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《ドラマ『夫よ、死んでくれないか』で注目》妻から夫への激しい憎悪や秘めたる狂気が爆発…背景にはSNSの存在 吐き出した不満への共感が復讐心を助長する

夫のモラハラで激しい憎悪が爆発する(写真/PIXTA)
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テレビ東京系ドラマ『夫よ、死んでくれないか』をきっかけに、“夫に死んでほしい妻”をめぐって、数々の考察がなされ、議論を呼び、共感を集めている──。

同作は丸山正樹さんの同名小説が原作で、安達祐実(43才)、相武紗季(39才)、磯山さやか(41才)がトリプル主演を務める。夫に強い不満を持つ3人の妻が、満身創痍で命を削りながら“幸せ”を求め、あがく物語だが、放送が始まった当初はあまりにもストレートなタイトルが物議を醸した。

ドラマでは、2人のモラハラ夫が注目されている。「誰の稼ぎで暮らせているんだ」と専業主婦の妻・友里香(磯山)をバカにする夫・哲也(塚本高史)と、相武演じる璃子の夫・弘毅(高橋光臣)だ。特に弘毅はGPSを使った束縛や妻のメールチェックに加えて、空気を読まず笑顔でこなす奇行の数々が話題となっている。

夫に対して「死んでくれないかなぁ」と切実に願う3人の妻の姿に、「いくらなんでもセンセーショナルすぎる」と評する意見もある一方で、「よくぞ言ってくれた」「私も夫に死んでほしい」と秘かに共感する妻の声も聞こえる。賛否両論を呼んだドラマの背後には、夫婦のいまをめぐる世相が潜んでいるのだ。

SNSに不満や愚痴を吐き出し共感される連帯感で復讐心が助長

夫への激しい憎悪や内に秘めたる狂気が爆発する背景には、SNSの存在も見逃せない。公認心理師の小高千枝さんが語る。

「私が起業した2007年にはモラハラという言葉自体はそこまで一般的ではありませんでした。その後、言葉が浸透すると同時に、SNSで一気に拡散された。それまで多くの妻は、夫に不満があっても殻に閉じこもって、ひとりで悩み苦しんでいたけれど、SNSで共有してくれる仲間たちが現れて、ひとりじゃないという安心感が広がっていったのです」

夫に関する悩みや苦しみがSNSを通じて広く共有、共感されるようになったのちに芽生えたのが、「復讐」や「成敗」をしたいという強い怨恨感情だ。

こうした感情は昨今のドラマで『子宮恋愛』(日本テレビ系)や、『愛人転生〜サレ妻は死んだ後に復讐する』(TBS系)など不倫や復讐をテーマとした過激なタイトルの作品が目立つことにも裏打ちされている。

特にテレビ東京は2024年に『夫の家庭を壊すまで』、『夫を社会的に抹殺する5つの方法』の2作を放映した。コラムニストの吉田潮さんが言う。

「ともに不倫夫やモラハラ夫に妻が復讐を果たす話で、夫が散々な目にあう展開に視聴者はワクワクしました。その第3弾ともいえる『夫よ、死んでくれないか』はタイトルがあざとく最初はひかれませんでしたが、見始めると繊細に作り込んであるのがわかって一気に引き込まれた。

SNSに不満を書き込むことで賛同を得られる半面、”炎上”してさらにダメージを受けるリスクもある(写真/PIXTA)
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特に高橋さんが演じる弘毅は、1992年のTBS系ドラマ『ずっとあなたが好きだった』で佐野史郎さんが演じて社会現象にもなった、マザコンでオタクの『冬彦さん』の再来とされる特異なキャラクターで目が離せません」

復讐モノがドラマのトレンドになる背景には、人々が抱える「心の闇」があると吉田さんが続ける。

「世の中に“悪意ゼロ”の人はいなくて、みんな何かしらのストレスを抱えています。フィクションの世界ではそのフラストレーションがさまざまな形で復讐や成敗として成就されるから胸がすくんです。特にいまはコンプライアンスがうるさい地上波のドラマより、人がバンバン死んでいく漫画やNetflixなどの動画配信サービスで溜飲を下げる人も多い」

こうした復讐心を何倍、何十倍、何百倍にも増長させることもSNSの魔力であると小高さんは続ける。

「SNSを通じて多くの人が自分の悩みに共感してくれると、自己肯定感が高まるような感覚に陥り、自分が夫よりも強くなったような思い込みが発生しやすい。そのように密かに抱いていた復讐心を助長してしまう傾向がSNSにはあるように感じます。SNSに吐露し、共感を得られることで溜飲が下がりますし、自尊心を回復できるという人もいるでしょう」

SNSが抱える「思い込みリスク」とは

ある種の承認欲求が満たされる半面、SNSに居場所ができることには注意すべき点もある。

「SNSにのめり込んで恨みつらみの書き込みを続けると視野がどんどん狭くなり、相手をおとしめるような負の感情ばかりに苛まれてマイナスのスパイラルに陥ることがあります。SNSだけが自分の居場所になってしまうことも、精神的な不安定さを助長してしまうのです」(小高さん)

SNSはハマると抜けられないアリ地獄のようなものではないか。

夫婦問題カウンセラーの高草木陽光さんもSNSが抱える「思い込みリスク」に警鐘を鳴らす。

「SNSを通じてガス抜きやストレス発散ができ、たくさんの情報を得られる半面、一歩間違えると、誤情報や偽情報に騙されて間違った方向に進んでしまいます。似たような考えを持つ者ばかりが集まって傷をなめ合うようになり、“私たちだけが正しいんだ”と思い込んで思想や行動が過激化する恐れもあります」

近年は妻のモラハラやDVなどに悩む男性からの相談も増えている。しかし配偶者に復讐心など強い感情を抱くのは女性の方が多いと小高さんが言う。

「世界的な研究で、恐れ、喜び、悲しみ、怒り、愛情という5つの感情を調査した結果、怒り以外の感情は女性の方が強かった。

しかも女性は感情的になる要素が多いことに加えて、ストレスが高まると自分で解決しようと自分の殻に閉じこもるか、誰かを頼るかの両極端な傾向が認められます。このため感情が高ぶるとSNSに過度に依存して、恨みや復讐心など負の感情をさらにこじらせる可能性があります」

夫への不満や恨みが募り、「いなくなってほしい」とまで思う。離婚をすればいいという人もいるだろう。

だが、夫に離婚を切り出し、子供の親権を話し合い、財産について争う──その手間とエネルギーを考えれば、離婚の方が現実的ではないと考える人は少なくない。とはいえ、殺してやりたいと、実際に犯罪に手を染めたいわけではない。事故や事件に巻き込まれて“ふっといなくなってくれたらいいのに……”と願ってしまう気持ちが、“夫よ、死んでくれないか”という言葉に込められている。

DV被害を訴える人は急増している
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※女性セブン2025年6月5・12日号

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