松村北斗さん(28歳/SixTONES)と上白石萌音さん(26歳)がダブル主演を務めた映画『夜明けのすべて』が2月9日より公開中です。ベストセラー作家である瀬尾まいこさんの同名小説を原作とした本作が描くのは、それぞれに“生きづらさ”を抱えた男女が特別な関係を築いていく物語。鑑賞後には胸に温かいものが残る、そんな作品に仕上がっています。今回は、本作の見どころや松村さん、上白石さんの演技について、映画や演劇に詳しいライターの折田侑駿さんが解説します。
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瀬尾まいこさんの同名小説を、大注目の三宅唱監督が映画化
本作は、『僕らのごはんは明日で待ってる』や『そして、バトンは渡された』などがこれまでに映画化されてきたベストセラー作家・瀬尾まいこさんによる同名小説を映画化したもの。メガホンを取ったのは、大きな注目を集める三宅唱監督です。
三宅監督といえば、前作『ケイコ 目を澄ませて』(2022年)が映画賞を総なめにしたのが記憶に新しいところ。俳優との驚くべき化学反応を起こした演出や美しい映像に多くのかたが胸を打たれたことでしょう。
その三宅監督が松村さんと上白石さんを主演に迎えて描くのは、現代人の抱える生きづらさと、ある種の癒し。この時代を生きる私たちにあたたかな光をもたらす、とても優しい作品なのです。
パニック障害を抱える山添くんと、PMSに翻弄される藤沢さん
月に一度、PMS(月経前症候群)で感情が抑えられなくなる藤沢さん(上白石)。これは周囲にはうまく打ち明けられない、彼女の個人的な悩みです。
そんな藤沢さんはある日、同僚の山添くん(松村)のとある些細な行動がきっかけで怒りを爆発させてしまいます。それは周りのみんなを心配させるほどのものです。
転職してきたばかりだというのに、まるでやる気が無さそうに見える山添くん。けれども彼もまたパニック障害を抱えていて、自らさまざまなことを諦め、生きがいも気力も失っているのです。
やがてふたりは心優しい職場の人々の理解に支えられながら、友だちでも恋人でもない、どこか“同志”のような特別な関係を築いていくことに。自分の症状は改善されなくても、相手を助けることはできるのではないかと考えるようになっていくのです。
バイプレイヤーと気鋭俳優が体現する、溢れ出しそうな優しさ
本作は、瀬尾さんの原作に映画オリジナルの要素が加わっています。例えばそれは、山添くんと藤沢さんを囲む人々の設定。みながそれぞれに生きづらさを抱え、目の前にある自分の人生に向き合い、他者に向き合っています。
2人が勤める栗田科学の社長を光石研さん、藤沢さんの母親をりょうさん、山添くんの前の職場の上司を渋川清彦さんといったバイプレイヤーがそれぞれ演じ、山添くんの恋人を『ひらいて』(2021年)や『こいびとのみつけかた』(2023年)などの芋生悠さん、藤沢さんの友人を、放送中の朝ドラ『ブギウギ』(NHK総合)の藤間爽子さんら気鋭の俳優が演じています。
スクリーンから溢れ出しそうな人々の優しさ。そのような作品の中心に、松村さんと上白石さんは立っているのです。