
いつまでも「自分の歯できちんと食べる」ためには、噛み合わせはもちろん、適切な治療と、虫歯や歯周病を防ぐ予防歯科が必要だ。一歩処置を間違えれば、健康を蝕む恐れもある。であるならば、「歯と命を守ってくれる歯科医」は絶対に間違えてはいけない。
歯周病により糖尿病などの生活習慣病や動脈硬化に影響を与えることも
人口減少の時代に、増え続けていた歯科医院。一時は「コンビニより多い」ともいわれていたが、厚生労働省によると、統計開始以来、2022年に初めて歯科医の数が減少に転じたという。神奈川県で歯科医院を経営する歯科医Aさんが明かす。
「いまから40年ほど前は歯科医不足が問題になって、歯科大学の数とともに歯科医がどんどん増えていきました。その反動で飽和状態となり、“患者の取り合い”が起こるようにもなった。十数年前から国家試験の合格者数も絞られ、高齢の歯科医がやっているクリニックでは“後継者不足”が深刻な問題になっています」
青森県八戸市にある夏堀デンタルクリニック理事長の夏堀礼二さんは、「地方と都心の格差が広がった」と続ける。
「東京など都心ではまだまだ増加傾向が続いているようですが、地方では後継者がいないまま閉院したり、そもそも人口が減って経営難で閉院したりと縮小傾向にあります。
地方では歯科医が不足し、都心では多いがゆえにどのクリニックにすればいいか迷うという、どちらのケースでも“かかりつけ医を見つけるのが難しい”時代にあるといえます」
昔に比べ、予防歯科の必要性や口腔環境向上の意識が高くなり、虫歯患者は格段に減少した。それでも、歯の健康を守るためには定期的な健診やメンテナンスが必要となり、かかりつけ医は欠かせない。弘岡歯科医院(スウェーデン・デンタルセンター)院長の弘岡秀明さんが言う。

「加齢とともに歯茎が衰え歯根が出てくることや、唾液の分泌量が減ることで、虫歯になるリスクは上がります。近年では、歯周病により、糖尿病などの生活習慣病や動脈硬化に影響を与えることもわかってきている。年を重ねたら虫歯の自覚症状がなくても、定期的にクリニックに通う必要があります」
「銀歯は時代遅れ」こそがウソ常識
悪い歯を治してくれるだけでなく、歯が悪くならないよう予防・対処してくれる歯科医はどのように選べばいいのか。まず絶対に避けたいのは、検査や治療についてきちんと説明をしない歯科医だ。
「歯が痛くてクリニックに行ったとした場合、何も言わずに治療をするのは論外です。痛みの原因は何かをしっかり診査診断をする、虫歯だとしたらなぜ虫歯になったか説明する。それで初めて、どんな治療をするかという話になるべきです」(弘岡さん・以下同)
虫歯患者が減ったいま、歯科クリニックはかつてのように「削って、詰め物やかぶせ物をする」といった治療ではなく、予防歯科や、審美などの自由診療で利益を確保している。だからこそ気をつけるべきは、治療が必要になった際に、治療法の選択肢を与えない歯科医だ。
「容易に歯を抜いて、インプラントをすすめる歯科医には要注意。歯はできるだけ残すに越したことはないので、どうやったら歯が残せるかを考えてくれる歯科医がいい。削ってかぶせ物をするときに、“銀歯は歯によくない”という知見が広まっていますが、そんなことはありません。正しく治療すれば、材質にはよるものの銀歯でもまったく問題ない」
前出のAさんも続ける。
「たしかに銀歯は見た目もよくないし、金属の溶解が起こり隙間から細菌感染が起きて二次虫歯になる可能性がある。ゆえに、ジルコニアやセラミックにしないと治療の意味がないという歯科医もいるようですが、どちらも保険適用外なので大きな利益を得られるから過度に押しつけているだけ。それぞれメリット、デメリットがあれば、個人の経済状況もあるので、選択肢を提案して患者さんに選んでもらうべきです」
治療法と同様、治療機器も進化している。歯科医たちは「CTや顕微鏡があるかないかを確認して」と口を揃える。
「ぼくが開業した32年前はありませんでした。CTはレントゲンとは異なり、3Dで立体的に撮影できるので骨の厚みや幅、神経や歯根の状態がより正確に把握できます。どんなに技術力が優れた歯科医でも、CTがあるのとないのでは情報量が雲泥の差です」(夏堀さん)

歯周病治療について、いつまでも“経過観察”している歯科医も疑ってみてもいいかもしれない。
「一昔前は“歯周病は治らない”というのが定説だったので、腫れや痛みは対症療法で抑えて、最終的に歯が抜けるのを待つという歯科医も少なくありません。特に高齢の歯科医にはその傾向がある。現代医療では、歯周病は歯周ポケットの中の掃除など基本治療や手術をすれば治ることも多いので、そうした知識や技術を持ち合わせているかも確認しましょう」(Aさん)
審美治療は短期間にあらず
夏堀さんは、「歯を残すのは歯科医にしかできない」と強調する。
「抜歯という医療行為は医師であれば誰でもできます。でも、歯を残す、歯根を治療するといったことは歯科医の“特権”ですから、できるだけ天然歯の保存に努めるべきです。
一方で、“抜いた方がいい歯”も当然あります。抜かないとほかの歯へ悪影響を与える場合や、予後の悪い歯を抜くことでインプラントの本数を減らせるなど総合的、将来的な判断ができるかどうかも歯科医の腕にかかっています」(夏堀さん・以下同)

治療の選択肢を与えず、治療をせかそうとする歯科医だけでなく、「スピード感をうたう」歯科医にも気をつけたい。
「虫歯を治療するだけでなく、歯並びを矯正する、ホワイトニングをするといった審美歯科を専門とするクリニックが増えています。たしかに、歯並びを整えることは歯を長持ちさせ、口腔環境を整えるうえで重要ですが、“短期間でできる”ものではない。

矯正治療も本来であればワイヤーやマウスピースなどの器具を使って長期的に治療するものなのに、中には、『削ってセラミックをかぶせて、歯の位置や向きを変えればすぐにきれいになる』というようなクリニックもある。歯は残した方がいいし、削らない方がいいわけですから、虫歯や歯周病の治療もしないままで審美治療だけするのは歯にとっていいことがひとつもありません」
その意味で、矯正のためにいきなりマウスピースをすすめられたら、いったん考えよう。

「ワイヤーがついていないので加工しやすく、患者さんもつけやすいものの、高額な割に効果を感じられない、不当な請求をされたなどの訴訟が多いのも事実です。これもマウスピースが悪いわけでなく、施術する歯科医の問題ですから、きちんと治療をしたうえで丁寧な説明のもとで提案してくれる歯科医かどうか判断してください」(弘岡さん)
クリニックに行く前には、ホームページなどで事前に歯科医の経歴も確認すべし。
「歯科業界には、歯周病学会、インプラント学会などいくつもの学会がありますが、基本的にお金を払えば会員になれるので、入っているから安心とは一概に言えません。ただ所属しているだけでなく、講演や発表を行っている歯科医ならいいし、専門医や指導医であればなおいい。そのうえできちんと専門性がある歯科医を選びましょう。
中にはなんでも自分で抱え込んでしまうかたもいますが、得意でない治療は専門性を持った歯科医を紹介してほしいですね。そうした連携がとれる歯科医かどうかもかかりつけ医には重要なポイントです。定期的な健診で口腔がんや舌がんを見逃さず、すぐに大きな病院につないでくれるのが理想です」(夏堀さん)

医師が信頼する歯科医こそ、“いちばん安心”といえる。
「インターネットの口コミなどは、操作できてしまうのであまりあてになりません。かかりつけの内科があればその医師に聞いてみる、総合病院に通院しているならそこで尋ねてみるなど、気になる歯科医の評価を聞いてみるのがいいでしょう」(Aさん)