
ステージIVの大腸がんに侵されながら、23才で娘を出産した遠藤和さんは、亡くなる10日前まで、かけがえのない時間を日記につづった。この日記は、2021年12月に『ママがもうこの世界にいなくても 私の命の日記』というタイトルで書籍化、さらに川口春奈主演で映画化され、10月に公開される。
闘病の末、24才でこの世を去ってから5年──残された夫・将一さん(35才)と娘は、ママがいない世界を“家族3人”で生きている。夫と娘はどのようにして前を向き、歩んできたのか。髪も結えない、料理も苦手な夫は男手ひとつでどうやって子育てをしているのか──微笑ましくもあり、苦悩も感じさせる父娘のリアルを記した《あの日から、僕らは》を、3回にわたって特別に公開する。【第1回・前後編の後編】
僕だけは和を忘れずにいてやりたい
和さんは、衰弱してペンが持てなくなってからはスマホで日記を打ち込むように。家族の証を残したいと向き合った編集作業を担ったのは将一さんだった。
〈2021年10月3日(日)
和がつけていた日記は、僕の手元にある。本に入れられるのは、書かれていることの一部だけだ。編集部の皆さんが内容を提案してくれる。それを読みながら、僕ら夫婦が意見や気持ちを伝える作業「読み合わせ」を、今日から再開することになった。
これまでずっと和と一緒にやっていたが、今日からは僕ひとり。「しながわ水族館に行った」という記述のあたりで記憶が一気によみがえり、声を上げて泣いてしまった。〉
人見知りで控えめな和さんが思案を重ね、“もし私がいなくなっても娘に残せる記録になるかもしれない”と決心した書籍作り。その思いを将一さんはしっかりと受け継いでいた。
〈2021年12月1日(水)
ふたりで作った本『ママがもうこの世界にいなくても』が出版された。
親子3人で一緒にクリスマスを迎えるつもりだったし、和もそれを目標にして頑張っていたが叶わなかった。それでも願いのひとつは叶った。ママがどんな人で、どんな気持ちで娘を授かり、どんな人生を送ったのか。なるべくたくさんの話を形にして娘のために残すこと。
本にまつわる読み合わせの作業を終えてから、和の日記を開いていないことに気づいた。読み合わせのときには、どうしても読み直さないとならなかった。開くと、とたんに気持ちが揺れる。最近は表紙を眺めるだけにして、文章は読まないようにしている。〉

当時の心境を、将一さんが振り返る。
「原稿の読み合わせをしていると和の表情や声がよみがえり、打ち合わせ中に声を上げて泣いてしまったこともありました。
でも、和の代わりに僕がしっかりやらねばと心がけていました」
目まぐるしい日々でも、将一さんの中に、そして娘の中にも、和さんは息づいている。
〈2022年8月28日(日)
『24時間テレビ』で和のドキュメンタリー映像が流れ、それを観た娘が「ママ!」と言って、画面を指差したらしい。
2022年9月3日(土)
清澄白河の善徳寺で、和の一周忌。
あのときには山のような連絡がきた。一年でほとんどの人の頭の中から和は消える。たった一年なのに、僕の中の和でさえ薄れてゆく。子育てや仕事にかまけて、そのことに気づいていなかった。
読経が始まる前に、僕だけは和を忘れずにいてやりたいと思った。すると、和の姿が鮮明によみがえった。どういうわけか、つらい場面ばかり。同棲中にケンカをして「もう別れる!」と怒って出ていってしまった後ろ姿、ベッドの上で病と戦う姿。ふと娘に目をやると、とても落ち着いた様子で座っていた。ふたりのことを考えた。〉
将一さんが振り返る。
「5年前には『自分には到底できない』と思ったことができるようになってきました。レシピを見なくてもさっとオムライスが作れるようになったし、料理のレパートリーも増えました。娘にせがまれた三つ編みも、汗をかきながら30分かけて、なんとかできました。娘が小学校に入学すると自分でできることが増える一方、父親に求められることも多くなるようです。日々成長せねばと思います」
* * *
和さんが残した家族の物語は映画になり、10月2日に公開される。和さんが命がけで追い求めた愛と家族の物語が、よみがえるのだ。
※女性セブン2026年9月24日号