食べれば太ることはさすがに認めるが、“食べてないのに”なぜ太ってしまうのだろう──私たちが直面する難題の答えは意外な事実でした。太ってしまう仕組みから、肥満を防ぐための具体的な方法について医師らへの取材により解説していきます。
そもそもなぜ太るのか?その仕組みとは
そもそも人が太るのは、「食事の摂取量」が、「エネルギー消費量」を上回っていることが原因。エネルギー消費量とは、安静状態でも消費されるエネルギーを示す「基礎代謝」の量と、運動などの身体活動によって消費される量の総計だ。もともと女性は男性に比べて筋肉量が少ないが、加齢などでさらに筋肉量が減ると、基礎代謝量もどんどん減っていく。
結核予防会総合健診推進センター所長で日本肥満症予防協会副理事長の宮崎滋さんが解説する。
◆基礎代謝量は20代から減り始めている
「女性の基礎代謝量は、成長期の子供のときは低く、17~18才で最大になります。その後、20代から徐々に減り始め、60~70才になると8~9才並みの基礎代謝量まで下がります。子供は身体活動量が多いので太りませんが、運動しない大人は太ります」
若い頃と同じ量を食べると太りやすいのは、これが理由だ。さらに、閉経後に女性ホルモンが減ると、体は内臓脂肪をため込みやすくなり、いわゆる「中年太り」が始まる。
「しかし、70才以降は食べる量が大幅に減る人が多い。それにより、筋肉が衰えて虚弱になる方が危険です。70才までは肥満に注意し、それ以降はたんぱく質を中心に、意識して食べるようにしてください」(宮崎さん・以下同)
遺伝によって太りやすいケースも
約25年前、ネイティブアメリカンのピマ族には、変異した「β‐3アドレナリン受容体」という遺伝子が多いことがわかった。本来は脂肪を燃焼して肥満を防ぐ遺伝子だが、変異すると毎日200kcalほどエネルギー消費量が下がることがわかっている。
「ピマ族には、肥満、糖尿病が多い。ピマ族と同じモンゴロイド系である日本人も、約3人に1人がこの変異遺伝子を持っているといわれます。200kcalというと、茶碗1杯程度の米を毎日余分に食べているようなもの。体形も食べる量も変わらないのに、『太る人』と『やせる人』がいるのはこのためです」
◆出生体重が低かった人は注意?
変異遺伝子を持っていなくても、肥満が母親からの遺伝で生じるケースもある。
「親から子に受け継がれた遺伝情報は、胎生期の条件によって、実際に発動するかどうかが決まります。もし、母親がガリガリにやせていて栄養状態が悪い場合、赤ちゃんは胎内で『外の世界には食べ物がない』と誤解します。すると、飢餓状態でも生き抜けるようにエネルギーを消費する遺伝子が発現せず、脂肪を蓄えやすい体質で生まれてくるため、肥満や糖尿病のリスクも高くなってしまうのです」
出生体重が低かった場合は、その可能性が高いので注意が必要だ。
◆ビタミンB群、ビタミンCの不足も肥満を招く
ダイエット中は、よかれと思って気まぐれに食事を抜いたり、低カロリーの食品ばかりを食べる人も多い。しかし、偏った食事で起こる「栄養不足」は、太りやすい体をつくる。医学博士の山下あきこさんが指摘する。
「糖質の代謝をサポートするビタミンB群、コレステロールの代謝をサポートするビタミンCは、どちらも不足すると太りやすくなります。いずれも水溶性ビタミンで、半日もすれば体外に排出されるため、1日3回の食事で小まめに摂取する必要があります」
ビタミンB群は豚肉や卵に多く、ビタミンCは野菜や果物に豊富というのはもはや常識。しかし、現代の野菜や果物は食味などを優先した品種改良や栽培方法の変化により、ビタミン含有量が減っているものもある。食事と一緒にサプリメントも摂取した方が、効率よく「やせやすい体質」になれそうだ。
「やせ菌」を増やすための食生活
腸内に約100兆個も存在するという腸内細菌は、多種多様なほどやせやすいという研究がある。
「種類を増やすには、さまざまな食材を食べることが大切です。腸内環境を整える発酵食品も、同じ食材ばかりを食べない方が効果的。ヨーグルトを毎日食べる人は、いつも決まった商品ではなく違う種類を食べることをおすすめします」(山下さん・以下同)
◆食物繊維が不足するとデブ菌が増加
腸内環境を整えるためには、善玉菌のエサになる食物繊維も欠かせない。
「バクテロイデス門」という腸内細菌のグループは「やせ菌」と呼ばれ、食物繊維の摂取によって増加する。一方、食物繊維が不足すると、「デブ菌」と呼ばれる「ファーミキューテス門」が増える。
厚生労働省が発表した2020年版の『日本人の食品摂取基準』によると、成人女性は1日18g以上(65才以上は17g以上)が食物繊維の目標摂取量とされているが、「やせ菌」を増やすには、この量では足りない。
「私は毎年2月、正月太り解消のため『食物繊維月間』として野菜を1日25g以上摂るようにしています。食事制限はしないので満腹になりますし、便通が改善して1~2か月で3~4kgはやせます」
腸内環境を乱す「まとめ食い」はデブ菌を増やす原因。特に、「夕食」をメインにしている人は、たとえ食事回数を減らしてもやせるのは難しい。宮崎さんが指摘する。
「体に脂肪をためやすくする『BMAL1』という体内時計と連動している『時計遺伝子』は、22時から深夜2時に最も増加します。夕食は早めに済ませるか、軽めにすることがやせるコツです」
「糖質制限」で太らないための注意点
糖質制限ダイエットをしている人の中には、糖質以外なら多めに食べても構わないと思っている人がいる。
しかし、糖質を制限すると脂肪の多い肉中心の食生活になりやすいため、カロリーが蓄積されて太ってしまう。さらに、主食を豆腐に置き換えているという人も安心はできない。
◆豆腐は低カロリーというわけではない
「豆腐を『ダイエットにいい』と思っている人が多い。もちろん、白米やパスタよりはヘルシーですが、植物性たんぱく質が豊富な豆腐は、決してカロリーが低い食べ物ではありません。満腹感が得られないからと食べすぎれば、当然、太ります」(宮崎さん・以下同)
現在、肥満については、「遺伝子を再び目覚めさせ、体質を改善する」という研究が行われているという。いつかは最新科学によって、「食べても太らない体質」を手に入れられるかもしれない。
しかし、専門家たちの長年の診療経験によると、「食べてないのに太る人」の最大の特徴は、「食べたことを忘れている」ことだという。
「食べたことは過小評価して、運動は過大評価しがちです。それを指摘されると怒る人が多いので困りものです」
科学の進歩に甘んじず、己の食生活を見直すことが、やせるための最短ルートだ。
※女性セブン2021年2月11日号
https://josei7.com/
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