学5年生の夏休みに玉音放送を聞いた。
「それまでは“国のために戦って死ぬのは名誉なことだ”と言っていた先生たちが、2学期になったら“戦争はよくない”と言うようになった。高校に入学する頃には朝鮮戦争が始まり、戦争反対と言うと叱られるようになった。2度も大人の言うことが変わり、“先生や新聞やラジオの言うことは信用できない”と、自分で真実を追い求めて調べるようになったのが、ジャーナリストになったきっかけです。
フリーになってからは、それまで以上に思いきり、やりたい仕事ができています。この年まで生きるとは思っていませんでしたが、仕事は死ぬまで続けますよ。“長生きの秘訣は趣味”と言う人も多いですが、私の場合は仕事が趣味なんです。
それと、空気を読まない“鈍感力”かな。周りを気にして言いたいことをがまんしていては、人間はダメになりますね」(田原さん)
自分自身と、支えてくれた人を大切にし、好きなことに熱中する──年齢を感じさせない「アラウンド90」の人々は、人生を楽しむ秘訣を心得ていた。
長野県の由美さん(90才・仮名)が言う。
「歴史は繰り返すのだな、と思います。特にファッションや家電、生活用品などのデザインは、昭和を思い出させるようなものが増えてきたな、と感じます。
便利にはなったけれど、結局“本当にいいもの、価値のあるもの”は、変わらないんですね。人間もきっと、100年後も変わらないですよ」
私たちの明日、1年後、10年後に待っているのは、どんな人生だろう。与えられた命をまっとうするため、金言を胸に、今日という一日を大切に送りたい。
※女性セブン2025年1月2・9日号