
食品に光熱費、サービスなどあらゆるものが値上げし物価高が続くいま、家計の逼迫は深刻だ。派遣社員やパートなど不安定な雇用では給与も安定せず、定年退職してしまった後の年金暮らしも心許ない。あらゆるもしもに備えて「もらえるお金」「戻ってくるお金」「借りられるお金」を知っておこう。
2025年2月、統計局が発表した完全失業率は2.4%で、昨年9月以来5か月ぶりの改善となった。雇用情勢は少しずつ安定してきているように思える一方、日本人の給与は度重なる物価高や増税に反し、この30年間“横ばい”のまま。4月17日の春闘では今年の平均賃上げ率は5.37%と、前年プラス0.27%と“強気”の結果となったが、どれだけ期待できるかはわからない。
2025年は「雇用保険」が大幅拡充
老後資金も子育て資金も、すべての頼みの綱はやはり、働いて得る賃金だ。定年退職やさらなるスキルアップを目指した自主退職であっても、年金だけでは暮らしが立ち行かなくなったり、思うように再就職できないこともある。そこで知っておきたいのが、2025年度の雇用保険の大幅改正だ。社会保険労務士の岡佳伸さんが言う。
「もっとも大きな改正は、給付制限の短縮。失業保険(雇用保険の基本手当)は、自己都合退職の場合は2か月間の給付制限期間があり、実質的に2か月間の“無給期間”があったのですが、それが2025年4月1日からは1か月に短縮されました」

基本手当の支給日数が45日以上残った状態でアルバイトを始めると、基本手当の30%に当たる金額で「就業手当」が、基本手当の受給中に無事再就職できれば残り期間に応じた金額で「再就職手当」がもらえるのはこれまでの通りだ。
生活費をもらいながら「再就職」「スキルアップ」できる
2025年4月1日からは「65才定年」が義務化され、「60才を過ぎたら悠々自適の年金暮らし」はもう、遠い昔の話に。人生100年時代といわれるいま、望むと望まざるにかかわらずシニアも若者と同じように、さらなる収入アップを目指して退職し、転職や再就職をめざすこともあるだろう。
2025年は教育訓練給付金制度やリスキリング支援の充実も進んでおり、「スキルアップ」のためのお金は国が積極的に支援してくれるようになる。ファイナンシャルプランナーの丸山晴美さんが解説する。
「厚生労働大臣が指定する教育訓練給付の対象講座は、現在約1万6000講座。『一般教育訓練』の場合、受講の際にハローワークに受給要件を確認後、指定の講座を修了して申請することで、受講費用の一部が給付金として返ってきます。給付率が低いものから『一般教育訓練給付金』(受講費用の20%、上限10万円)、『特定一般教育訓練』(最大で受講費用の50%、上限25万円)、『専門実践教育訓練』(最大で受講費用の80%、上限64万円)となっており、特定一般教育訓練と専門実践教育訓練では、事前にキャリアコンサルタントと面談する必要があります」

さらに10月からは、教育訓練受講中の暮らしを支えるための「教育訓練休暇給付金」も始まる予定。仕事を休んで教育訓練を受ける場合、生活費として失業保険と同じ金額をもらえる。
教育訓練はスキルアップや専門知識の習得を目標としているのに対し、失業した人が再就職のために必須の資格を得る場合は「職業訓練給付金」が出る。受講手当や通所手当を失業保険と一緒に受け取ることができるのだ。
職業訓練には融資制度もあるため、これを利用すれば、失業中の生活の不安は軽くなるかもしれない。ファイナンシャルプランナーの黒田尚子さんが言う。
「『求職者支援資金融資』といって、職業訓練給付金を受けることが決まっている人は、訓練期間中に月5万〜10万円の貸付が受けられます」
「前より給料が減ったとき」も補塡してもらえる
ただしせっかく無事に再就職できたとしても、期待通りの賃金ではない場合もある。そのときは「就業促進定着手当」または「高年齢雇用継続基本給付金」の申請を検討しよう。
「就業促進定着手当は、早期に再就職先が決まって再就職手当を受け取っている人で、その就職先で雇用保険の被保険者として6か月以上働いているが離職前よりも賃金が下がっている場合、上限内で不足分を受け取れます。
一方高年齢雇用継続基本給付金は、雇用保険の被保険者期間が5年以上残っており、かつ失業保険による基本手当や再就職手当てを受け取っていない60才以上65才未満の人で、60才時点と60才以降の賃金を比較した際、75%未満に低下している場合、最高で賃金額の10%に相当する額を支給するものです」(丸山さん)
業績不振などによって前職場に未払い賃金がある場合も、あきらめてはいけない。
「退職の6か月前からを対象に2万円以上の未払い賃金が残っている場合、8割を立て替えてもらえる『未払賃金立替払制度』があります。ボーナスは含みませんが、1年以上働いていれば、労働基準監督署に申し立てることで立て替えてもらえるようになります」(黒田さん)
2025年、雇用に関する「もらえる」「戻ってくる」「借りられる」お金は充実する見込み。その背景には、いま進められている雇用保険の適用拡大にある。

「パートやアルバイトは、週の労働時間20時間以上が雇用保険に加入できる条件でしたが、徐々に拡大されており、2028年10月からは『10時間以上』にまで拡大される見込みです。加入手続きは基本的に事業者側で行うので、働き手は何も気にしなくていい。ただ“自分はパートだから給付金の対象ではない”とあきらめず、困ったときにはハローワークなどで聞いてみて、使える制度をしっかり使ってほしい」(黒田さん)
先行きが不安な時代だからこそ、もしものときに頼れるものを知っておくだけで、家計も心も、少しは楽になるはずだ。