
「よくため息をつく」「口数が減った」――そんな夫の変化は「年のせい」より「更年期のせい」かもしれません。きちんと理解されず、「隠れ患者」も多いといわれる男性の更年期障害。正しい知識と対処法を名医が解説します。
「女性同様、男性も性ホルモンの減少によって心身に不調を来す『更年期障害』が起こります」と説明するのは、泌尿器科医の辻村晃さんだ。
「ただ、仕組みは同じでも減少速度に性差があります。女性の場合、閉経前後に女性ホルモンが急激に減少することでさまざまな不調が現れますが、男性ホルモンは、20才頃を境に年々減少しますが、女性と違って減少速度が緩やかです。しかし、ストレスなどの要因がもとで、男性でも急激にホルモンが減少することがある。そのときに更年期障害の症状が出る。発症は50代が多いのですが、40〜70代まで幅広く、30代で発症する人も。個人差があるのも特徴です」(辻村さん・以下同)
潜在的な患者数は600万人ともいわれるが、当事者である男性の認知度が低いのが現状だ。
「放置すると心身に深刻な影響を及ぼす可能性があるにもかかわらず、40〜50代男性の85%以上が、男性更年期障害を『よく知らない』と答えています。とはいえ、男性更年期障害で生じる経済損失は年間1・2兆円に上るという試算もあり、家族関係が悪化するケースも少なくありません」

【主な症状1】筋力低下と体形変化
男性ホルモンの主成分である「テストステロン」は、筋肉や骨の形成、生殖、集中力や判断力などに関係する。それだけに、減少するとさまざまな変調を招く。「ため息が増える」「外出しなくなる」「夜中のトイレの回数が増える」などもサインの1つだ。
「更年期障害では『身体面』『精神面』『性機能面』の3つの機能が低下します。特に、身体面と精神面の不調は見逃しやすいため注意が必要です。
身体面では、筋肉量や骨密度が低下するため、階段の上り下りがつらい、歩く速度が落ちたといった体力の衰えや、疲労感、睡眠障害などが起こります。また、女性のようにほてりや発汗異常が起こることも。
『メタボ体形』になるのも特徴。私が行った研究では、テストステロン値が低い人ほど、肥満や脂質異常などメタボリックシンドローム因子が多いことがわかっています。つまり、動脈硬化や心筋梗塞などのリスクが上がるのです」
約1万人の男性を対象とした研究でも、テストステロン値が低い人は心血管疾患やがんによる死亡率が高かったという報告がある。
【主な症状2】メンタルの不調
更年期障害の症状でいちばん訴えが多いのが、精神面の不調だという。
「テストステロンは『社会性のホルモン』ともいわれ、数値が高い人はチャレンジ精神やリーダーシップ、仕事への意欲が高い傾向にあります。ゆえに減少すると、物事に取り組む意欲が失われ、不安や気分の落ち込みなどの抑うつ症状が現れる。イライラして怒りっぽくなったり、記憶力が低下する場合もあります。メンタルが不調になる最大の原因は、ストレスです」
男性更年期外来専門医の土井直人さんが続ける。
「私のクリニックに来る患者さんのメイン層は40〜50代で、中間管理職として社会的な重圧にさらされ、ストレスに押しつぶされて不調に至っているかたが多い。『何もかもがおっくうでやる気が起きない』という症状が前面に出るかたが多いですね」
60代以降では、第一線で活躍してきた人ほど、定年を境に社会から分断されたと感じ、更年期障害を発症するケースが多いという。
男性更年期障害かも?と感じたら、世界的な診断基準である「AMSスコア」という質問票でセルフチェックが可能。インターネットで調べてみよう。

放置すると「うつ」に移行するケースも
不調に気づいたら、自己判断せず、泌尿器科やメンズヘルス外来などの専門医療機関で検査を受けよう。
「問診やテストステロン値を測定し、身体面、精神面、性機能面から総合的に評価します。検査の結果、更年期障害と診断された場合の治療法は、月に1回程度の注射によるホルモン補充療法がメイン。3回ほどで効果を感じる人が多いですね」(辻村さん)
基本は自由診療で、治療費はクリニックにより異なるが5000〜1万円ほどが目安となる。軽度・中等度の場合は生活指導で経過を観察したり、漢方などの服薬療法もある。早めの受診で改善する人が多い一方、放置している間に「うつ」へと移行するケースも少なくないという。
泌尿器科と心療内科、どちらを選ぶ?
「うつと男性更年期障害は明確に分けられないケースが多いため、泌尿器科と心療内科の両輪で治療をすることが有効な場合が多い」と土井さんは説明する。
「ホルモンの減少でうつを発症したのか、うつであるがゆえにホルモンが減少するのか、その判別は難しいのですが、もともと性ホルモンのバランスが悪いと、うつになりやすいという遺伝的な素因があります。更年期障害の治療がなかなか効かないかたに、そうした背景が隠れている場合もあれば、うつの治療が進まない患者がホルモン治療で改善することも。そのため、『両者は併存するもの』と考え、私のクリニックでは双方向から診察しています」(土井さん・以下同)
ただ、うつと男性更年期障害では決定的な違いが。
「『この世から消えてしまいたい』と口にするような激しい症状は、男性更年期障害では起こりません。この場合は、心療内科での治療を最優先にすすめます。
ただ、『心療内科に行きたいがハードルが高いので、まずは更年期障害かどうかを確かめたい』と泌尿器科を訪れるかたも結構います。迷ったら、行きやすい方を受診してください。とにかく不調を放置しないことが大事です」
男性ホルモンを増やす生活習慣が重要
症状が軽ければ、まずはセルフケアで男性ホルモンを増やすことができる。辻村さんがまずすすめるのが、睡眠をしっかりとることだ。
「睡眠不足はホルモン分泌を悪くします」(辻村さん)
さらに土井さんが続ける。
「適度な運動も必須。メタボの人は有酸素運動で内臓脂肪を減らすこと。筋肉が増えれば男性ホルモンも増えるので筋トレも大事」
食卓には、男性ホルモンを増やす食材を並べよう。
「炭水化物の摂りすぎやジャンクフードを避け、家庭ではバランスの取れた食事をとること。玉ねぎやにんにくに含まれるアリシン、納豆や卵、牛肉などに含まれる亜鉛、ビタミン類などがおすすめの栄養素です」(土井さん・以下同)
周囲の思いやりも重要だ。
「夫が不機嫌なとき、『年だから』『気のせいよ』と決めつけず、『それは大変ね』と寄り添う言葉をかけましょう。相手の機嫌がいいときに『つらそうだから1回診てもらったら?』と受診をさりげなく促せるといいですね」
「最大のホルモン増加法は、好きなことをやり、笑うこと。趣味の教室に通う、仲間と交流するなど活動的な人の方がテストステロン値は上がるといわれています。
“笑い”に関する研究で、被験者に天気予報とコメディー、2つの映像を見せたところ、後者を見た人のテストステロン値が上昇しました(Kimata et al. Acta Medica 2007)」(辻村さん)
ちなみに、ひいきのチームを全力で応援するスポーツ観戦でもテストステロン値は上がるという(1994年サッカーW杯決勝ブラジルVSイタリア戦を観戦した人のテストステロン値の変化を調査。応援中の観戦者のテストステロン値は上昇するうえ、勝利チームの観戦者の値は高い状態が維持された)。6月から始まるサッカーW杯を、夫と熱烈応援してみては?



◆教えてくれたのは:泌尿器科医・辻村晃さん
順天堂大学医学部附属浦安病院 泌尿器科教授、Dクリニック東京 医師。著書に『名医が教える 男性妊活の最強事典』(扶桑社)。
◆教えてくれたのは:市ヶ谷ひもろぎクリニック院長・土井直人さん
泌尿器科医として医療に携わった後、現在は男性更年期外来専門医として精神疾患全般の治療も行う。より効果的で負担の少ない漢方療法も導入している。
取材・文/佐藤有栄
※女性セブン2026年6月4日号