
総額はなんと1885万円――。タレントの松本明子さん(56歳)が両親から受け継いだ、空き家となった実家の維持費です。『実家じまい終わらせました!――大赤字を出した私が専門家とたどり着いた家とお墓のしまい方』(祥伝社)を出版した松本さんに、一念発起してから「家じまい」に至るまでの経緯について語っていただきました。
「実家を頼む」と父親に託され、25年間空き家を手放せなかった
松本さんは実家じまいを決めてからの紆余曲折を振り返り、苦笑交じりにこう話す。
「父がこだわって新築した実家でしたから、ずるずると踏ん切りがつかなくて、25年間も空き家のまま維持して大赤字を出してしまいました。私の失敗がお役に立てたらうれしいなと思って、本にさせていただきました」(松本さん・以下同)
松本さんには兄がいるが、兄は実家に3年ほどしか住んでおらず思い入れがないこと、実家には松本さんの私物が圧倒的に多かったことなどから、両親は松本さんに家を相続させることに。生前から公正証書遺言を作成し、実家の管理は松本さんの担当となった。

息子や孫に同じ苦労をかけられない
「1993年、私が27歳のときに両親を東京に呼び寄せて一緒に暮らしていましたから、香川県にある実家は相続時にはもう空き家でした。父は亡くなる前に“明子、実家を頼む”と私に家を託したので、とても重要な言葉として受け止めたんです。今から思えば、家をどうすればいいのか、もっと父の気持ちを聞いておけばよかった」

2003年に父親が、その4年後に母親も他界し、兄や夫、親戚からも“いつまで空き家を維持するつもりなの?”と聞かれて悩むことになった。
「東京生まれの息子が大学生になったとき、このまま実家を維持していると、香川の実家に縁の薄い 息子や孫に同じ苦労をかけると考えて、実家を手放そうと決意しました」
実家を希望額の600万円で売却できた理由
母親が亡くなって10年の節目でもある2017年、松本さんはついに実家の売却を決断した。
それまで実家じまいを放置していたため、固定資産税が年間8万円、火災保険が10万円、電気と水道の基本料金が約9万円。さらに、植木の手入れや雑草取りの費用が10万円と、年間約37万円の維持費が約20年間かかり続けていた。
まず行ったのは築45年の実家を「空き家バンク」に登録することだった。
「空き家バンクは自治体が運営するサービスで、空き家を貸したい・売りたい人と、借りたい・買いたい人が利用できるサイトです。調査員が現地に足を運んで、内観、外観を写真に撮って、傾いていないか、壁にひびがないかなどを調査します。その審査が通らないとサイトに空き家を掲載することができません」
松本さんの実家は無事にサイトに登録された。実家は両親が亡くなってから「もしものときの避難場所に」などの理由で2回リフォームしており、その費用は600万円かかった。
「せめてリフォーム代くらいは元を取りたいと思って、売却額を600万円に設定しました。設定が高かったようで、担当者さんに“いつ売れるかわかりませんよ”と言われてしまって(苦笑)。登録して間もなく購入希望者が現れたのですが、希望額は350万円とか250万円などと言われて交渉決裂。担当者さんの言葉が心に重くのしかかりました」

リフォームしていたことなどが奏功
登録をして3か月ほど経った頃、希望額での買い手が見つかった。
「設備が新しくてすぐに住める、というのが購入の決め手だったようです。リフォームしたことが功を奏しました。父のこだわりだった、宮大工さんが建てた総檜造りで建物がしっかりしているところも気に入っていただけた。買い手のご夫婦に、“この家に少なくとも30年は住むからね”と言われて、両親も喜んでくれると思いました」
不動産屋の査定では、「上物の価値はゼロ、土地の価格だけで200万」とも言われた実家を600万円で売ることができた理由はなんだろうか。
「私の場合はラッキー要素が強かったのですが、査定よりも高く売れた秘訣は、家を大切に管理していたからだと思います。私の場合は2回リフォームしていますが、それを抜きにしても、定期的に空気を入れ替えて掃除をすること。空き家は手を入れないと、すぐに朽ちてしまいます。実家を丁寧に扱っていたからこそ、良いご縁につながったのだと思います」

遺品整理にさらに費用、新たな問題も
実家の売却が決まって肩の荷は下りたが、「家じまい」はこれで終わりではなかった。

「実家に大量に残されていた家財や遺品の処分が死ぬほど大変でした。引き渡し期限まで3か月ほどしかなく、遺品整理は所属事務所のスタッフさんにも手伝ってもらいました。東京と高松を飛行機で、または車で片道10時間の道のりを往復し、交通費は総額24万5000円かかりました。引き渡し期限間近には仕事の合間を見てホテルで宿泊し、最後には一気に5連泊で健康ランドに泊まり込みました。宿泊費の合計は約10万円。
そして廃棄した家財や遺品は2トントラック10回分で100万円と、最後まで費用がかかりました」
遺品整理についても、反省点がいくつもある。
「もっと時間をかけて、大切なものと不要なものの仕分けをしたかった。両親が元気なうちに、残すものを聞いておけばよかったと思います。生活を共にしていましたが、実家の荷物についてはお互いに口には出さなかったんです」

松本家のお墓問題は決着せず
空き家の売却や遺品整理は完了した。しかし、まだ「松本家代々のお墓をどうするか」は決まっていない。

「お墓参りをしたくても、高松まで行くのは大変です。松本家のお墓には東京で家庭を構える兄家族もゆくゆく入ることになりますが、東京が拠点の私や兄の家族、また孫の代までもお墓参りにお金や時間をかけることになっていいのか…。子供が過ごしやすいように準備するのは親の仕事だと思うので、しっかり考えたいところです。
兄と私は両親のお墓を東京に改葬(墓の引っ越し)したいと意見が一致していますが、四国に住む親戚としたら、それではお墓が遠くなってしまいます。分骨も視野に入れて検討しているところで、こちらはまだ決着しそうもありません」

◆タレント・女優・松本明子さん

1966年4月8日生まれ。香川県出身。1982年にオーディション番組『スター誕生!』(日本テレビ系)で合格し、翌年に歌手デビュー。その後、元祖バラドルとして『DAISUKI!』や『進め!電波少年』(共に日本テレビ系)などに出演し、人気を確立。現在はバラエティー番組の他、ドラマ、映画、舞台と幅広く活動中。今年6月、『実家じまい終わらせました! ――大赤字を出した私が専門家とたどり着いた家とお墓のしまい方』(祥伝社)を出版。https://twitter.com/akkotongattelne
撮影/平野哲郎 取材・文/小山内麗香