
今年6月に公開された映画『FUJIKO』は、1970年代の昭和を生きたあるシングルマザーの物語。主人公・富士子の生き方には、多様性の時代といわれるいまを強く生きるためのヒントが。富士子を演じた女優・片山友希と、時代を捉えるプロと支持を集めるジェーン・スーが作品の魅力から、「私らしさ」への問いまで語り尽くし!イタリア、ドイツ、ニューヨークの映画祭で絶賛――国内外で注目される作品に込められた想いに迫る。
片山:『FUJIKO』は木村太一監督のお母さまがモデルになっていて、実際にお目にかかるなど時間をかけて監督と一緒にキャラクターを作り上げました。
スー:映画の舞台は1980年代の静岡。シングルマザーに対する風当たりの強さとか、女性の自立の難しさというのは令和のいまでこそ少なくなってきましたが、私が『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』(ポプラ社)を書いた2013年には、不文律としてたしかに存在していた。いまも地続きの話で、決して“昔の女性の生き方”ではないですよね。

片山:“こうあるべき”という周囲の決めつけは、いまもまだそこかしこにあると思います。私は女優になりたくて、高校を卒業してから地元でフリーターのような時期があったんです。周りからは「働いた方がいいよ」「親がかわいそう」と言われて、傷ついたことを覚えています。
スー:「この枠の中に入っていれば、世間様から石を投げられることはない」というアドバイスも、ある時代までは愛情表現のひとつだったと思います。でも、いま「枠」の中にいても、全員が幸せになれるとは限らない。自分の幸せが何かを自分で決めていかなくてはいけないから、思考停止では生きていけないんです。
片山:当時の私は自分の意思を言語化できなかったし、言い返すこともできなくて。でも、自分の気持ちは揺るがなかった。そこは富士子と共通点があるのかなと思っています。
スー:富士子はあの時代をシングルマザーとして生きて、選択肢がなかったことが彼女を成長させたと思うんです。娘とふたりで生きていく、という強い意志と、負けない強さがあります。
片山:『FUJIKO』はMEGUMIさんが企画・プロデュースをしていて、「女性をエンパワーメントしたい」という思いが込められた作品です。
スー:女性のエンパワーメントというと“輝く”とか“強く生きる”と解釈されがちですが、本質的には「自分自身が持っている能力を信じる」、「自分らしく生きることに正直になる」という力を引き出すこと。富士子の強さは「自分を自分で認めていた」ことです。
片山:キャッチコピーの「わたしは、わたしをあきらめない」の通りですね。
スー:女性って無意識のうちに自分を小さく見せようとする傾向がある。仕事で評価されても、「みんなできることですから」と、周囲と比べて“突出していない”ことをアピールして叩かれないようにしています。でも、そんな風に自分で自分を押さえつけるのはやめて、本来の100%の自分に正直になる自信を与えるのがエンパワーメントだと思います。
片山:自分を信じる、認めることは簡単なことではないと思います。
スー:この国では「私らしさ」以前に、生まれたときについている性器で担うべき役割が決められてしまっている。この刷り込みは令和のいまもまだ色濃くあります。
片山:生きづらさを感じているのは、女性だけではないんだなと思います。『FUJIKO』でも富士子のお兄ちゃんばかりが優遇されていたけれど、いまも昔も男性はやはり男性らしさを求められる難しさがあったんだなと。
スー:富士子の元夫もそうですよね。母親と姉から「男なんだから、ちゃんとしなさい」と言われ続けて。昭和、平成、令和と時代が変わって、もちろんよい方向への変化もあります。でも、強い権力を持つ人が“よかれと思って”弱い立場の人の意思決定権を奪う父権主義的な人しか生き残れず、多くの人が自己決定権を奪われているという根本的なところは変わっていません。

片山:私は喜怒哀楽でいうと「怒」の人間なんです。イヤなことがあると、哀しむより怒る。自分で自分を信じるうえで、抑圧に対する怒りも大切なのかなと思っています。
スー:自分はここで怒っていいんだとわかることと、自分がいま怒っていると自覚することはとても大事ですよね。でも怒りをエネルギーやエンジンにはしない。怒って戦うのではなく、自分は他者によって左右されるものではない、弱い人間ではないと信じることが大切です。
片山:5年くらい前から、自分の感情についてノートに書くようにしています。そしたら、自分の気持ちをすごく冷静に捉えられるようになり、言葉で伝えられるようになった。これが、怒りを自覚して感情のままに突っ走らないということなんですね。
スー:富士子がたくましく生きるうえでは周りの人の存在も欠かせません。イッセー尾形さんが演じる、そば店の大石さんは秀逸でした。ジェンダーではなく、富士子を単純にひとりの人間として尊重しているところに説得力があった。えびのかき揚げとか黒はんぺんとか、静岡ならではの食事にメッセージが込められているのも粋だなと。もう一度見返したくなりました。
片山:ありがとうございます!
◆俳優・片山友希
1996年生まれ。京都府出身。中学2年生で養成所に入り俳優活動を始める。20才で上京し、2021年に映画『茜色に焼かれる』で報知映画賞新人賞、ヨコハマ映画祭助演女優賞などを受賞。夜ドラ『いつか、無重力の宙で』(NHK)、『探偵さん、リュック開いてますよ』(テレビ朝日系)など出演作多数。
◆コラムニスト・ラジオパーソナリティ・ジェーン・スー
TBSラジオ『ジェーン・スー:生活は踊る』やポッドキャスト番組『ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN」』などのパーソナリティを務める。『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎)、『介護未満の父に起きたこと』(新潮社)など著書多数。
撮影/玉井幹郎 スタイリスト/宮崎真純(ジェーン・スー)、丸山晃(片山友希) ヘアメイク/yumi(Three PEACE/ジェーン・スー)、伏屋陽子(片山友希) 衣装/ワンピース、ブーツ/ともにディーゼル ベルト/トリ:レザ:ネックレス/エリカ ニコラス バングル、リング/ともに1117(片山友希)
(C)2026 FUJIKO Film Partners
※女性セブン2026年9月24日号