
腸内環境と脳を整え、糖尿病などの症状改善、アンチエイジング効果、認知症リスク低下など健康寿命を延ばすと話題!今年2月、米ハーバード大学公衆衛生大学院の研究チームが「カフェイン入りのコーヒーを毎日飲むと、認知症のリスクを低下させる可能性がある」との研究結果を発表。コーヒーが持つ健康長寿の可能性を徹底解説します。
「飲まない」も「飲みすぎ」もダメ?
ハーバード大学による「コーヒーと認知症リスクの関係」についての研究は、医療従事者の男女13万1821人の食事内容を最長43年かけて、2〜4年ごとに繰り返し調査したもの。コーヒーを習慣的に飲むグループは飲まないグループに比べて認知症発症率が18%低いとの結果が明らかに。
「現時点ではあくまで観察研究ですが、論文を見た限り信頼性は高そうだ」と推察するのは、脳神経外科医の中川祐さんだ。
「認知症を発症する要因として、教育歴(長い方が発症リスクが低い)や生活習慣が影響することがわかっています。この研究では調査対象者がすべて医療従事者で、教育水準や仕事内容など環境が似通っている点、調査が長年にわたっており、データの信頼性は高いと感じました」(中川さん・以下同)
では、コーヒーのどんな成分が注目されているのか。
「デカフェ(カフェインレス)では同様の効果が見られなかったことから、カフェインが認知症リスク低下のカギと捉えられているようです。カフェインは脳内のアデノシンという物質と結合すると、アルツハイマー病の原因物質とされるアミロイドβの蓄積を抑える働きが期待されます。ほかにも、コーヒーに含まれるポリフェノールの抗酸化・抗炎症作用にも着目すべきでしょう」
この研究で判明した重要な点は、「飲めば飲むほどいいわけではない」ことだ。
「リスク低下が最大となるのは1日2〜3杯(約240〜360ml)前後(※1)で、それ以上飲んでも追加メリットは見られませんでした。 実際にカフェインの過剰摂取で不眠症や頭痛、『むずむず脚症候群』(※2)が生じる患者さんもいます。やはり適量であることが重要ですね」
コーヒーが苦手な人は、カフェインを含んでいる紅茶や緑茶でもいい。ただし、コーヒーに比べると効果は低く、同研究でもお茶の場合は認知症発症率が14%低いだけにとどまっていた。
「カフェインの分解時間には個人差があるので、摂る時間帯には注意しましょう。夕方以降の摂取で眠れなくなったりトイレの回数が増えたりすると、逆にリスクを高めることにもなる。日中の摂取がおすすめです」

脳にいい成分はカフェインだけじゃない
コーヒーと認知症の関係について、世界中のコーヒー研究に詳しい医師の石原藤樹さんが考察する。
「同様の研究は以前からたくさん行われていますが、基礎実験のレベルでは、コーヒーが認知症に効果をもたらす可能性がいくつか示されています。ちなみに臨床データでは、カフェインが神経難病であるパーキンソン病の運動症状を改善することが報告されているので、今後に期待できます」(石原さん・以下同)
ただ、ハーバード大学の「カフェイン入りでないと効果がない」という主張について、石原さんは「コーヒーにはカフェイン以外にも注目すべき成分が多いです」と続ける。
「確かに、カフェインには神経伝達を促進し、神経細胞を保護する働きがあります。しかし、さまざまな基礎実験では、コーヒーに含まれるクロロゲン酸やトリゴネリン、フェニルインダンといったカフェイン以外の成分にも認知症予防効果があることが発表されていて、それらの成分はデカフェにも含まれているのです」

適量を飲めば「健康で長生きが叶う」
ハーバード大学の研究以外でも、これまでコーヒーの持つ健康効果についてはさまざまな研究がなされてきた。
「最も特筆すべきは、コーヒーが総死亡のリスクを下げるという事実です」
アメリカで実施された40万人以上の健康調査において、コーヒーを飲まない人よりも毎日よく飲む人の総死亡リスクが低かったことが、2012年に最も権威のある医学誌『NEJM』(※3)に掲載されたという。
「がんによる死亡には差がありませんでしたが、糖尿病、心臓病、脳卒中などによる死亡リスクではコーヒーを飲む人の方が低下していました。同様の研究は各国で行われ、どの国でも結果がほぼ同じだったことも画期的でした。
世の中には多くの薬やサプリメントが出回っていますが、これらに総死亡リスクを低下させるというデータはほとんどありません。コーヒーは『健康に長生きできる』飲み物であることを世界中で証明しました」
これ以降コーヒーの医学的研究が進み、前ページの上記に示した糖尿病、肝臓病、心血管疾患それぞれの死亡リスクが2〜3割低下するという実証データが上がっている。
「疾患だけでなく、カフェインには脂肪燃焼の働きも。さらに、コーヒーは肌に悪そうなイメージがありますが、コーヒーに含まれるクロロゲン酸にはシミを予防する効果が認められています。嗜好品としてだけでなく、“健康ドリンク”にもなり得るのです」
生命活動のための物質が100種以上
コーヒーには生命活動を維持・調節するために必要な生理活性物質が100種以上含まれているという。
「前述の通り、クロロゲン酸やトリゴネリンの効果が注目されています(上記の表参照)。
この春には、習慣的なコーヒー摂取は腸内細菌にプラスの変化をもたらすという論文が発表されています(※4)。コーヒーの奥深さはまだまだ底が知れず、私も驚くばかりです」
ただし中川さん同様、石原さんも飲みすぎはマイナス効果だと指摘する。
「1日2〜3杯を適量に、ブラックで味と香りを楽しんでください」
コーヒーを飲むだけという「世界一手軽な健康法」を試さない手はない。
※1 目安として、スターバックスの「ショート」が約240ml。カフェイン量は1日約300mgが適量(100mlのコーヒーに含まれるカフェイン量は60mg)。
※2 むずむず脚症候群とは、主に夕方から夜の安静時に足にしびれや不快感が生じる病気。
※3 アメリカの『NEJM(ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』
※4 『nature communications』に’26年4月21日に掲載された論文より。2週間のコーヒー断ちの後、摂取を再開すると腸内フローラが改善したという
科学的に証明されているコーヒーの健康効果
石原藤樹さん著『コーヒーを飲む人はなぜ健康なのか?』より紹介。(アンチエイジングを除く)
総死亡リスク(※飲まない人との比較)
日本で9万人以上の人に平均18.7年経過観察を行ったところコーヒーを3〜4杯飲む人は24%、1〜2杯・5杯以上で15%、1杯以下で9%総死亡のリスクが低下した。
参考文献:Saito E, Inoue M, et al. Association of coffee intake with total and cause-specific mortality in a Japanese population: the Japan Public Health Center-based Prospective Study. Am J Clin Nutr. 2015 May;101(5):1029-37.
糖尿病(※飲まない人との比較)
110万人以上のデータを解析した結果1日3杯コーヒーを飲む人で2割、5杯飲む人で3割、糖尿病(2型糖尿病)になるリスクが低下していた。
参考文献:Ding M, Bhupathiraju SN, et al. Caffeinated and decaffeinated coffee consumption and risk of type 2 diabetes: a systematic review and a dose-response meta-analysis. Diabetes Care. 2014 Feb;37(2):569-86.
心血管疾患(※飲む量が少ない人との比較)
コーヒーを飲む量が多い人ほど、安静時の脈拍数が低下していた。(※脈拍数の増加は心血管疾患のリスクが増える)
参考文献:Nohara-shitama Y, Adachi H, et al. Habitual coffee intake reduces all-cause mortality by decreasing heart rate. Heart Vessels. 2019 Nov;34(11):1823-1829.
肝臓病(※飲まない人との比較)
コーヒーを飲む習慣のある人は肝臓の線維化や肝硬変のリスクが少なくなっていた。
参考文献:Wadhawan M, Anand AC. Coffee and Liver Disease.
J Clin Exp Hepatol. 2016 Mar;6(1):40-6.
ダイエット
カフェイン入りコーヒーを1杯飲んだ後のサーモグラフィーを検証したところ、脂肪が燃焼し熱が産生された。
参考文献:Sci Rep. 2019 Jun 24;9(1):9104.
アンチエイジング
コーヒーおよびポリフェノール摂取量が多い人ほど顔のシミが少なかった。
参考文献:International journal of dermatology. 2015 Apr;54(4);410-8.
doi: 10.1111/ijd.12399.
コーヒーに含まれるスゴイ成分たち
【カフェイン】
神経細胞を保護する働きがある一方、交感神経を刺激するためにイライラしたり不眠になる人もいる。また、解熱鎮痛作用、脳の血管を収縮させて頭痛を抑える作用、腎臓の血管を拡張して尿量を増やす作用もある。摂りすぎは禁物。
【クロロゲン酸】
コーヒーに含まれるポリフェノールの1つで、カフェインより含有量は多い。抗酸化・抗炎症作用やコレステロール値の低下作用、食後の血糖値上昇を抑える効果などが確認されており、コーヒーの健康効果の多くにクロロゲン酸の存在が考えられる。また、メラニンの生成を抑制し、シミを予防する働きがあることもわかっている。
【カフェ酸】
クロロゲン酸が加熱で分解されたときに生じる成分。大腸がんの予防やウイルス増殖抑制の効果が報告済み。
【フェニルインダン】
コーヒーを焙煎する際に生成される苦み成分の1つで、認知症予防効果があることが基礎実験で確認されている。
【トリゴネリン】
近年注目されているコーヒー由来の成分。老化による筋肉量の減少を改善するという実験データが報告され、アンチエイジング効果が期待されている。焙煎によってビタミンB群の一種であるニコチン酸(たばこのニコチンとは別物)が生成され、血流改善作用をもたらす。
安静時エネルギー消費を促す効果もあり、トリゴネリンの含有量を高めた機能性表示食品コーヒー『UCC TOTONOU(トトノウ)by BLACK無糖 PET500ml』が話題。
<キャプ>『UCC TOTONOU(トトノウ)by BLACK無糖 PET500ml』
健康度を上げる飲み方
【1日2〜3杯】
「さまざまな研究結果を見ると、2〜3杯がもっともリスクが低いと考えられます。ただ、
肝機能が低下しているかたや妊婦のかたはデカフェをおすすめします。アイスでもホットでもOKですが、古くなった豆は酸化して効果がないので飲まないこと」(石原さん・以下同)
【紙フィルターがGOOD】
「コーヒーには、コレステロールや中性脂肪を増加させる『ジテルペン』という油の成分が含まれています。紙のフィルターだと多くのジテルペンを濾過できるので、体のためには紙フィルターがおすすめです」
【浅煎り・深煎りの違い】
「どちらもカフェインの量に大きな違いはありません。ただし、クロロゲン酸やトリゴネリンは熱に弱いため、深煎りだとかなり減ってしまう。これらの効果を享受したいなら浅煎りを。一方、深煎りは、ウイルスを抑制するカフェ酸や血管拡張作用のあるニコチン酸が摂取できます。そのときの体調や気分でいろいろ楽しむのがいいでしょう」
【ブラックが苦手な場合は?】
「少量の牛乳ならOKですが、動物性脂肪が気になる人は豆乳がおすすめ。カフェオレのように牛乳の方が多い飲み物は、もうコーヒーではありません。砂糖はコーヒーの効果を相殺する可能性があるので控え目に」
【食後より食前】
「クロロゲン酸には血糖値を低下させる働きがあるため、血糖値の上昇を抑えたい人は食前に飲むと効果的。逆流性食道炎、胃炎のある人は胸焼けや胃痛の原因となることがあるため、食後がおすすめです」
◆教えてくれたのは:辻堂脳神経・脊椎クリニック院長・中川祐さん
脳神経外科医、医学博士。慶應義塾大学医学部脳神経外科医局に属し、多くの病院に勤務した後、同院を開業。https://tsujido-brain.website/
◆教えてくれたのは:北品川藤クリニック院長・石原藤樹さん
医学博士。診療の傍ら、20余年にわたりコーヒーと健康に関する研究を続ける。著書に『コーヒーを飲む人はなぜ健康なのか?』(PHP研究所)ほか多数。
取材・文/佐藤有栄
※女性セブン2026年6月25日号