
高齢化が進むなか、リタイア後の生活を支える老後資金については、家族と真剣に考えておくべきだ。資産の把握や運用にも役立つうえ、生前贈与や相続まで視野に入れることで、親も子も孫も経済的にメリットがある。
相続税対策のために生前贈与を急ぐのは早計
相続においては、相続税対策が大きなテーマとなるだろう。しかし、“相続税対策のために生前贈与を急ごうとする”のは早計だ。相続税には「3000万円+600万円×法定相続人の数」までは基礎控除があるほか、生命保険の死亡保険金はそれとは別に「1人500万円」の非課税枠があり、相続時に課税される世帯はそう多くない。プレ定年専門ファイナンシャルプランナーの三原由紀さんが言う。
「そもそも、老後資金は自分たちのためのもので、無理に子供や孫に残そうとする必要はないのです。
仕送りも、自分たちの家計を圧迫してまで無理にするものではありません。頼まれても、生活が苦しければ公的支援を紹介したり、社会福祉協議会への相談を促すなど、別の方法でサポートしてもいい。もし仕送りするなら、親から子への場合は“次男に頼まれて仕送りしている”など、ほかのきょうだいにも伝えないと後々もめやすいので注意しましょう」

話し合いのうえ、贈与するとなったら、目的に合った制度を活用したい。社会保険労務士の井戸美枝さんが言う。
「孫の教育資金なら1500万円まで、住宅取得資金なら1000万円までなど、非課税枠をうまく使いましょう。
相続税がかからない世帯なら2500万円までなら贈与税が非課税になる『相続時精算課税制度』を使うのがいい。受け取った財産は贈与した側が亡くなると相続財産に持ち戻して相続税の対象になりますが、昨年からは年間110万円の基礎控除枠もつくられているため、その範囲内であれば、贈与税も相続税もかからずに財産を渡すことができるようになっています。また、一般的な年間110万円までの暦年贈与などもあります」
「家族形態を変える」という選択肢
相続税の節税が必要なら、生前贈与以外にも「家族形態を変える」という方法もある。ベリーベスト法律事務所の弁護士・田渕朋子さんが解説する。
「孫と養子縁組をすることで法定相続人を増やし、相続税の基礎控除を増やす方法があります。
ただし、節税目的のみの養子縁組は相続税の扱いにおいて否認されることもあるほか、養子は相続税が2割加算になったり、後から親族関係に影響することもあるため、あまりおすすめできない方法です。どうしても必要なら、家族会議で親族の了承を得たうえで、被相続人が元気なうちに手続きを済ませましょう」

また実子がいる場合は、孫を養子にして法定相続人を増やせるのは1人まで。実子がいない場合は2人だが、その人数内の養子であっても否認されることはありうる。
「家族形態を変えても基礎控除額は600万円しか増えないので、生命保険金の受取人を孫に指定する方が手軽です」(井戸さん)
貯蓄型の生命保険は、500万円までの非課税枠もあり、相続税対策だけでなく、財産が少ない場合にも心強い味方になる。
「自宅以外の財産が心許ない場合、自宅を誰か1人に相続させると、それ以外の相続人に渡す分をつくることができなくなり、遺留分(法律で最低限保障されている相続財産の割合)を侵害することになります。
すると遺留分侵害額を払うために家を売却しなければならなくなるケースもある。それを事前に回避するためには、不動産を相続する人を保険金の受取人にすれば、そこから遺留分を支払えるのです」(田渕さん)
「家族信託」のメリット
一方、資産となる不動産の中にマンションなど運用が必要なものや、先祖代々で受け継いできた土地などがあるなら「家族信託」について話し合ってほしい。
「その名の通り、信頼できる家族に財産を託し、運用など管理の仕方や処分のタイミングも指定できる制度です。家族が成年後見人になって管理することもできますが、その際は財産を守るだけで運用はできません」(井戸さん)
重要なのは、元気なうちに信託契約を結んでおくことだと、田渕さんは言う。
「認知症などで判断能力がなくなってから家族信託契約を結ぶことはできず、法定後見人制度しか使えません。ただし家族信託は日本ではまだポピュラーではなく、手続きも複雑なので、専門家に相談することをおすすめします」


※女性セブン2025年2月20・27日号