最近、パソコンやスマートフォンなどの近くの画面が見づらいと感じるかた、ひょっとしたら、それは老眼かもしれません。自分はまだ若いから大丈夫? 「いえいえ、老眼は年齢に関係なく症状が出ます。自覚症状がないレベルでは10代から始まってもおかしくありません」
こう指摘するのは、目を大切にするための習慣やトレーニングなどについて解説した著書『眼科医だけが知っている 一生視力を失わない50の習慣』(SB新書)を出版した眼科医・平松類さん。そもそも、老眼とはどのような症状なのでしょうか。平松さんに、今さら聞けない「老眼の基礎知識」を教えてもらいました。
老眼は老いも若きも関係なし!
まず、目の仕組みからおさらいを。
「わかりやすく、目をカメラにたとえてみましょう。目の中でカメラの一番外側にあたるのは『角膜』といい、視覚情報を最初にキャッチするところです。この角膜の後ろにある『水晶体』が、カメラのレンズのような役割を果たします。カメラの場合は絞りを調整してピントを合わせますが、目でその役割を担うのが、『毛様体筋』という筋肉です」(平松さん・以下同)
目のピント調整能力が落ち、結果として近くの物が見えづらくなったり、見える範囲が狭くなったりする状態が、老眼です。手元がかすんで見えにくくなるのが代表的な症状例です。
「具体的には、これまでは5m先から30cm手前まで見えていたのが、5m先から1mまでしか見えなくなるというように、見える範囲が狭まります。極端になると、あるピンポイントの周辺しか、専用のメガネなしでは見えなくなります」
主な原因は加齢。自覚症状は40代から?
老眼の主な原因は加齢。したがって、ほぼ全員がいつかは老眼になります。
「多くの人は40代半ばに老眼を実感し始め、年齢とともに症状が進行します。ただ、近くのものが見えづらくなる症状は徐々に始まるため、自覚症状が発生するのは40代から70代。そして70歳を超えるあたりで進行が鈍化します」
ただし、冒頭で述べたように、老眼が始まる時期は、必ずしも年齢に比例しません。
「中には30代からピント調整能力が低下し始め、早くも老眼と呼べる状態になる人もいれば、その一方で、高齢者になってもなお、ピント調整能力が低下しない人もいます」
近視、遠視、両方ともない人…異なる老眼の症状
より具体的にいえば、老眼の症状は若いころの視力によって異なります。
「例えば、近視や遠視がない人は、20~30代は近くも遠くも見えるのに、40~50代になると遠くは見えても近くは見えなくなってきます。
遠視の人の場合、遠視が始まった20~30代は遠くは見えるけれど、近くは見えない状態。それが40~50代になると、遠方が見えるのはそのままで、近いものがますますが見えなくなってきます。
そして近視の人は、近視が始まってから20~30代までは、近くは見えるが遠くが見えない。それは40~50代になっても同じです。つまり、老眼が始まっても近くは見えるため、近視の人ほど自覚症状を持ちにくい。『近視の人は老眼にならない』という俗説があるのは、このためでしょう」
ただし、同じ近視でも遠方が見えるメガネを使っている人は、40~50代になると、手持ちのメガネでは遠くは見えても近くは見えなくなってきます。
「近視用のメガネは、遠くの見えづらさを改善するためのもの。そこに老眼が加わると、手元を見るにはメガネを外して目を近づけて見なければなりません。こうした煩わしさを解消するには、老眼鏡と近視用メガネを2つ用意して使い分けるか、近くも遠くも見える『遠近両用メガネ』を用意することになります」
老眼になったら遠近両用のメガネかコンタクトを
なんとなく症状を自覚しても、「自分はまだ老いていない!」と老眼を認めたくない人もいるでしょう。しかし老眼は、前述の通り年齢にかかわらず生じるもの。「老眼かも?」と思ったらまずは眼科で診断を受け、すぐに対処することが大事です。
「近視、遠視、乱視は、目の状態に合ったメガネを使わないとどんどん悪化します。それは老眼も同じ。できるだけ早めに『遠近両用メガネ』、あるいは『遠近両用コンタクトレンズ』を使い始めることをおすすめします。老眼がかなり進行してから急に度の強い遠近両用メガネを使い始めると、慣れるまでが大変だからです」
老眼鏡と遠近両用メガネの違いとは?
もちろん「老眼鏡」でもいいのですが、平松さんは、遠近両用のメガネ、コンタクトの方が実用的だと言います。
「老眼鏡は、加齢によって近くの物にピントが合いづらくなった目をサポートするためのメガネ。読み物を読むとき、手元で細かい作業をするときなどに使います。
他方、遠近両用メガネは、その名の通り、近くの物にピントを合わせるレンズと、遠くの物にピントを合わせるレンズが1枚になっているメガネです。現在市場に出ている商品は、以前に比べてかなり性能が上がっていて、遠くをや手元を見たりすることが自然にできます。老眼鏡と違って、いちいちメガネをかけ替える手間がないので、人気が出ています」
遠近両用メガネは一見普通のメガネと変わらないため、オシャレを楽しみたい人にも喜ばれます。「見えづらい」ことによるストレスを減らして快適な日常を送るためにも、自覚したらすぐに対処したいものです。
◆教えてくれたのは:眼科医・平松類さん
医師、医学博士、昭和大学兼任講師。現在、二本松眼科病院で副院長専門知識がなくても分かる歯切れのいいコメントが好評で、メディア出演多数。目の健康情報を無料配信しているYouTube「眼科平松類チャンネル」は登録者7万人以上と高い支持を得ている。http://www.nihonmatsu.net/drhiramatsu/