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序盤は苦戦した『六本木クラス』の視聴率が右肩上がりな理由とは?役者の「表情対決」が楽しすぎる

『六本木クラス』場面写真
視聴率が急回復している『六本木クラス』(C)テレビ朝日
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韓国ドラマ『梨泰院クラス』(2020年)の“ジャパン・オリジナル版”として7月にスタートした『六本木クラス』(テレビ朝日系・毎週木曜21時)が序盤の苦戦を乗り越え、「シンプルに話が面白い」「俳優陣の表情対決から目が離せない」などとSNSで大きな話題になり、視聴率も右肩上がりに。六本木の居酒屋「二代目みやべ」が、飲食業界最大手の長屋ホールディングスに大勝負をかける怒涛の終盤へと向かう中、本作の魅力について韓国エンタメライター・田名部知子さんが解説します。

序盤のガッカリから、右肩上がりの視聴率

六本木で居酒屋を営む宮部新(みやべあらた/竹内涼真)は父子家庭で育ち、高校時代、巨大外食産業長屋ホールディングスの跡取り息子・長屋龍河(ながやりゅうが/早乙女太一)を殴って退学に。その後、龍河が起こしたある事件をきっかけに、新は殺人未遂で服役させられた過去を持っています。長屋グループへの復讐を誓う新は、仲間と自分を信じて店を大きくさせながら巨大組織に立ち向かっていきます。

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(C)テレビ朝日
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韓国版ではパク・ソジュンが主演を務め、Netflixを通じて世界中で大ヒットした作品のリメイクとあって、さまざまな前評判やオリジナルのファンからの期待や不安の声が飛び交う中でスタートした第1話の視聴率は9.6%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。続く第2話が8.6%、第3話 が7.0%と下降を続け、「やっぱり…」「スケールが違いすぎる」「演技が弱い」「セリフが古臭い」などSNSには厳しい声があふれました。

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ところが第4話以降、視聴率は5週連続で上がり続け、第8話ではついに10.0%に到達。ここへきて新の宿敵・長屋茂会長を演じる香川照之による過去のスキャンダルが露呈するというつまずきはあったものの、「次が気になって仕方ない」「毎週の放送が楽しみ」という声が高まり、それが視聴率に表れています。

しびれる表情対決、下剋上ストーリーの面白さ

私自身、最初は本家とのスケールの違いや、「宮部新」という主人公の名前にすらとまどいが大きかったのですが、2話も見れば『六本木クラス』の世界観にも慣れました。新を襲った不幸な出来事やそこから抱いた強い復讐の念を丁寧にあぶり出し、そこにリアリティーを持たせ、新が人間として成長しながら目的を達成していく痛快さは、オリジナル版同様シンプルにストーリーが面白いのです。そして、ともすると大げさな芝居になりがちなところを、ベテラン、若手俳優たちが競って次々と表情を変えていく「表情対決」にしびれます。

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もともと日本と韓国では、ドラマの尺がまったく違います。本作も韓国版は全16話、1話70分前後とかなりの長尺。対して日本版は全13話で、拡大版を除くと1話は約44分とだいぶ短いです。当然、エピソードはたくさん間引かれているのですが、意外にもテンポのよさ、スピード感が際立つメリットのほうが前面に出ています。

泥臭い「宮部新」は男として魅力的

竹内は、本来持つキラキラでさわやかなトレンド感、「竹内涼真感」を見事に消し去り、武骨で泥臭い「宮部新」を好演しています。

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なによりこの宮部新というキャラクターに包容力があり、男として、先輩として、友人として、上司として魅力的。頑固なわりには年下の意見に耳を傾ける柔軟性があり、信じた相手には無防備で、「信念と気合、それが俺の生き方なんで」なんてサラッと言ってしまうところも素敵です。

平手友梨奈の圧倒的な存在感

韓国版ではキム・ダミが演じたヒロイン役で、新をまっすぐに愛するヒロイン・麻宮葵を演じる平手友梨奈は、最初は演技があまりに尖りすぎていてムズムズしていたのですが、次第にソシオパスなキャラクターにゾクゾクする面白さがやみつきになりました。

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第8話では、物語の要となる葵と龍河の対峙シーンが大きな話題になりました。葵が「死ぬほど愛している」社長のために、長屋ホールディングスの出来の悪い跡取り息子・龍河を手玉に取るのですが、軽いノリで龍河の調子に合わせているところから一転、本気で怒りを感じ、表情がどんどん”激情”を帯びていくさまは圧巻でした。平手と早乙女太一の呼吸がぴたりと合い、殺気を帯びた表情のぶつかり合い、激しいセリフの掛け合いは間違いなく本作の見どころです。

早乙女太一のゲスっぷりがいい!

ドラマ『半沢直樹』(TBS系)の大和田常務を彷彿とさせる、クセの強い長屋会長を演じる香川の怪演ももちろん見応えがありますが、私は今回、会長の息子・龍河を演じる早乙女に注目して、毎回「バカ息子ぶり」を楽しんでいます。

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チンピラでゲスの極みが板についていて実に素晴らしいのです。ところが長屋会長の取ったある行動により、一瞬ですべてを悟って腹をくくったときの無言の表情は、それまでのバカ息子の影はまったくない別人の顔。深く心に響くシーンでした。

2作とも上位にランクインする相乗効果

『六本木クラス』の人気に伴いNetflixのランキングでは、『梨泰院クラス』も週間ランキングの上位に再浮上しています。

『梨泰院クラス』制作発表
オリジナルである『梨泰院クラス』制作発表(Ph/AFLO)
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物語は山場を迎え、「『六本木クラス』の展開が気になって、『梨泰院クラス』を最後まで見てしまった」という視聴者が増加した表れだと思います。これこそがリメイクの相乗効果であり醍醐味というものでしょう。

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またSNSでは、葵と優香(新木優子)という新を取り巻く2人のヒロインをめぐって、「葵と優香、あなたはどっち派?」という楽しい論争が起きているのもオリジナルのときと一緒。これもまた韓国ドラマによくある楽しみ方のひとつです。確固たる日本オリジナル作品として新たな魅力を持った『六本木クラス』、最終回に向けてさらなる盛り上がりを期待せずにはいられません。

◆韓国エンタメライター・田名部知子

田名部知子
韓国エンタメライター・田名部知子さん
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『冬のソナタ』の時代から18年、K-POP、韓国ドラマを追いかけるオタク記者。女性週刊誌やエンタメ誌を中心に執筆し、取材やプライベートで渡韓回数は100回超え。韓国の食や文化についても発信中。2018年に韓国の名門・梨花女子大学に短期語学留学し、人生2度目の女子大生を経験。twitter.com/t7joshi

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