通常は65歳から受給できる公的年金ですが、65歳より後に受給を開始する「繰り下げ受給」や65歳より前に受給を開始する「繰り上げ受給」という仕組みもあります。それぞれのメリット・デメリットはどんなところにあるのでしょうか? 節約アドバイザー・ファイナンシャルプランナーの丸山晴美さんに、繰り下げ受給・繰り上げ受給の仕組みと、選び方のポイントを教えてもらいました。
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繰り下げ受給と繰り上げ受給とは(制度の説明)
老齢基礎・厚生年金の受給開始は原則65歳ですが、受け取り開始を遅らせる「繰り下げ受給」や受け取り開始を早める「繰り上げ受給」という仕組みがあります。
繰り下げ受給は、66~75歳の間で申し出た時点から年金の受け取りを開始する仕組みで、1か月繰り下げるごとに0.7%年金額が増額され、75歳まで繰り下げれば最大84%増額されます(https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/kuriage-kurisage/20140421-02.html)。
一方、繰り上げ受給の場合は60~65歳の間に受給を開始する仕組みで、1か月繰り上げるごとに0.4%年金額が減額されます(https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/kuriage-kurisage/20140421-01.html)。
繰り下げ受給のメリットとデメリット
繰り下げ受給のメリットは、繰り下げた期間に応じて年金額が増額されることです。長生きするほど老後の資金が枯渇するリスクは高まるため、長生きをした場合のリスクに備えるなら繰り下げ受給を検討するといいでしょう。
一方で、厚生年金(共済年金)を受け取っている人に、扶養している配偶者や子供がいると厚生年金(共済年金)に上乗せされる「加給年金」は、繰り下げ期間中は受け取れないというデメリットがあります。繰り下げ受給を検討している場合は、加給年金の受給対象となっているかどうか確認しておきましょう。
繰り上げ受給のメリットとデメリット
繰り上げ受給のメリットは早くから年金を受け取れること。できる限り元気に身体が動くうちに年金を受け取り、老後を楽しみたいという場合は繰り上げ受給が適しています。
デメリットは、年金額が減額され、そしてその金額がずっと続くことです。長生きするほど資金の枯渇するリスクが一層高まることになります。
また、国民年金の第1号被保険者として保険料を納めた期間などが10年以上ある夫が亡くなった場合、その夫と10年以上の婚姻関係があり、かつその夫に生計を維持されていた場合は60歳から65歳の間、寡婦年金を受給することができます。繰り上げ請求した日以降は、国民年金の寡婦年金が支給されなくなるため注意が必要です。
受給方法を考えるときのポイント
繰り下げ受給と繰り上げ受給はそれぞれメリットとデメリットがあり、どちらのほうがいいかは人によって違います。受給方法を考えるときのポイントを踏まえて、どちらが自分にあっているか考えてみましょう。
自分にとっての「老後」が何歳からかを考える
受給の繰り下げ・繰り上げを検討するときは、自分にとっての「老後」が何歳なのかを考えることが大切です。65歳以降を老後と考えるケースが多いですが、何歳まで働きたいかによって、老後の概念は変わります。何際まで働き、何歳からは老後として年金をもらいながら生活していきたいのか考えてみるといいでしょう。
もらえる年金額を調べておく
実際に自分がもらえる年金額も調べておくようにしましょう。65歳から受給すると年金が不足しそうな場合は繰り下げ受給を選ぶほうがいいですし、繰り上げても十分な額がもらえそうであれば繰り上げ受給でもらって早めに老後を楽しむのもいいでしょう。
「働けるうちは働く」がひとつの目安
1~2年だけ働いて繰り下げ受給をする、といったこともできるため、働けるうちは働いてから繰り下げ受給を開始する、というのが選び方のひとつの目安になります。
ただ、年金は現役世代が払っているものであり、自分たちがこれまでに払ったものを受け取っているわけではないことから、今後受給できる額は減っていくと見込まれています。そのため、働く目途がないのであれば、もらえるうちにもらっておく、というのも選択肢です。
ただし、繰り上げ受給をした場合は途中で取り消しができず、繰り下げ受給の場合も一度受け取ったらそれ以降の取り消しはできないため、慎重に考えるようにしましょう。
◆教えてくれたのは:節約アドバイザー・丸山晴美さん
節約アドバイザー。ファイナンシャルプランナー。22歳で節約に目覚め、1年間で200万円を貯めた経験がメディアに取り上げられ、その後コンビニの店長などを経て、2001年に節約アドバイザーとして独立。ファイナンシャルプランナー(AFP)、消費生活アドバイザー、宅地建物主任士(登録)、認定心理士などの様々な資格を持ち、ライフプランを見据えたお金の管理運用のアドバイスなどをテレビやラジオ、雑誌、講演などで行っている。https://www.maruyama-harumi.com/
構成/新藤まつり