
肩こりや慢性疲労、肌のくすみ…。冬の不調のほとんどは、体の冷えが主な原因。体を温める「温活」は万能な予防療法で、「体温を1℃上げると、免疫力が約30%アップし、さまざまな不調を遠ざけます」と、温活ドクターの石原新菜さん。そこで、効率的に体を温める生活習慣とお風呂テクを大紹介。すぐにまねできるものから始めてみて。
入浴での温活が認知症予防に
最も効率よく体を温めるにはどうすべきか。温泉療法専門医の早坂信哉さんは、断然「入浴がいい」とすすめる。
「65才以上の高齢者約1万4000人を3年間追跡調査した結果、冬に週7回以上湯船につかる人は、週2回以下の人に比べて新たに要介護認定を受けるリスクが29%も低下していました」(早坂さん・以下同)
さらに、毎日入浴する高齢者は、そうでない人に比べ、9年後に認知症を発症するリスクが26%低下した。
「入浴は脳の血流も促進しますから、アミロイドβなどの脳のゴミが血流にのって排出されやすくなることが、認知症の予防につながったのではないかと推測しています」
手軽な温活として入浴は最適だが、上げた体温を維持するには筋力も必要。さまざまなアプローチで体の温度を上げて保ち、この冬を健康に乗り越えよう。
日常生活で温活
冷えの原因のひとつである血流の滞りは、衣服の調整や毎日の行動で防げる。自宅で、外出先で…続けやすいものから取り入れ、習慣化しよう。
ツボをドライヤーで温める
「ツボを温めると血行が促進し、冷えが改善します」(石原さん)
手の親指の付け根にある「合谷」、内くるぶしの上にある「三陰交」、肩甲骨の間にある「風門」、多くのツボが集中する耳付近をドライヤーで温めるのがおすすめ。
体を温める小物を活用
「太い血管が通る首、手首、足首の『3つの首』をネックウオーマーなどで温めると効率的」(有賀さん)
カイロはお腹や背中、仙骨(腰椎の下、尾骨の上)に貼ると◎。低温やけどを防ぐため、素肌に直接貼らないこと。
室内を温める工夫をする
「冬は室温22℃、湿度50%以上に保つのが理想的。部屋の空気を循環させ『頭寒足熱』を心がけて」(石原さん)
ドアからのすき間風を防ぐスポンジテープを貼ったり、ホットカーペット、窓用の断熱フィルム、厚めのカーテンを活用してみよう。
腹式呼吸でリラックス
「鼻からゆっくり息を吸ってお腹を膨らませ、その倍の時間をかけて口から息を吐くと、横隔膜が上下に動いて腸もみ効果があり、体も温まります」(有賀さん)
電車に乗る前にコートを脱ぐ
「冬の電車内は暖房が効いています。汗をかいて『冷えのぼせ』しないよう、車内ではコートを脱いで体温調節を」(石原さん)
ヘッドスパや整体を味方に
「コリが改善せず血流が滞っているときは整体の活用を。ヘッドスパでは頭のツボが刺激され、滞った血流が促されます」(石原さん)
「の」の字マッサージ
「お腹のマッサージは腸のぜん動運動を促し、便通や血流を改善します。両手を重ねてへその下に置き、“の”の字を描くようにマッサージを」(石原さん)
かかとなしスリッパで足裏を刺激
「かかとのないスリッパを履くと常に背伸びをした状態になるため、ふくらはぎの筋トレになって血行を促進。足裏のツボを刺激できるサンダルも◎」(石原さん)
「ラフターヨガ」を習慣化
「笑いながらお腹を軽く数回叩き、背中をそるようにしてバンザイを3回行う。これを2回繰り返すと体が温まります」(石原さん)
就寝前に布団乾燥機
乾燥を防ぐため、睡眠中のエアコン使用は控えたい。
「就寝前に3分ほど布団乾燥機を稼働するか、湯たんぽの活用を」(有賀さん)
口にテープを貼って寝る
「口呼吸の場合、乾いた冷たい空気が肺に入るので、体が冷えやすいのですが、鼻呼吸の場合、副鼻腔で温められ加湿された空気が肺に入ります。就寝中、無意識に口呼吸をしている人は、市販の『口テープ』の活用を」(有賀さん)
お風呂で温活
入浴が体に与えるさまざまな影響は前述の通りだが、具体的にどう入れば健康効果が上がるのか―温度、順番、湯船につかれない日の対処法などを紹介する。
入浴の効能を知る
「入浴には、以下にあげた7つの作用があります。なかでも重要なのが『温熱作用』で、40℃の湯に10分つかることで、深部体温が1℃上昇します。これにより、免疫細胞の活性化や、細胞再生の促進、血圧の安定など多くの健康効果をもたらします」(早坂さん)
効果的な入浴の仕方
「熱すぎる湯は血圧や心拍を急上昇させ、体の負担になるため、冬でも湯温は41℃以下を守りましょう」(早坂さん)
入浴の手順としては、【1】コップ1杯の水分を摂る。【2】手おけ10杯分ほどのかけ湯をする(特に冬は念入りに)。【3】体や髪を洗う。【4】40℃の湯に10分、肩までつかる。【5】ゆっくり湯からあがり、全身の水滴をふきとる。【6】コップ1杯の水分を摂る。【7】10~15分休憩する―のがおすすめ。
【入浴で得られる7つの作用】
●蒸気・香り作用
鼻やのどの粘膜を潤してバリア機能を活発化し、ウイルスや細菌を排除する力を高める。
●温熱作用
血流を改善して深部体温を上げ、免疫力をアップさせる。
●静水圧作用
水圧が下半身の血流やリンパの流れを促し、むくみを解消。
●抵抗性作用
水中は陸上に比べて筋肉に3~4倍の負荷がかかるため、入浴するだけで軽い筋トレ効果が。
●浮力作用
浮力で関節や筋肉の負担がやわらぐ。リラックス効果も。
●解放・密室作用
密室で誰にも邪魔されず、裸でリラックスできる“非日常空間”を味わうことでストレス解消に。
●清浄作用
皮膚を清潔にし、肌トラブルや感染症を予防する。
シャワーは熱めに
「シャワーの湯は空気に触れると冷めるので、浴槽より高めの42℃に設定を。首の後ろ、わきの下、足の付け根など太い血管が通る場所にあてると体が早く温まります」(早坂さん)
とはいえ、シャワーだけで済ませないこと。
季節湯を楽しむ
「季節の植物を入浴剤代わりに活用を。たとえばゆず湯。神経痛やあかぎれに作用し、体を温めます。乾燥させたみかんの皮、よもぎの葉、しょうがのスライス、輪切りにしたレモンなどにも温め効果が」(石原さん)
入浴中はリラックス
「湯船で歌うと水圧で呼吸筋が鍛えられます。ラジオや音楽を聴くとリラックス効果が倍増。水分補給の代わりに、りんごやみかんなどの果物をつまむのもおすすめ」(早坂さん)
入浴できない日は手浴・足浴を
けがなどで入浴が難しい日は手浴や足浴をするだけでも、体が温まる。
「43℃くらいの熱めの湯に10分ほど手や足をつけます。手はさらに2分、冷たい水につけると、より温まりやすくなります」(石原さん)
高血圧の人は入浴前に血圧測定
入浴時の温度差や、熱すぎる湯で血圧は急上昇しやすい。
「入浴前の測定で最高血圧160mmHg、最低血圧100mmHg以上なら入浴を控えて。それ以下なら心配は不要。正しい入浴法であればむしろ高血圧は改善します」(早坂さん)
ヒートショックに気をつける
急な温度変化で血圧が急上昇し、心疾患を引き起こすヒートショック。「ヒーターを置く、ふたをあけて湯をためるなどで脱衣所や浴室の温度差を5℃以内に抑えて」(早坂さん)
1日の温活スケジュール
《起床》
●エアコンのタイマーを使い、起床前に部屋を暖めておく
●体温測定
●白湯、しょうが紅茶、みそ汁、温めたにんじんりんごジュースなど、温かい飲み物を飲む
●3つの首(首、手首、足首)を温める服を着る
●朝食に、キムチや納豆などの発酵食品、薬味たっぷりのみそ汁、豚汁などを摂る
《出勤》
●なるべく階段を使う
●電車に乗る前にコートを脱ぐ
《仕事中》
●ストール、ベストなど温度調節に使えるアイテムを常備
●ツボ押しサンダルに履き替える
●いすに座ったままかかとを上げ下げし、ふくらはぎのストレッチ
《ランチ》
●昼食には、根菜や赤身の肉、魚を中心としたメニューを選ぶ
《休息タイム》
●色の濃い飲み物を飲み、おやつにはナッツや和菓子をつまむ
●深呼吸や腹式呼吸でリラックス
《帰宅時》
●ひと駅手前で降りて歩いて帰る
●整体やヘッドスパでリフレッシュ
《夕食》
●夕食に、キムチや納豆などの発酵食品、根菜や赤身の肉、魚、薬味たっぷりのみそ汁、豚汁などを摂る
《入浴》
●入浴前に脱衣所を暖めておく
●40℃の湯船に10分つかる(湯船につかれない場合、手浴・足浴)
●就寝時間の90分前までに入浴を終える
《くつろぎタイム》
●入浴直後は10~15分休憩
●ボールなどを使い、全身をマッサージ&筋トレ
●くず湯、甘酒などで体の中から温まる
《就寝準備》
●布団の中を布団乾燥機で温めておく
(布団乾燥機がない場合は布団の足元にカイロを貼る)
●腹巻きをする
●口呼吸が心配な人は口にテープを貼る
●エアコンを切り、起床の15分前に起動するようタイマーをセット
◆教えてくれたのは:内科医・石原新菜さん
イシハラクリニック副院長。“温活ドクター”としても知られる。漢方医学、自然療法、食事療法をもとに診療を行う。『カラダを温めて冷えをとる! 温活365日』(内外出版社)など著書多数。
◆教えてくれたのは:温泉療法専門医・早坂信哉さん
東京都市大学教授、博士(医学)。7万人以上の入浴習慣を医学的に調査。最新著書に『入浴 それは、世界一簡単な健康習慣』(アスコム)。
◆教えてくれたのは:温活士・有賀久美さん
温活講座を開催する「ウーマン・ラボ」代表。温活セミナーなども行う。温活情報をSNSや公式LINEにて配信中。
取材・文/植木淳子
※女性セブン2025年12月25日・2026年1月1日号