コロナ禍で劇的に増えたオンラインコミュニケーションの機会。いまや、仕事の会議も、子供の保護者同士の集まりも、友人や親族との交流も、ビデオ会議やチャットを使って行うのが当たり前になっています。
オンラインコミュニケーションは対面に比べると歴史が浅い分、発展の余地がありそうです。適切なマナーで、より円滑にすることもできるはず。マナーコンサルタントの西出ひろ子さんが、オンライン飲み会でのマナーを教えてくれました。
参加スタイルは多様で当然と思っておく
西出さんは「オンライン飲み会で大切なことは、参加したみんなが無理なく楽しめること。だからマナーも、そのためにどう振る舞うのが適当かを考えていくといいですね」と話します。
参加者がそれぞれ自宅からつなぐケースがほとんどのオンライン飲み会では、外出先で会うのとは違って、それぞれの家庭の事情や自宅の環境に影響を受けやすいもの。多様な状況で参加することになるので、何事も無理強いせず許容する方向で考えるべきと西出さんはいいます。
「例えば、顔出しはしないけど音声だけつながって楽しくおしゃべりしながら飲むのもアリですよね。そのときは、私なら『最近、愛犬の具合が悪くて。今日はカメラ切っておくね。急に退室したらごめんね』などとホスト役のかたにあらかじめ伝えておくか、チャットに打ち込むかしますね。言えることは言ってしまったほうが、誤解が生じません」
カメラのオンオフ、背景の実景やバーチャルにこだわらない
カメラをオンにするかどうか、背景は実景かバーチャルか、そういった参加スタイルがバラバラでもこだわらない心構えそのものがマナーといえそうです。
「参加時間についても同様で、途中参加や途中退室も認め合うと気が楽です。何時から何時までは必ず参加しなければいけないとなったら、縛られているようで楽しめないですよね。
若い頃は、リアル飲み会で1次会から2次会へ移動する際、『どうする? 行く?』と周りの動向を確認し合った経験が誰しもあると思います。それはそれでいい思い出かもしれませんが、今はもう周りと足並みをそろえるのは卒業でいいのでは。
誰かが退室したときに『付き合いが悪い』と捉えることや、事情があって退室したいのに無理に残ることは、誰の得にもなりません。みんなでハッピーになる方向を目指すのがマナーです」
ホスト役が最も大切にすべき2つのこと
また、オンライン飲み会では、リアルの集まり以上に、ホスト役が重要というのが西出さんの考えです。
「オンライン飲み会は席数や物理的な距離といった制約がない分、いろんな人を気さくに招待して大人数になるようなこともありますよね。そういう会では、参加者全員がよく知る友人同士というわけでもなかったりします。そんなときこそ、ホストの出番。
一部の人で盛り上がる時間が長くならないように、全員に目配りをして、黙りがちな人には『~ですよね、○○さん』と名前を呼ぶなど、工夫してみましょう。
自分がホストでない場合は、楽しませてもらえるのを待たないで、積極的に楽しむ姿勢で過ごしたいもの。無理に会話に割って入ることはありませんが、話したいことがあるときは『ハイ! 話していい?』『私もそれちょっと言いたいことがあって』と率直に言ってみるのがいいですね。黙ったまま察してもらおうとしないこと。察してもらえないことで不満を溜め込まないことです」
おすすめは“短時間集中型”
もうひとつ、ホストが心がけたいことに、時間の管理があります。オンライン飲み会の終わりどきが分からない、ついダラダラ続けて疲れてしまう、という声はよく聞きます。この問題は、ホストが参加者を誘う時点で『○日(金)21:00~22:00 ※途中参加、途中退室OK』などと明確にしておくと解決できます。
「実店舗での飲み会なら2~3時間単位が一般的かと思いますが、オンライン飲み会は疲れやすいですし、各家庭の事情もあるので、1時間単位の1次会と2次会を設定しておくほうが、お互い楽だと思います」
ドリンクの飲み方やリアクションするときのコツ
さらに、具体的な身の処し方、ちょっとしたコツやテクニックをいくつかご紹介しましょう。まずは、オンライン飲み会ではつきもののドリンクを飲むシーンについて。
「カメラがオンの場合に、特に注意を払わずにそのままの姿勢で飲むと、グラスやカップの底が大きく映し出されます。これは避けたいところです。一般的なテーブルマナーでは、スープの残りが少なくなるとスープ皿を奥側へ傾けますよね。同様に、オンライン飲み会でもグラスや食器の底、裏側は相手に向けないような配慮はしたいものです。
画面から体全体を引いて、斜め45度ぐらいを向いて飲むと上品な印象になります。食べるときも同様に、少し画面から引くのがコツです」
話し方やしぐさはゆっくりと大きめに
話し方やしぐさはゆっくりと大きめにするのがポイント。無料のビデオ会議システムを使う限り、どうしてもタイムラグができるので、伝わりやすさを意識する必要があります。また、会議システムにつなぐ端末の置き方にもよりますが、顔が映し出されたままになるので、表情にも気を配るといいでしょう。
「オンライン飲み会ではカメラが捉えたもの、マイクが拾う音しかやりとりしないので、そうなると映るものはわりと隅々まで気になります。表情もしかり。リアルなら席が遠かったり、自分が話している相手でなかったりすると見えないものが、オンラインではよく見えます。
そのことを理解して、あまり興味がない話題が続いたとしても、それを露骨に顔に出さないのが大人のたしなみだと思います。
うなずいたり拍手をしたりという動作を取り入れるのもいいですね。拍手は、上品にしたい場合は顔の右か左で手を叩くといいと思います。テンション高く盛り上げたいときは顔の前で大きく手を叩く。自分が話したことに反応があるとうれしいのが人情だと思うので、相手のプラスになるようなリアクションを意識すると、会が盛り上がるはずです」
オンライン飲み会を自分磨きに使ってみる
せっかくの飲み会で、細かいことを意識し続けるのは面倒に感じるかもしれません。それも自然な感覚です。ただ、画面に映った自分の顔も見ながら飲み会に加わるのはオンラインならではの体験ですので、この際、自分をチェックする好機と捉えるのも一興です。
「口角が下がり気味になっているとか、背筋が曲がっていてだらしなく見えるとか、気づくことがあるかもしれません。自分で気になると、そこが自然と改善されていきます。オンライン飲み会って、実は自分磨きのいいレッスンの場でもあるんです。
基本的な姿勢として、飲み会では自分が楽しむことを最優先するよりも、場を盛り上げることを考えて行動すると、周りをハッピーにするし、そうできた自分のことも好きになれたりします。意外とWIN-WINの結果になることが多いので、ぜひお試しください」
◆教えてくれたのは:マナーコンサルタント・西出ひろ子さん
ビジネスデザイナー・マナーコンサルタント。HIROKO MANNER Group代表、ウイズ株式会社代表取締役会長。一般社団法人 マナー教育推進協会 代表理事ほか。大妻女子大学文学部国文学科(現・日本文学科)卒業後 国会議員などの秘書を務めたのち独立。あらゆるマナーに精通するマナーコンサルタントとして、名だたる企業300社以上のマナーコンサルティングやマナー研修を行う。NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』、映画『るろうに剣心 伝説の最後編』などのマナー指導やマナー監修も務める。テレビ番組におけるマナー指導などメディア出演は800本を超える。著書は最新刊『マナー講師の正体』をはじめ『ビジネスの基本とマナー』『テレワークの教科書』など、2003年12月以来、海外を含め95冊以上を出版している。https://www.withltd.com/
取材・文/赤坂麻実