アミノ酸というと、“オリンピック選手などのスポーツマンが筋肉を作るために摂取するもの”というイメージが強いが、実際は何にどう働き、私たちの体や体調をどう変えてくれるものなのだろうか? 肌や髪、爪などの美容にも、睡眠や疲労回復、免疫機能にも大きくかかわっているというアミノ酸の真実とは――。
【目次】
・体の不調の原因はアミノ酸不足!?
・9種の必須アミノ酸の効果とは?
・健康効果が期待される話題の5つのアミノ酸とは?
・アミノ酸サプリでも注目のBCAAとは?
・筋肉を作るには運動前ではなく運動後にアミノ酸を
私たちの体を構成する成分の中で、「最も多いのが水分。次がたんぱく質」だと、立命館大学スポーツ健康科学部教授の藤田聡さんは説明する。
「正確には約60%が水分で、約20%がたんぱく質、約15%が脂肪、約5%が脂質などといわれています。ひと口にたんぱく質といっても、その数は約10万種あって、筋肉や消化管、内臓などはもちろん、皮膚や髪の毛や爪、血液中の赤血球や白血球に至るまでを形作っています。このたんぱく質を構成するのがアミノ酸。人間にとって、必要不可欠な物質です」(藤田さん)
体の不調の原因はアミノ酸不足!?
最近、口内炎ができやすくなったという杉田良子さん(47才・会社員)は、ビタミンB不足を補うため、サプリメントをのんでいたが改善できず、歯のクリーニングに出かけた際、歯科衛生士からアミノ酸不足を指摘されたという。
「会社の決算期で残業が続き、食事時間も不規則だったので野菜中心の食事を心がけてはいましたが、肉や魚を食べる量が減っていたのです。それでは、ビタミンやミネラルをたくさん摂っても意味がないですよね」(杉田さん)
口内炎で傷ついた粘膜の再生には、アミノ酸が必要だったのだ。内科医で日本抗加齢医学会専門医の倉知美幸さんが言う。
「たんぱく質は筋肉や血液、臓器など、体の組織を作る材料。不足すれば貧血や肺炎、骨折など、さまざまな病気につながります」(倉知さん)
健康で長生きしている人は、肉や魚などの動物性たんぱく質をたくさん食べているというデータもあり、病気などに対する免疫抗体や、エネルギーやホルモンなどにも、アミノ酸は不可欠。それほど、アミノ酸は重要なものなのだ。
9種の必須アミノ酸の効果とは?
アミノ酸は体内で分解と合成を繰り返しているが、常に食物を通して体内に取り入れなければ、生命活動は維持できない。その理由とは?
自然界では約500種ものアミノ酸が発見されているが、「人のたんぱく質を構成しているアミノ酸は、わずか20種しかない」と言うのは、アミノ酸の研究開発に100年以上の歴史を持つ『味の素』のアミノサイエンス統括部・小林久峰さん。
「たんぱく質というと、肉や魚などの食物を思い浮かべますが、これらに含まれるたんぱく質は、食べただけでは体に吸収されません。口の中で細かく噛み砕かれた後、胃や小腸で消化酵素の働きにより、小さなアミノ酸に分解され、血液によって全身の細胞に運ばれます。その後、アミノ酸同士が結合して、人の体に必要なたんぱく質に再合成されるのです。
この再合成にはDNAが深く関与しているため、たとえ人が牛肉を食べても、牛にはならず、コラーゲンや筋肉、臓器など、人のたんぱく質として合成されるのです」(小林さん・以下同)
たんぱく質を構成する20種のアミノ酸は、必須アミノ酸と非必須アミノ酸の2つに分けられる。必須アミノ酸は9種あり、体内で作り出すことはできない。そのため、食事で体外から補給することが必要になる。
非必須アミノ酸は11種あり、体内で別のアミノ酸から作り変えることができる。また、何種類かの必須アミノ酸がたんぱく質を作る際には、最低限必要な基準値がそれぞれ決まっている。そのため、1つでもその基準に満たないと、他のアミノ酸が充分にあっても、たんぱく質の合成は制限されてしまう。
【11種の非必須アミノ酸】
・グリシン、セリン、チロシン、グルタミン酸、アラニン、プロリン、システイン、アスパラギン酸、アルギニン
※成長の早い乳幼児期は、ヒスチジンは体内での合成量が十分ではなく不足しやすいため、準必須アミノ酸と考えられている。
【9種の必須アミノ酸】
・バリン、リジン、ヒスチジン、ロイシン、メチオニン、トリプトファン、スレオニン、フェニルアラニン、イソロイシン
「たとえば、食品を例にとると、白米のたんぱく質にも複数の必須アミノ酸が入っていますが、それをイメージしたのものが『桶の理論』と呼ばれるものです。桶の板の1枚1枚が、白米を組成する必須アミノ酸の分量を示しています。フェニルアラニンなどのアミノ酸が豊富でも、リジンが少ないと、リジンの高さまでしか水をためる=たんぱく質を作ることができず、オーバーしたアミノ酸は排出されてしまいます。これではもったいない」
米だけでなく、小麦粉などの穀類や野菜はアミノ酸バランスがよくないため、たんぱく質を充分に合成することができないが、動物性たんぱく質や大豆製品と組み合わせることで、足りないアミノ酸を補うことが可能だ。
健康効果が期待される話題の5つのアミノ酸とは?
アミノ酸の具体的な働きは多岐にわたる。
「アミノ酸は、体内で酵素となってさまざまな物質の代謝にかかわったり、神経伝達物質やホルモンとなって体の働きをサポートしたり、抗体となって細菌やウイルスから体を守ったりしています。最近よく耳にするオルニチンやギャバもアミノ酸の一種です」
特に健康効果が期待できるアミノ酸は、次の5つだ。
●γ-アミノ酪酸(GABA):不安や興奮を和らげる抑制性の神経伝達物質として働く。発芽玄米の成分。
●ドーパ:脳内で神経伝達物質のドーパミンやノルアドレナリンに変換される。パーキンソン病の治療薬でもある。
●オルニチン:肝臓でアンモニアを尿素に変え解毒する際に、アルギニンから生成するアミノ酸。しじみに多く含まれる。
●シトルリン:肝臓でのアンモニア解毒に関与する。すいかに多く含まれる。
●クレアチン:筋肉中のエネルギー貯蔵物質として働く。
アミノ酸サプリでも注目のBCAAとは?
必須アミノ酸の中でもBCAA(バリン、ロイシン、イソロイシン)の3種は、筋肉のエネルギー代謝に深くかかわるアミノ酸。これらを強化したサプリメントは、スポーツ選手が、筋肉作りや運動パフォーマンスを高めるために摂取するものとして知られている。
「アスリートだけでなく、ロコモ(骨や関節、筋肉などの運動器の衰えが原因で、「立つ」「歩く」などの機能が低下している状態)や、サルコペニア(「ロコモ」の中で、特に骨格筋の筋肉量が減少して要介護につながっていく状態)対策に、アミノ酸摂取が有効であるという研究結果が報告され、注目を集めています」
と言うのは、前出の藤田さん。東京都健康長寿医療センター研究所が、75才以上でサルコペニア判定を受けた女性155人を4グループに分けて調査したところ、複数の必須アミノ酸を1日2回摂取して運動した人の筋肉が、摂取しない人たちよりも顕著に増えたという。
「筋肉は24時間、常に合成と分解を繰り返していて、一般的に、食事によりたんぱく質を摂取した後で合成に転じます。合成する力は加齢によって低下するため、高齢者は若い頃と同じ食生活をしていても、合成より分解される割合の方が多くなり、徐々に筋肉が減っていく傾向にあります。
これを防ぐには、積極的にたんぱく質を摂り、運動によって筋肉の合成を刺激することが有効です」(藤田さん・以下同)
筋肉を作るには運動前ではなく運動後にアミノ酸を
ウオーキングやエアロビクスなどの有酸素運動によって筋肉を維持することはできるが、筋肉量を増やすためには、負荷をかけた筋トレのような運動が必要となる。
「最も簡単なのは、道具を使わずに自分の体重を使って運動すること。高齢者は足の筋肉が減ってくるので、スクワットなどの運動が有効ですが、運動習慣がなくて足腰が弱い人にはハードルが高いでしょう。
おすすめは、椅子に座った状態からまっすぐ立ち上がる動作を繰り返す“椅子スクワット”です。体を前に倒して立つと、足にかかる負荷が減ってしまうので、できるだけ体をまっすぐにしたまま、大腿部に力を入れて立ち上がるよう、意識します。そうすると負荷が強くなるので、運動効果が表れやすくなります」
椅子などの背につかまって、つま先立ちをするのもおすすめだ。
【1】椅子に座り、足を肩幅くらいに広げる。
【2】反動をつけず、できるだけゆっくり足の力だけでまっすぐ立ち上がる。5回繰り返す。
【1】壁やしっかりした椅子の背などにつかまり、かかとを上げて3秒キープ。
【2】その後、かかとを下げる。ふくらはぎの筋肉を意識しながら5回繰り返す。
どちらも1日5回から始め、少しずつ回数を増やそう。また、筋肉を合成するためには、運動後のアミノ酸摂取が有効だ。
「食事からアミノ酸を摂取する場合、消化吸収に3~4時間かかるので、食後、少し休んでから運動をし始めるといいでしょう。サプリメントなど、最初から分解されたアミノ酸であれば、摂取後約30分から吸収され始めるので、運動後の水分補給時に合わせて摂るのが効果的です」
人間の筋肉は動かさなければ、日々自然とやせていく。だが、アミノ酸と運動を組み合わせることで、何才になっても筋肉量を増やすことが可能となる。健康長寿を目指すなら、何才からでも積極的にたんぱく質を摂り、運動を生活に取り入れよう。
イラスト/あきばさやか
※女性セブン2019年1月31日号
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