
治療を適切に受けるためにも、医者とのコミュニケーションは円滑にしたいものです。そのため、医者に嫌われないようにと言われるがままになり、自分や家族の治療に積極的に関われないことも…。そこで『Dr.おまちの「お医者さま」ウォッチング』(言視舎)を昨年12月に上梓した現役医師・もののおまちさんに、よい治療を受けるための医者との付き合い方を聞きました。
スマホやレコーダーでの録音はしてもいい?
医者に治療法や疾病について説明される場合、あとで聞き直すためにスマートフォンやICレコーダーで録音したいときもあります。録音は嫌がられないのでしょうか?
「もちろん、問題ありません。話を忘れないように診断や治療方針を記録しようとする患者さんの行動は、むしろ好ましい姿勢といってもいいはずです。ただし、隠し録りをしたり、なにも言わずに唐突に録音機を回したりするとムッとされるかもしれないので、録音する前にひとことことわりましょう。それで断る医者は問題ありです」(もののさん・以下同)

「風邪だと思うので…」はNG?
インターネットで手軽に検索できるようになったぶん、事前に病状を調べてから医者にかかることもあるでしょう。「自分はこういう病気だと思う」「こんな治療をしてほしい」と伝えてもいいのでしょうか?
「ネットで調べたのですが、とお話していただいて結構です。医者が気づいていなかったこともあるかもしれません。ただし、“風邪だと思うので風邪薬をください”と言われてしまうと、自分で病名と治療法を決められるなら薬局に行ったらどうですか?と内心思われるかもしれません。
風邪に似た疾病はいくつもありますから、決めつけずに医師の判断に委ねましょう。“乾いた咳がとまりません”“3日間38度の熱が続いています”など、症状を詳しく伝えるのがベター。その上で、わからないことがあった場合は遠慮せずに質問してください。即答できないことはできるだけ調べてお答えします。それを煩わしいと跳ねのける医者は問題です」

セカンドオピニオンの希望をどう伝えたらいい?
現在かかっている主治医以外の医者に意見を求めるセカンドオピニオンは、「主治医に希望を伝えづらい」ことの代表格です。
「主治医の治療法がベストなのかと疑問が生じることがあるのは当然です。納得して治療を受けることが大切なので、担当医に率直に打ち明けてください。通常の医者ならばすぐに紹介状を書いてくれます。信頼関係が損なわれるのではないかとこっそりセカンドオピニオンを受けようとすると、重複した検査を受けることになって費用や時間がかかり、病状が悪化してしまうかもしれない。
そのかたの状態を一番わかっているのは現在の担当医です。その医者なりに、“この病気にはあの病院が強いだろう”という医療機関がいくつかあるはずなので、適切な病院や医者を紹介することができます。セカンドオピニオンは大切なことなので、それを嫌がる医者は、そもそもダメな医者なのです」

「愛され患者」になるために患者が心がけること
ときに情報を隠してしまう患者がいるといいます。それでは判断ミスにもつながり困ってしまうと、もののさんは指摘します。
「気まずい、恥ずかしいなどの理由で口を閉ざしてしまう患者さんもいます。たとえばコロナ禍に会社で禁止されていた旅行先で具合が悪くなったとか。特に婦人科系の疾病などでは恥ずかしさが先に立つのか、嘘をつかれてしまうこともあります。そばに付き添いがいる場合にありがちです。
腹痛のときには便通があったかどうか、その際の便の固さや色はどうか、も大切な情報です。便の性状や潜血反応の検査でがんやその他の病気が発見できることもあります。恥ずかしがらず正直に教えてほしいですね」

病状や状況のメモや「おくすり手帳」の持参を
どんな行動をとれば、医者がしっかりと診たくなる「愛され患者」になれるのでしょうか。
「こちらも感情のある人間ですから、けんか腰のような患者さんは苦手意識を抱きます。具合が悪いのですから、無理に笑顔を作る必要はありません。正直に症状を話してくれて、こちらの説明を聞いていただければ充分です。説明を聞かずに一方的にまくしたてる患者さんもいて、それでは話が進みません。
白衣の医者を目の前にすると緊張して、なにも言えないという患者さんもいるので、いつ、どこが、どんなふうに痛いのかなど、症状や状況のメモを用意しているとスムーズで助かります。なにを食べたのか、食欲がないならいつからか、どんな便が出たのか。便秘の原因が大腸がんだった、ということもあります。

ほかには、『おくすり手帳』も持参していただきたい。薬を長くのんでいると副作用が出たり、健康食品などの成分と薬の組み合わせが悪い症状につながることもあるので、服薬は知りたい情報です。そして、処方された薬は用法・用量に従ってのんでほしい。食前、食間、食後など、それぞれに意味がありますし、医者は患者さんが薬をきちんと服用している前提で治療方針を決めています。
服用を勝手にやめるのはもってのほかで、やめたい場合は相談してほしい。隠し事はせずに報告する。お互い信頼関係は大事ですよね」
◆教えてくれたのは:医師・作家・もののおまちさん

1957年生まれ。青森県出身。医師としての活動と並行して、創作活動を続けている。日本内科学会認定総合内科専門医、日本消化器内視鏡学会認定消化器内視鏡専門医。著書に『真っ白な闇』、『骨の記憶 七三一殺人事件』(福原加壽子名義)など。昨年12月に出版した『Dr.おまちの「お医者さま」ウォッチング』は、現役医師ならではの役立つ情報が満載。
取材・文/小山内麗香