健康・医療

《世界中から患者が絶えない眼科医が指南》「目の寿命」を伸ばすには、糖質をとりすぎない食生活がカギ

”世界基準の目の守り方”とは?(Ph/イメージマート)
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日本は世界最長寿の国となり、人生100年時代を迎えています。ところが「目の寿命」ははるかに短く60〜70年ほど。十分な準備をしておかないと人生の後半に目の病気や視力障害で生活に支障をきたしてしまうかもしれません。世界中から治療を求めて患者の絶えない眼科専門医・深作秀春さんが世界基準の目の守り方を記した『100年視力』(サンマーク出版)から一部抜粋、再構成してお届けします。【前後編の前編】

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目の疲労とは「毛様体」の疲労だった

私たちの目は、始終、近くを見たり、遠くを見たり、言わばよく「運動」しています。そう聞くと、目がきょろきょろ、忙しく動いているのをイメージするかもしれません。確かに、目の向きもいろいろ変わります。

しかし、眼球以上に細かい調節をして、見るものに焦点を合わせるために動いているのが、水晶体に連なる「毛様体」という筋肉や「チン小帯」という細かい線維組織です。

近くを見るときは毛様体が緊張し、チン小帯がゆるんで、水晶体が自らの弾力でふくらみます。遠くを見るときは毛様体がゆるんで、チン小帯が張って、水晶体を引き伸ばします。それで光の屈折率が変わり、網膜に焦点が合うのです。

長い時間、スマートフォンや本、書類など近くでしっかり読もうとすると、チン小帯をゆるませるために毛様体はずっと緊張していることになりますね。そのため、そのような行為の後に目の疲労を感じやすい。

ベッドでスマートフォンに夢中になっている女性
長時間スマートフォンを見ていると、毛様体はずっと緊張していることになるため目の疲労を感じやすい(Ph/GettyImages)
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それはつまり毛様体筋の疲労です。これが私たちの生活上、目の疲れを感じる原因の1つとして大変よくあることです。

現代生活では近くばかり、長時間、見続けることが多いのです。毛様体の筋肉は、寝ている時間をのぞき、1日の大半を過度な緊張状態ではたらき続けているでしょう。

みなさんやご家族は、電車での移動時間も、ベッドで寝る直前までも、熱心にスマートフォンを近くで見ていたりしませんか? 最近はそのような人がとても多いですが、目にとっては、先に述べたブルーライトとWパンチで、疲れないわけがありません。

もしも視力の継続的な低下のほか、慢性的な肩や首のこり、頭痛、吐き気などがあったら、それも目の過度な疲労が原因の可能性があります。目の疲労から、全身的な不調につながることもあるのです。

目を酷使しないように、作業時間を見直し、積極的に目を休ませる時間をもちましょう。目の疲労によいとされる目薬だけをあてにしても、近くを見続ける時間を減らさなければ、根本的には回復しません。

目をまもるには「目が喜ぶ攻めの休養」を

現代生活を送る私たちが目のためにすべきことは、目の「積極的休養」です。

そうでなくてもはたらきすぎの組織、緊張・運動しすぎの筋肉など、すべて「休ませる」時間こそ必要です。

積極的休養では、目の組織を休ませつつ、目の周囲の血行を改善し、目に酸素や栄養がしっかり届く状態に整えます。そのために、頭や首、肩もほぐし、姿勢を整えることも必要になります。

しかし、それほど難しいことをしなくてもいいですし、短時間でできることで、十分に目を休ませることができます。

目の機能を高める栄養

私たちは「食べる」ことで体を養い、さまざまな機能をはたらかせて生きています。

まず「目」を主として何を食べたらいいか、科学的根拠がある「栄養になる食」について、ご紹介しましょう。

野菜と果物
科学的根拠がある「栄養になる食」とは(Ph/photoAC)
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目の「黄斑部」は、見るはたらきの中心になる「網膜の中心部」を含む、文字どおり黄色い部分です。

この色はカロテノイドと呼ばれる、黄色または赤色の色素成分です。強い抗酸化作用をもっている色素で、人の体の中で合成されることはないですが、動植物に広く存在するので、私たちは食べて取り込んでいます。

網膜の中心にはカロテノイドの一種・ゼアキサンチンが多く、黄斑部の周辺には同じくカロテノイドの一種・ルテインが多く集まり、黄斑部を酸化からまもってくれています。また、この色素はブルーライトの吸収もして、網膜をまもります。

ゼアキサンチンやルテインを豊富に含む食材を食べれば、消化された後、小腸から色素が吸収され、血液を通じて黄斑部に集まるわけです。

豊富に含まれる食材は、ゼアキサンチンの場合は「クコの実」「トウモロコシ」「パプリカ」「ホウレンソウ」、ルテインは「コマツナ」「モロヘイヤ」「ケール」「ホウレンソウ」など。ゼアキサンチンとルテインはともに緑黄色野菜に豊富と覚えておくと重宝です。

ぜひ緑黄色野菜を食卓に登場させる回数を増やしましょう。

また、魚介類から赤い色素・アスタキサンチンをとるのも網膜の抗酸化・活性酸素の除去に役立ちます。イクラやサクラエビ、サケ、ロブスターなどの“赤”がこの色素の色です。

アスタキサンチンは、黄斑変性のほか、光害や免疫異常で起こる「ブドウ膜」の炎症を抑え、ブドウ膜の一部で、水晶体の厚みを変化させる「毛様体」の疲労を回復させる効果も報告されています。

お刺身の盛り合わせ
魚介類から赤い色素・アスタキサンチンをとるのも網膜の抗酸化・活性酸素の除去に役立つ(Ph/GettyImages)
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さらに、脂質は網膜にある視細胞(錐体細胞や桿体細胞)をまもることがわかっています。

とくにとりたいのは、青魚に豊富なEPAやDHAなどのオメガ3系脂肪酸。ひところ血液をサラサラにし、抗酸化・抗炎症作用があると大きなブームになりました。

みなさんに周知されたからでしょうか、最近、あまり話題にはなっていませんが、良質な脂質をとることは目にとっても大事です。

全身の血行改善、血管や血流の問題と関係が深い生活習慣病予防などに良い脂質なので、目のためにもぜひオメガ3系脂肪酸をしっかりとっていきましょう。

青魚のEPAやDHAは缶詰の加工品からも手軽にとることができます。

また、オメガ3系脂肪酸は植物性の油にもあります。アマニ油やエゴマ油がよく知られているでしょうか。ただし熱には弱いので、植物性油の場合、低温圧搾の品を選ぶことが大切。また食べるときも熱を加えない食べ方をしましょう。

緑黄色野菜の色素は、油と一緒に食べると吸収がよくなります。ホウレンソウやパプリカのサラダに、青魚の缶詰をトッピングしたり、アマニ油をドレッシングでかけたりして食べれば、手間いらずの一石二鳥レシピですね。コマツナのおひたしに、エゴマ油ドレッシングもいい。こういった手軽な組み合わせを楽しみながら、飽きない副菜メニューを増やして食べましょう。

食事だけで栄養をとりきれないとき、サプリメントや栄養補助食品を活用するのも良いでしょう。

「糖質をとりすぎない食生活」が目にもいい

従来、生活習慣病と呼ばれてきた病気や、がんさえも、昨今は「酸化」「糖化」「炎症」との関係が熱心に研究され、新しい情報が次々と明らかになっています。

そして目の衰えや病気も例外ではなく、「酸化」「糖化」「炎症」と関係しています。ですから、一般的に生活習慣病を防ぐとされる食生活が、目の健康をまもることにもなるのです。

糖質のとりすぎと、血糖値スパイクによる血管への負担増には注意が必要(Ph/photoAC)
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とくに私が重要視するのは、糖質のとりすぎと、血糖値スパイクによる血管への負担増です。これが糖尿病に限らず、血管や血流に関係するさまざまな病気をまねく原因になると思います。

とくに現在、高血糖などではないとしても、日々の食生活で糖質をとりすぎないように気をつけることは健康づくりに通じるでしょう。というのも、忙しかったり、疲れていたりすると、ついつい糖質が多いお手軽食に偏ってしまいがちだからです。

菓子パンやおにぎりだけ。急いでいて、とりあえず麺類でお腹いっぱいに。ごはんを食べる時間がないからスナックと炭酸飲料で空腹をまぎらわす。

若い人だけではなく、中高年も、食事に意識的でないと、そのような食生活になることはあります。

こういった食事ではビタミンやミネラル、食物繊維、そしてカロテノイドなどのファイトケミカルがほとんどとれません。「時間がない」と感じていて、手早く済ませたいわけですから、よく噛まずに食べる。これも良くないですね。

そのような毎日が続くと、疲れがたまっていきます。ストレスも強く、より糖質の多い食べものを欲する負の連鎖におちいる危険もあります。目にも、全身にも負担になる食生活です。

ぜひ、バランスの良い、満足感の高い食生活をめざして、食事の時間をしっかりとり、食べることで体を養っていることを忘れず、大切に食べてください。それが生活習慣病を防ぎ、100年視力をかなえます。

◆教えてくれたのは:眼科専門医・深作秀春さん

深作秀春さん
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神奈川県横浜市生まれ。眼科専門医、深作眼科院長。米・独で研鑽を積み、白内障や緑内障などの近代的手術法を次々と開発。米国眼科学会理事を務め、眼科殿堂選考委員、学術賞審査委員などを歴任。それまで不可能とされた眼病の新しい治療法の開発や、多くの革新的眼科手術法の開発により、国際眼科学会最高賞を20回受賞。2017年には、世界最高の眼科外科医に贈られる「クリチンガー・アワード」の、欧米以外の医師では初めての受賞者となった。現在は世界最高のスーパードクターとして25万件の手術実績を有し、日本中だけでなく世界中から患者が治療を求めて来院する。他方でプロ芸術家でもあり、多摩美術大学大学院を修了し、日本美術家連合会員という画家としての一面もある。

『100年視力』(サンマーク出版)

●放置すると視力悪化!ドライアイ対策に「目を温める方法」を眼科医が解説

●「1日3食とらなくてもいい」うつを経て精神科医がたどり着いた「小食」のメリット