《未曾有のクマ被害》変化する「食性」、これまで食べなかった“飼い犬”や“錦鯉”をエサと認識か 市街地なら食べ物に困らず冬眠が遅れ、人身被害のリスク高まる可能性

未曽有のクマ被害の終焉はいつになるのか──多くの人が気を揉む問題のトンネルの出口は見えない。人身被害が増え続けるなか、クマはより大きく、強く、恐ろしくなっている。最新の実態に迫った。【前後編の前編】
箱わなの中で重低音のうなり声をあげ続け、周囲を威嚇する巨大なヒグマ。体長約2m、体重400kgに迫ろうかという個体が持つ鋭い爪は、いまにも鉄製の檻を引きちぎらんばかりの迫力だ。11月25日の早朝、北海道苫前町で捕獲されたこのヒグマには、地元ハンターも「稀にみる巨体」と驚くばかりだった。
「捕獲の約2週間前に、ヒグマが箱わなを左右に揺さぶり、中に仕掛けられた鹿肉を振り落として食べようとする姿が撮影されていました。この箱わなは300kg以上あるにもかかわらず、軽々と揺らしてエサをうまく取るパワーと知能の高さに、周辺地域では警戒を強化していました。今回捕獲されたのは、同一個体と思われます」(猟友会関係者)
この地は、1915年に発生した「三毛別ヒグマ事件」の現場としても知られている。ヒグマが2軒の開拓農家を次々と襲い、胎児1人を含む7人が死亡。3人が重軽傷を負う惨事だった。日本史上最悪の獣害を起こしたヒグマは約380kgの巨体だったが、今回出現したヒグマは、そのときと同等か、それ以上のサイズ。もし捕獲されなければ、再び悪夢が繰り返されていたかもしれない。
目下、クマによる人身被害は過去最悪のペースで推移している。環境省の発表によると、今年4〜10月のクマによる死傷者は197人。10月だけで89人が被害に遭い、うち7人が死亡した。この数字は前年同期比の約2.5倍だ。
東北地方では10匹以上の「飼い犬」が犠牲に
さらにここにきて、クマの「食性」の変化を物語る事態が起きている。東北地方では7月以降、クマによる襲撃で少なくとも10匹以上の「飼い犬」が犠牲になった。10月25日には、宮城県大崎市の住宅の庭で飼われていた犬を、クマがくわえて連れ去る姿が目撃された。本来、クマの主食は植物だ。しかし、屋外飼育されている犬の味を覚え、「エサ」として認識し始めているという指摘もある。
11月12日には、新潟県小千谷市内の養鯉池(ようりち)で、クマが錦鯉を捕食したこともあった。長らく錦鯉を育てている業者でも、「錦鯉がクマに食べられたというのは初めて聞いた」という。岩手大学准教授の山内貴義氏が話す。
「本州にいるツキノワグマは魚を食べません。おそらく、はじめは魚のエサを狙って養鯉池に入り込んだのでしょう。魚に与える配合飼料はクマにもおいしく感じるのではないかと思います。そういった個体が偶然に魚を食べ、それで魚の味を覚えた可能性はあります」

その先に待つのは、冒頭の“400kg級クマ”のようなクマの「巨大化」かもしれない。秋田県内では、栄養価の高いカモシカなどの動物をエサとしたことで、クマが巨大化していると指摘されている。歯止めをかけるためにクマが捕食しそうな動物の駆除も併せて行うべきと、ハンターが訴えたこともあった。
本来であれば、日本に生息するヒグマもツキノワグマも、11月中旬〜12月頃には冬眠に入る。だが、12月に入ってもクマの目撃情報はなくならない。東京農業大学教授の山﨑晃司氏が解説する。
「そもそも、クマは寒さを感じて冬眠するわけではありません。冬になると山の中に食べ物がなくなるため、その間の“飢え”をしのぐために冬眠するのです。
つまり、食べ物がある限り冬眠は遅れます。近年は降雪量が減少しているため、地面に落ちたどんぐりなどが雪に覆われず、見つけられる環境にあります。また、人の生活圏の近くであれば庭先の果樹や人間の食べ残した生ゴミなどがあって食べ物に困りませんから、冬眠が遅れることにつながる可能性があります。市街地に出没する期間が長くなれば、人身被害のリスクも高まります」
(後編に続く)
※女性セブン2025年12月18日号