
朝のラッシュ時、乗客で溢れかえる英ロンドンの地下鉄駅。しかしよく見ると彼らの多くが、パンツ(ズボン)やスカートを着用していない。思わず呆気に取られてしまいそうな不条理な光景だが、実はこれ、毎年1月に行われる「ノーパンツ・サブウェイ・ライド」というイベントだ。
2002年にニューヨークで発祥して以来、これまで世界60都市以上で開催されてきた。主催者によれば、このイベントには何らかの主張や抗議の意図はなく、参加者が「非日常体験」を味わうことが目的。パンツやスカートを穿かないこと以外は特別な行動はせず、普段通りに地下鉄を利用することがルールだ。2026年1月にもロンドンで開催が予定されているという。
しかし近い将来、そんな非日常が、日常になってしまうかもしれない。海外のファッション業界では、「パンツレス」あるいは「ノーパンツ」と呼ばれるスタイルが広い支持を集めつつあるというのだ。海外事情に詳しいファッションライターが解説する。
「2025年は間違いなくパンツレスの飛躍の年でした。2025年のメット・ガラ(毎年5月の第一月曜日にニューヨークのメトロポリタン美術館にスーパースターが集うチャリティイベント)では、BLACKPINKのリサや、歌手のサブリナ・カーペンターは、ルイヴィトンが手がけたパンツレスのドレスで登場。下半身はどう見ても下着姿のようなスタイルなのです。
他にも複数の招待客がパンツレススタイルを取り入れた装いを披露しました。実はこれは2025年に始まったものではなく、2024年秋冬ランウェイで、ジャクムスやミュウミュウ、マルニ、プラダといったブランドが、パンツレスの新作をラインナップしていたことから続く動きです。またカイリー・ジェンナーやケンダル・ジェンナー、ベラ・ハディッド、テイラー・スイフトやリタ・オラといったファッションアイコンたちは、すでにパンツレススタイルをプライベートでも愛用していることが確認されていますが、ここ1年で一気に一般人のリアルクローズに近づいてきた印象があります」
お騒がせセレブとして知られるモデルのカイリー・ジェンナーはこのスタイルをInstagramで披露し《ノーパンツ、ノープロブレム(ズボンがなくても問題ない)》と投稿している。一見、下着姿のように見えるものの、パンツレスのポイントは下着の露出ではなく、あくまで脚を美しく露出することにあるという。
「脚を極限まで長く見せるデザインを追求していった結果、行き着いたのがパンツレスのスタイルなのです。間違いなく、性的に挑発するためのものではありません」(前出・ファッションライター)
こうしたファッショントレンドは日本にもやってくるのだろうか。加藤・轟木法律事務所の加藤博太郎弁護士が解説する。
「下着を常に露出させる、故意に見せつけるなどの行為は、軽犯罪法や各都道府県の迷惑防止条例に該当する可能性があります。さらに性的部位が積極的に露出していると判断される場合には公然わいせつ罪に問われる可能性も。また法的には問題がない場合でも、公共施設や商業施設、交通機関の管理者が、『他の利用者の快適性を妨げる』と判断した場合は、入場拒否や退去要請を行うことも考えられます」
過去には、大阪のユニバーサルスタジオや東京ディズニーリゾートの園内で、下着のような着衣で写真撮影をした女性が炎上。運営側が注意喚起を行った事例もある。
さらに最近では、パンツレス批判が、2次元キャラクターにまで及んでいる。11月、スマホゲーム『勝利の女神:NIKKE」の女性キャラクターの新衣装が、パンツもスカートも履かず、黒いストッキング越しに下着が露出しているようなデザインであったため、X上で「下品」「奇抜すぎる」といった否定的な声があがったのだ。同ゲームは世界中にユーザーがいるが、こうした批判が噴出したのは、SNS上を確認する限りでは日本だけのようだ。
裾のないパンツレスが日本で流行の裾野が広げる日は、まだまだ先になりそうだ。