
昨今の高級炊飯器ブームで、今年も10万円を超えるハイエンドモデルが続々発売されています。一方、3万円以下の炊飯器も根強い人気で、炊飯器の相場は、下は5000円台から上は10万円前後と、10倍以上の開きに。果たして、この価格差は何の違い? 家電ライターの田中真紀子さんに教えてもらいました。
高級炊飯器が続々と登場している背景
振り返ってみれば、かつて炊飯器は10万円を超えるものはほとんど見られなかったはず。なぜここまで価格が上がってきているのでしょうか。
「2006年に三菱電機が発売したジャー炊飯器『本炭釜』が火付け役となり、この頃からじわじわと高級炊飯器が増えてきました。三菱電機は、内釜に本物の炭を使うという従来とは異なるアプローチで注目を集めたわけですが、その後、タイガーは土鍋、象印マホービンは南部鉄器など内釜に伝統素材を使うなど、内釜にこだわるメーカーが続出。
さらには内釜のみならず、スチームや真空などさまざまな技術を駆使しておいしさが追求され、価格も上がっていったのです」(田中さん・以下同)
安い炊飯器と高い炊飯器、何がどう違う?
「ご飯は毎日食べるからおいしさにこだわりたい」という人に受け入れられてきた、高級炊飯器。ただし、実際に売れている炊飯器は、3万円以内の機種が最多だそう。
3万円以下の炊飯器と10万円前後の高級炊飯器の違いは何でしょうか?

もっともお手頃価格な炊飯器はマイコン式
「一番分かりやすいのは炊飯方式。これは高級炊飯器ブームがくる前から明確です。炊飯方式には主に、マイコン式、IH式、圧力IH式とありますが、もっとも価格が安いのが、古くから採用されているマイコン式。2万円以下の機種が多くお手頃ですが、電熱ヒーターが釜の底に1か所しかないため火力が弱く、全体的に熱が通りにくい。ムラが起きやすいため米の旨みを十分引き出せない場合があります」
ミドルクラスのIH式は、粒立ちがよくシャッキリした歯ごたえ
「マイコン式より価格も味もワンランク上なのが、IH式。価格の目安は1~5万円程度が中心で、購入層がいちばん多いのがこの方式です。炊き方は釜全体を発熱させるため熱ムラが起きにくく、米1粒1粒にしっかり熱が与えられます。そのため米の甘みや旨みが引き出されるだけでなく、粒立ちがよくシャッキリした適度な歯ごたえを感じられます」
ハイエンドモデルの圧力IH式はより甘くて粘り気のある米に
「そしてもっとも高額なのが、圧力IH方式です。2~14万円程度の価格帯に比例して、技術も最高峰。内釜を密閉状態にして圧力を高めることで100℃以上の高温で米の芯までしっかり加熱します。さらに減圧時に米をかくはんするなどの働きにより、より甘みと粘りを引き出し、もっちり炊き上がるとされています」
付加機能や内釜に厚みがあるほど高額に
続いてチェックしたいのが、内釜の素材や厚みです。

「内釜には、熱を米に伝える熱伝導性とともに、温度を下げないための蓄熱性が求められます。そのため、高級炊飯器には前述の炭や土鍋のような伝統的な天然材を使っているものもあれば、高機能な素材やコーティングを何層も重ねて厚みをもたせているものもあります。一例としてパナソニックの5~7万円前後の炊飯器の内釜の厚みは2.4mmであるのに対し、2万円以下の炊飯器の厚みは1.5mmです。
そのほか米の銘柄によって炊き分ける機能、保温時間の長さ、IoT(インターネットであらゆるモノがつながること。 インターネットにつながった洗濯機や冷蔵庫などの家電のことをIoT家電という)などの付加機能によっても価格は高くなっていきます」
お手頃価格でもおいしく炊ける「高コスパ炊飯器」も
結局、炊飯器は「安かろう悪かろう」なのかというと、田中さんの見解は「NO」。お手頃な価格の炊飯器でもおいしく炊ける、「高コスパ」な炊飯器があるそうです。
「選ぶならIH式または圧力IH式がおすすめ。IH式、圧力IH式は約3万円以下の炊飯器でもおいしく炊けるものもあります。高級炊飯器の開発により、おいしい米を炊くための条件という知見と技術自体が底上げされているからです。中でもIH方式であれば、リーズナブルな価格でおいしく炊ける炊飯器は少なくありません。2~3万円前後を目安に、内釜の厚みなどをチェックしてみるといいでしょう。
なお、マイコン式は加熱自体に限界があるため、おいしいご飯を追求したい人にはあまりおすすめはできません」
田中さんがおすすめのIH方式の炊飯器はこちら。
【1】東芝ライフスタイル『炎匠炊き RC-10VRT(約0.5~5.5合炊き)』※IH方式

吸水しにくい玄米や麦も、芯までふっくら炊き上がる真空IH方式。
炊飯器に独自の真空技術を搭載している東芝ライフスタイル

「東芝ならではの真空IH方式を採用しつつ、2万円台で購入が可能。吸水時、内釜を真空にし、米の芯までたっぷり吸水。それによって米内部までしっかり熱が伝わり、ご飯の甘みをアップさせます。白米はもちろん、吸水しにくい玄米や麦なども芯までふっくら炊き上がります。
内釜は、かまどのような熱対流を起こす60度の丸底に設計。銅コート、ダイヤモンドチタンコートといったこだわりの素材を重ね、2mmの厚みに仕上げています」
真空技術により、最大40時間保温しても酸化によるご飯の黄ばみや水分の蒸発を抑え、時間が経ってもふっくらし、おいしさをキープするというのも特長です。



【2】三菱電機『炭炊釜 NJ-VED10-W(1~5.5合炊き)』※IH方式

高級炊飯器の先駆けとなった三菱電機。その技術をIH方式にも存分に注いでいます。
米の旨みが逃げない炊飯技術で、冷めてもおいしい。おにぎりや弁当にも

「三菱電機はハイエンドモデルの内釜に本炭釜を採用していますが、本製品には備長炭コート仕様にすることで、ブランドの系譜を継いでいます。さらに三菱電機はあえて圧力は使わないため、米1粒1粒が保水膜(お米を包み込み、旨みを閉じ込める水分)でキレイに覆われ、ツヤのある米を炊き上げることが可能。旨みを内包し続けるので、冷めてもおいしいのが特徴です。
ほか、超音波振動で吸水を促してから連続沸騰するので、洗米直後にスイッチを入れても米の旨みを引き出します。浸水の時間を省けるのはうれしいですよね。スタンダードモデルでも、こうした独自技術でおいしさを追求しています」
2~3万円程度の炊飯器で、ここまでおいしさを追求できたらいうことなし!
◆教えてくれたのは:家電ライター・田中真紀子さん

雑誌やウェブなどの多くのメディアで、新製品を始めさまざまな家電についてレビューを執筆している。https://makiko-beautifullife.com
取材・文/桜田容子
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