健康・医療

血管年齢が寿命を伸ばすカギに! 医師が解説する血管を“長持ちさせる”秘訣、運動のしすぎは逆効果?「血管若返り体操」のやり方

腕の血管を触る女性の手元
血管年齢が寿命を決める(Ph/PIXTA)(Ph/イメージマート)
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体中に必要な酸素や栄養素を行き渡らせるため、休むことなく働き続ける血管。年をとるにつれ、動脈硬化や脳梗塞などさまざまな血管の病のリスクは高まる。すなわち、血管を老化させないことは寿命を延ばすことに直結するという。いつ始めても遅くはない血管若返り術、やらない手はない。

監修・取材

・信濃坂クリニック院長・東京医科大学名誉教授 高沢謙二さん
・愛媛大学医学部附属病院 抗加齢・予防医療センター長 伊賀瀬道也さん
(著:『80歳の壁を超える血流がみるみるよくなる体の治し方大全』など)
・栗原クリニック東京・日本橋院長 栗原毅さん
・東海大学医学部教授 西崎泰弘さん

増えている 血管の病気による死亡者は前年比2.2%増

日本人の死因の第1位はがん。しかし、がんで死ぬ人の割合は年々減少傾向にあり、それと比べて増えているのが血管の病気による死亡者だ。国立がん研究センターの発表によると、2021年の日本人の「全死因年齢調整死亡率(※異なる集団や時点と比較するために、年齢構成を調整して計算した死亡率のこと)」は、前年に比べて2.2%増加。一方、がんによる死者は0.6%減少した。

つまり、がん以外の要因による死亡者が増えているということであり、具体的には新型コロナウイルス感染症や老衰、そして、循環器疾患など血管の病気が挙げられる。

信濃坂クリニック院長で、東京医科大学名誉教授の高沢謙二さんが言う。

「世界的に疾患別死因の1位は虚血性心疾患、2位は脳卒中といわれていて、日本も同じです。加齢とともに血管も衰えていき血流が悪化して、死に直結する病のほか、認知症や慢性腎臓病の原因になると指摘されている。血管年齢を若く保つことが寿命を延ばすことは間違いありません」

血管年齢とは?血管の老化をたしかめる脈波伝播速度

そもそも血管年齢とは、どのようにして測れるのか。

「いわゆる『血管の硬さ』を表した数字です。心臓から体中に向かう動脈には、常に拍動(心臓の動き)の衝撃が伝わっています。しなやかで柔らかな血管ならこの衝撃を吸収できますが、老化して硬くなっているとダイレクトに大きな衝撃が伝わり、これが血圧を上昇させ、さらに硬化させてしまうのです」(高沢さん)

愛媛大学医学部附属病院抗加齢・予防医療センター長で『80歳の壁を超える血流がみるみるよくなる体の治し方大全』などの著書がある伊賀瀬道也さんも言う。

「血管の老化をたしかめるため、臨床では脈波伝播速度という、血管の中の血液が流れていくときの振動の伝わるスピードをみます。血管の硬さを、血管の中の血液を送り出す振動の伝わるスピードでみることができるわけです。

そのスピードが速ければ速いほど老化は進行していると言えます。心臓は、血液を送り出すと同時に、血液をためるための時間が必要です。そのため、われわれの血管は心臓が血液を出すと、ちょっとの間膨らんで、一部は血管に流れつつも、スポンジのように血管の壁にも血液を蓄えます。そして心臓が血液をためている間は、その膨らんだ血管から血液がしゅわーっとしみ出ることで、また血液を流す仕組みになっている。

しかし土管のような硬い血管だと柔軟な伸縮がないため、血液はぴゅーっと流れてしまい、心臓は血液をためることもままならず栄養も届かなくなってしまいます」

ほかの臓器に比べ血管は老化しやすいと言うのは、東海大学医学部教授の西崎泰弘さんだ。

「例えば、胃や腸や肝臓は食事や消化の際は酷使されますが、それ以外は休んでいる時間もあります。脳も睡眠中は働きを2〜7割ほど下げている。

血管は24時間365日営業

一方、血管は生まれた瞬間から常に酷使され続けています。また、驚いたり寒いところに行ったりすれば血圧は上がり、眠ったりトイレで排泄すれば下がるというように、生活のさまざまな局面で血圧は上下動しています。血管はこうした変化を受け止めながら、24時間365日休みなしで働く必要があるため、”経年劣化”は格段に速い。基本的に血管年齢は実年齢に比例しますが、生活習慣の乱れやストレスで血管の老化が進むこともあります」

さらに血管の老化には男女差があり、女性の方が老化のスピードが速いという指摘もある。

「女性は50才前後で閉経を迎えると、エストロゲンという女性ホルモンの分泌が少なくなり、これが血管を硬化させることがわかっています」(高沢さん)

血管年齢が寿命を決める(Ph/PIXTA)
「ゴースト血管」にも気をつけたい(Ph/PIXTA)
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血管の硬化と同時に、「ゴースト血管」にも気をつけたい。

伊賀瀬さんが言う。

「ゴースト血管とは、毛細血管に血液が流れなくなる状態を指し、それらはいずれ消滅してしまいます。血流が滞るため、肌のシミとかしわ、便秘や冷えなどあらゆる不調を引き起こすばかりか、認知症などにつながる可能性もある。

認知症患者のMRIをとると、白質病変といって白い斑点が出ることがあります。これは脳深部の白質というところで、血の巡りが悪くなっている状態。20代と比べて60代、70代は毛細血管の4割ほどが傷んでなくなるとされますが、血管年齢同様に生活習慣によっては加速してしまうことがあります」

血管は、静かに老化することが大きな特徴のひとつ。老化が進んでいても、その過程では自覚症状はほとんどない。

「血管が老化すると血流が停滞して、プラークと呼ばれる悪玉コレステロールの塊を主体としたものができ、それが破れると血栓となって血管をふさいでしまいます。ただし内膜には知覚神経がないため、プラークがついて大きくなっていっても人間は感知できない。

老化に気づかないまま、心筋梗塞や脳梗塞、脳卒中といったかたちで前触れなく訪れ、対応が遅れれば命を奪う“サイレントキラー”なのです」(高沢さん・以下同)

翻って言えば、日常の中で自分の血管状態を把握しておくことが老化を防ぐことにつながる。

「血糖値、血圧、脂質、それから喫煙歴。これらと血管年齢は関係があると考えられます。心筋梗塞や脳卒中の4大危険因子と呼ばれる高血圧、脂質異常、糖尿病、喫煙歴のある人の血管年齢は、高い傾向にあるからです」

食生活や生活習慣など50項目で血管年齢セルフチェック

セルフチェックの重要性を説くのは栗原クリニック東京・日本橋院長の栗原毅さんだ。

「血管年齢を正確に把握したければ医療機関での検査が必要ですが、検査では緊張して数値が上がってしまう人も少なくありません。そこでまずは、食生活や生活習慣など50項目(別掲)をチェックしてみましょう。実年齢相当なのか若いのか老けているのかといった、おおよその血管年齢がわかります」

血管年齢が老けていても、あきらめるのは早すぎる。実年齢の進行を緩めたり若返らせたりすることはできないが、血管年齢は“若返る”ことができるのだ。

「血管年齢を左右する要素は、動脈硬化と血管機能の2種類があります。動脈硬化というのは、血管の壁が厚くなっている状態なので、簡単には薄くできません。しかし、血管機能の方は、多少動脈硬化が進んでいても、生活習慣で機能を高めてしなやかさを保つことはできます。始めるのはいつからでも遅くありません」(西崎さん)

生活習慣〇個+ストレス〇個+食生活〇個+女性の悩み〇個=合計〇個
合計数が0~10個→実年齢+0才
11~20個→実年齢+10才
21~30個→実年齢+15才
31~40個→実年齢+20才
41~50個→実年齢+30才
栗原毅さんへの取材をもとに作成

あなたは何才!? 血管年齢セルフチェック
あなたは何才!? 血管年齢セルフチェック
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食習慣から見直す。一口だけ減らす「ちょいオフ」

若返りのためにまず意識したいのは食事だ。

「過食をせず、塩分を控えることが基本です」と言うのは高沢さん。

西崎さんも減塩の重要性を指摘したうえで、脂質と酸化もポイントに挙げる。

「肉や脂などコレステロール値を上昇させる食べ物は控えめに。その一方で、抗酸化作用の大きな食品は積極的に食べてほしい。β-カロテンが豊富なにんじんやほうれん草など、ポリフェノールを多く含むブルーベリーや赤ワイン、ごまなどが体の酸化を抑え、老化を防止します」

白米を箸で持ち上げている
「ちょいオフ」もおすすめ(Ph/GettyImages)
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栗原さんがすすめるのは、実践も簡単な糖質の“ちょいオフ”だ。

「いつもの食事から、炭水化物などの糖質を一口だけ減らす。こうすることで、中性脂肪がたまりにくくなり、血液中に放出される糖を抑えられます。果物は体によいからと積極的に食べている人もいるかもしれませんが、実は果物の糖質は吸収が速いため、血液をザラザラにしやすいという特徴があるので食べすぎには要注意。

糖質を控えることが大切な一方、食事の前の高カカオチョコレートは別です。カカオポリフェノールは非常に抗酸化作用が高いため、食前に摂取することで、その後の血糖値の急激な上昇を抑えてくれます」
伊賀瀬さんも血糖値の急上昇は避けるべきと続ける。

「心がけるべきは血管を傷めるような食事をしないこと。ひとつはカロリー過多です。カロリーを摂りすぎると血液中の糖分が増えてくるので避けてほしい。血糖値を上げることは生命維持のうえで不可欠ですが、余ってしまうと血液中に留まり血管を傷めます。必要最低限の糖分を摂ることに加え、血糖値を急激に上げる“血糖スパイク”を回避するようにしてください。食べる順番はベジタブルファーストを徹底しましょう」

合言葉は「オサカナスキヤネ」

栗原さんが提唱するのは、“オサカナスキヤネ”の合言葉。

「抗酸化作用のあるお茶、血流改善につながる良質な脂を持つ魚、血糖値急上昇を防ぐ海藻類、血栓溶解効果がある納豆、血中の老廃物を排除するクエン酸が含まれる酢、血糖値抑制効果が期待されるきのこ類、食物繊維とビタミンが豊富な野菜、血栓を防ぐ作用を持つねぎ類。

これらの食材は私たちの体に不足しがちなたんぱく質とミネラル群を含み、血液をサラサラにしてくれます。少なくとも週単位で摂取してください」

「オ」お茶
「サ」魚
「カ」海藻類
「ナ」納豆
「ス」酢
「キ」きのこ類
「ヤ」野菜
「ネ」ねぎ類
を取り入れた食生活が血管若返りに効果大

“オサカナスキヤネ”を意識しよう
“オサカナスキヤネ”を意識しよう(Ph/PIXTA)
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運動も生活のルーティンに「血管若返り体操」

食事に続いて、運動も生活のルーティンに取り入れたい。運動といっても、わざわざジムに行ったりランニングをしたりとハードな運動をする必要はなく、日常生活の中に簡単な習慣を取り入れればいい。

高沢さんがすすめるのはかかとの上げ下げを基本とした「血管若返り体操」だ。

「つま先立ちをしたらすぐにかかとを下ろす。これを朝晩10回くらいずつ繰り返すだけで充分です。私の出身地である埼玉県鶴ヶ島市のホームページでは、動画でわかりやすく紹介しています」

立って行うのが難しい場合や、就寝前に思い出したら布団の中で横になったままでも効果がある。

「寝たままつま先を伸ばして戻すことを繰り返すのでもいいです。こうすることで、足先から心臓に血液が戻り血流改善につながります」(高沢さん)

生活の中でできるちょっとした体操もある。

「血管を広げ、血流をよくすることを目的としたかかと上げ下げ、すわるスロースクワットは、家事や仕事の合間にできます。散歩をするだけでも血管若返りには効果があります。ウオーキングのような有酸素運動は血管の健康に欠かせない一酸化窒素(NO)の分泌を促進。この分泌が多いと血管はしなやかになり若さを取り戻せるのです」(栗原さん・以下同)

"第2の心臓"ふくらはぎを鍛える かかと上げ下げ

【1】いすの背もたれにひじを伸ばして手をつき、背筋を伸ばして立つ。
【2】24秒かけてかかとを上げ、4秒かけて床から1㎝くらいのところまで下げる。これを10回繰り返す。

"第2の心臓"ふくらはぎを鍛える かかと上げ下げ
"第2の心臓"ふくらはぎを鍛える かかと上げ下げ(イラスト/朝倉千夏)
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太ももとおしりの筋肉を鍛えて血流改善 すわるスロースクワット

【1】いすの前に立って背筋を伸ばし、手を組む。足は肩幅より広めに開く。
【2】おしりを突き出しながら4秒かけてひざを曲げ、太ももがいすにつく直前で止めて10秒間姿勢をキープする。
【3】10秒経ったらいすに座って脚の力を抜き、10秒休む。休んだらゆっくり立ち上がり、【1】~【3】を5回繰り返す。

太ももとおしりの筋肉を鍛えて血流改善 すわるスロースクワット
太ももとおしりの筋肉を鍛えて血流改善 すわるスロースクワット(イラスト/朝倉千夏)
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左右の手で1セットずつやろう NOの分泌を促す!「タオルグリップ」

近い効果は、最近ドラッグストアでもよく見かけるようになった重炭酸入浴剤を入れたお風呂に入っても得られるという。

「温度は40℃くらいで、15分~1時間と少し長めにつかることで、血行がよくなり、NOの産生が高まります。ストレスの解消にもつながります」

【1】フェイスタオルを縦に四つ折りにする。
【2】四つ折りにしたタオルを巻いて筒状にする。
【3】親指とほかの指がつかない太さか確認し、タオルを2分間強く握る。
【4】握っている手の力をゆるめ、1分間休む。【3】~【4】を2回繰り返して1セット。

NOの分泌を促す!「タオルグリップ」
NOの分泌を促す!「タオルグリップ」(イラスト/朝倉千夏)
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ウオーキングでも血管・血液は若返る!

伊賀瀬さんも「大事なのは軽めに歩くこと」と、ウオーキングをすすめる。

「可能であれば20分以上のまとまった歩行が理想です。その際、息がはずむけど会話ができるくらいの強度がいい。最新の研究では適度な頭の振動が血圧を落ち着かせると報告されており、1秒間に2回くらいの上下振動がある歩行は非常に理に適っています。

男性なら1日8000歩、女性なら7000歩、高齢者なら4000歩を目指しましょう」

運動が血管の老化防止に効果を与えるとはいえ、過ぎたるは及ばざるがごとし。やりすぎは厳禁だ。

「運動のしすぎは体にストレスをかけ、血管の老化を促進するので逆効果です。たとえ動脈硬化がなくてしなやかな血管をしていても、ストレスがかかって緊張すると弦が張ったような状態になって、しなやかさが奪われてしまいます。ストレスをかけない、解消することは血管の若返りには必須です。自律神経が整い、血圧が安定するため血管年齢を若く保つことができます」(西崎さん)

ウオーキングでも血管・血液は若返る!
ウオーキングでも血管・血液は若返る!(イラスト/朝倉千夏)
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歯や舌を磨くことは、血管や血液を磨くことに等しい

近年注目が高まっている口腔環境の改善も、血管年齢の若返りをもたらす。

「歯や舌を磨くことは、血管や血液を磨くことに等しいといえます。きれいにすれば血管も若くなるし、放置すると老けていく。起床直後と就寝前は丁寧に磨きましょう。歯周病菌や虫歯菌が体内に入るのを防ぎ、血管や血液の老化や劣化を防いでくれます」(栗原さん)

老化の度合いを見える化する 抗加齢ドック

かように食事や生活習慣を改善しても、前述の通り、血管年齢や老化の度合いは目に見えにくい。ゆえに定期的な検査をすることで、より正確に血管の状態を把握しベストな対策を講じることが可能になる。西崎さんが推奨するのは、健康診断や脳ドックに「抗加齢ドック」をプラスすること。

「抗加齢ドックとは、老化に影響するデータを測定し、老化の兆候を見つけるもの。具体的には血管の動脈硬化、血液の老化度、抗酸化力、ホルモンバランス、免疫バランスなどを計測します。老化は疾病の最大のリスク要因で、いまある病気ではなく、これからの病気の最大の原因です。ですから、抗加齢ドックで正しく現状を把握することは、予防医学、未病診断の入り口になるといえます」(西崎さん・以下同)

* * *

そして、大事なのはその結果を“正しく”受け止めることだ。

「血管年齢はあくまで健康のバロメーターに過ぎません。“実年齢より5才若いから安心”、“5才上だから不安”というものではなく、実年齢が60才で血管年齢60才なら満足というものでもないのです。それでは、実年齢が平均寿命になったときに血管も寿命を迎えてしまいます。元気に長生きしたければ、できれば30代の若い血管年齢を目指しましょう。血管年齢は、そのための指標なのです」

血管の若返りは、病気リスクを減らし、美肌や美腸、ダイエットなどいくつもの効果をもたらす最大のアンチエイジング術。いますぐ始めよう。

※女性セブン2024年4月25日号

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