
特殊詐欺の被害が過去最悪のペースで拡大する中、警視庁は10月18日、防犯アプリ「デジポリス」に、国際電話の着信を自動でブロックする新機能を導入することを発表した。海外経由の架空請求や「ニセ警察詐欺」など、巧妙化する電話犯罪の防止が狙いだ。
2025年12月から新たに追加される「国際電話番号ブロック機能」は、利用者のスマートフォンに登録されていない国際電話番号からの着信を自動的に無音・無振動で遮断し、詐欺電話による被害を防ぐことを目的としている。
特殊詐欺の電話のうち、約8割が国際電話番号からの発信
元警視庁公安捜査官で、防犯コンサルタントの松丸俊彦氏が解説する。
「国際電話詐欺は、近年深刻化の一途をたどっています。以前は『050』から始まるIP電話番号が悪用されるケースが目立っていましたが、契約時の本人確認が厳格化されたことで、IP電話番号に替わって国際電話番号が悪用される事例が増加しています」
警察庁の統計によると、2025年上半期の特殊詐欺被害額は約597億円に上り、前年同期の約2.6倍となった。特殊詐欺の電話のうち、約8割が国際電話番号からの発信だったという。

「警察署の番号としてよく用いられている末尾『0110』や警視庁の代表番号を表示させてなりすましをする手口も確認されています。電話番号は簡単に偽装できます。海外からの着信ですと、『+』から始まる国際番号が表示されますが、末尾が警察署を連想させる番号だと、騙されてしまうこともある。また『0120』などのフリーダイヤルと勘違いして被害に遭う人も少なくないようです。そういった詐欺被害を未然に防ぐための、防犯アプリの新機能といえるでしょう」
元公安捜査官が実際に確認した悪質手口。モルディブやナイジェリアからの電話も。
だが、アプリにばかり頼ってはいられない。身を守るためには、詐欺集団がどのような電話を使った手口で近づいてくるのかを知っておく必要があるだろう。ここからは松丸氏が実際に確認した具体的な手口と対策を紹介する。
「代表的なものの1つが、『国際ワン切り詐欺』でしょう。着信が一度だけ鳴る「ワン切り」を行い、被害者が折り返すと高額な通話料が発生するというものです。着信に折り返すと数分で数千円の通話料がかかってしまい、その一部が海外の犯罪組織に送金される仕組みです。自動音声ガイダンスですが、さまざまな口実で通話時間を不必要に引き延ばされ、結果として高額な通話料金が発生します。
アメリカやカナダの『+1』やイギリスの『+44』のほかに、モルディブの『+960』、ナイジェリアの『+234』から始まる番号からかかってくるケースも確認されています」
折り返さないのがいちばんだが、もしかけてしまった場合には、通信会社に速やかに連絡し、課金停止や通話明細確認を依頼するといいという。実際に高額請求がきた場合には、総務省・消費生活センターに相談すべきだ。
ニセの警察手帳や逮捕状を見せてくる詐欺師も
架空料金請求詐欺も代表的な電話を使った詐欺の手口の1つだ。
「実際に存在する企業を名乗り、“動画配信サービスの未納料金があります”“支払いがないと訴訟になります”といった自動音声で不安を煽り、架空の料金を請求する手口です。そもそも、通常企業は電話口で料金未納や裁判などの連絡をしません。企業名を名乗る電話は、ハナから怪しんだ方がいい。
“電子マネーでの支払いが必要”と言われ、コンビニで購入したプリペイドカードの番号を聞き出されて被害に遭うケースがありました。番号を教えてしまった場合、プリペイドカード会社に連絡し依頼すれば、実際にお金を使われる前に利用停止にして、被害を防ぐこともできなくはありません」

ここまでは自動音声による手口だが、電話機の向こうに実際に詐欺師が登場することもある。「ニセ警察詐欺」だ。
「“あなたの口座が犯罪に使われている”“捜査のため一時的に預けてほしい”などと告げ、金銭をだまし取る手口が横行しています。中にはビデオ通話でニセの警察手帳や逮捕状を見せて信じ込ませるなどリアルな演出があることもあります。詐欺被害というと高齢者というイメージがあると思いますが、巧妙化によって若年層の被害も増えています」
20~30代の若い世代でも詐欺には簡単にひっかかる
たしかに、2025年上半期のニセ警察詐欺の被害者の年齢層を見ると、30代が最も多く973件、次いで20代が884件だった。
「現金やクレジットカード、暗証番号を『確認のために渡す、知らせる』といったような指示は100%詐欺といっていいでしょう。犯人に金銭を渡したり振り込んでしまった場合には、すぐに警察に通報するのはもちろん、銀行に連絡して『振り込め詐欺救済法』に基づく返金申請を行えば、被害回復分配金として一部を取り返せる可能性があります」
松丸氏がまとめる「被害防止のための基本行動5か条」は以下だ。
・「+」から始まる電話番号には出ない、折り返さない。
・「未納」「裁判」「犯罪捜査」などの言葉が出たら即通話終了。
・「金銭」や「個人情報」の話が出たら必ず第三者(警察や消費者センター)に相談。
・防犯アプリ(デジポリス)や迷惑電話対策設定を活用。
・通話中に「これは詐欺かも」と思ったらすぐに切る勇気を。
自分の身とお金は、まずは自分で守るしかない。