「食べる」ということはその人の“素”が出てしまう行為――そう語るのは、話題を呼んでいる書籍『おとなの清潔感をつくる 教養としての食べ方』(サンマーク出版)の著者で教養エレガンスマナー講師の松井千恵美さん。大人だからこそ、知らないと信用まで失ってしまうような、逆を言えばきちんとできていることで信用を得られる、食べ方について教えてくれました。
和食では「左上右下」「器を大切に扱う」のが原則
ご飯とお椀、お箸が並ぶ、日本人にとっては当たり前の食卓。「いただきます」のあと、器とお箸、どちらを先に持ち上げるのが正しいのでしょうか。
「器とお箸を同時に、と回答する人もいるかも知れませんが、和食はなるべく『ふたつ以上の動作を一度にしない』という大原則があります。そして問いの答えは、器です。両手で器を持ち上げてから、箸を取ります。和食は“器ファースト”。和食器は繊細なもの。そんな器を大切に扱うためです」(松井さん・以下同)
日本の伝統作法「左上右下」をインプットすべし
日本の伝統作法に「左上右下(さじょううげ)」という原則があります。これは左が上位で右が下位ということを表すもので、配膳するときにはご飯と味噌汁は、ご飯が左で味噌汁が右に。お米をもっとも大切なものとする日本文化によるものだそうです。
「和食では、『左上右下』『器を大切に扱う』という精神を理解することでさまざまな迷いが消滅します。例えば汁物がはいったフタ付きのお椀(汁椀)が出てきたときにも“器をなるべく傷つけないように”という気持ちを働かせると正しい動きになります。
右手で汁椀から外したフタは、裏を上にして料理の外側に置く。いただいたあとは、フタを元の状態に戻す(裏返した状態で汁椀の上に重ねない)、が正解です。これで器を傷つけることなく、手の動きは最小限で済み、粗相をしない美しい方法です」
器とお箸の美しい取り方
「両手で器を持ち上げてから、箸を取る」。この所作、「手は2つしかないから不可能ではないですか?」と、松井さんもよく質問を受けるそうです。器とお箸の手に取り方は、次のような流れになるといいます。
【1】 両手で器を取り上げる。
【2】 器を左手にしっかり載せてから右手で箸をつかむ。
【3】 器を持った左手の指の間に箸をはさむ。そして、箸を持つ右手を、箸の頭のほうに静かにすべらせていく。
【4】 右手を下に回し、箸を持ち直す。「しっかり箸を持てた」と思ったら、器の中の料理をいただく。
「箸を置くときは【1】~【4】を逆再生。この一連の動きが美所作の基本です」
手皿をするのは「食べ方を知りません」と同じ
食べ物を口に運ぶときに手を添える仕草、「上品に見える仕草」と思っていませんか? この「手皿」という仕草、実はNGだそうです。
「そもそも器を持っていただくのが日本の文化。大皿や盛り皿など『持てない器』には小皿が用意されるので、手皿をするということは、『器を置いたまま食べている』のと同じ。だらしない姿とも言えます。
そして、最大のリスクは、手皿の上に食べ物を落としてしまったとき。この手皿に落ちた食べ物、食べますか? それともおしぼりで拭き取りますか? この処理をしている光景はかなり残念な姿です。手皿をしている時点で『私は食べ方を知りません』と言っているようなものです」
食べ方は本人は気にしていなくても周りの人は意外と見ているものです。恥をかなないためにも“教養としての食べ方”、ぜひ知っておきましょう。
◆教えてくれたのは:教養エレガンスマナー講師・松井千恵美さん
一般社団法人ジャパンエレガンススタイル協会代表理事。日本と西洋の作法に精通し、エグゼクティブから絶大な信頼を集める。各種マナースクールやフランス上流階級婦人らからの直接指導などで、西洋と日本のマナー両方を極める。マナー全般における講師養成をはじめ、大手CA養成スクールでの講師実績を積むなど、これまで1万人以上が受講。昨年11月、知的な食べ方について紹介した書籍『おとなの清潔感をつくる 教養としての食べ方』(サンマーク出版)を出版。https://japan-elegancestyle.org