病気になったら病院に通うべきと思いきや、病院に行ったことがマイナスに働いてしまうこともあるという。病院や病気との付き合い方次第で、その後の人生の満足度や、寿命そのものが変わってくることも珍しくないと話す、『大往生のコツ ほどよくわがままに生きる』(アスコム)の著者で在宅ホスピス医で僧侶の小笠原文雄さんに、病院との上手な関わり方や日本人に多い「がん」との付き合い方について教えてもらった。
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病院に行ったことで早く亡くなることも
病気になったとき、入院を家族から促されることがある。本人が望んでいるのであればいいものの、本来、住み慣れた家を離れることは大きなストレスとなるケースが多い。ストレスは血管を収縮させ、血流を妨げるため、その状態が続くと心臓に大きな負担がかかる。
「そして病気が悪化したり痛みが強くなったりして、さらにストレスを増幅させるという悪循環に陥ります。病院に行くのは逆効果で長生きできなくなることもあるのです」(小笠原さん・以下同)
在宅医療でできることは増えている
在宅医療の技術や通信技術は進歩しており、在宅医療でできることは以前と比べて飛躍的に増えている。小笠原さんによると、暮らしたいところで暮らすことで寿命が延びる人も3割ほどおり、病院で余命1か月と言われた患者が自宅に帰ったことで1年以上長生きした例を多く見てきたという。
「在宅医療、特に在宅ホスピス緩和ケアで旅立てたら、もう大往生、なんとめでたいご臨終だと喜んでいただければ幸いです」
延命治療は苦しめることも
家族が急に病気になったり、余命宣告をされたりすると、本人も家族もあわててしまい、とにかく生きるためにできることはすべてしなければならないという考えになりやすい。しかし、最近では延命治療を望まない人も増えている。延命治療によって何とか生きながらえても、痛みや苦しみが続くことがあるためだ。
「いざというときにおろおろとして、望まぬ延命治療を受けないように、普段から家族と一緒に話し合っておくことが大事です」
うまくいかないときは医者を変えるのも選択肢
一度病院に通い始めると、ずっと同じ病院・同じ医者にかかることは多く、不満なことがあっても「仕方がない」と我慢をする人は多い。しかし、「力量がなかったり、患者さんや家族の話を聞かなかったり、相性が悪かったりしたら、交代すればいいのです」と小笠原さん。合わないと感じたら美容師や理容師を変えるのと同じように、医師も変えていいのだという。
「医師と患者さんの家族といえども、人間同士なので相性があります。こちらが『話が通じない』と思っていたら、相手もそう思っていたということも珍しくありません。ですから、遠慮は不要です」
がんは告知をしたほうが長生きする?
日本人の2人に1人がなるというがん。家族ががんになった場合、本人に告げるべきか悩む人は多いだろう。小笠原さんによると、経験上、告知をした患者の方が、告知をされなかった患者よりも長生きするという。告知をされなかった場合、治療を受けても体調が悪化していくことに対して、医師への不信感が生まれたり、疑心暗鬼に陥ってしまったりするためだ。
「不安が募っていくと、免疫力が下がります。そのために、告知をされなかった患者さんの余命が短くなるのだと考えられます」
状況や種類によってはがんを放置したほうがいい
また、がんにもさまざまな種類があり、場合によっては放置したほうがいいこともあるのだという。特に、甲状腺がんと前立腺がんについては注意が必要で、治療自体に合併症リスクがあるため、逆に寿命を縮めてしまう可能性もある。
「ただ、前立腺がんは放置して大きくなると、尿が出なくなって困りますので、手術や放射線治療、薬物治療を行うかどうかは年齢などによります。がんにもいろいろなタイプがあります。治療に関しては、まず主治医に相談してください」
がんは適切な緩和ケアをすることが大切
がんで最もつらいことの1つは、「痛み」だ。薬の使い過ぎはよくないと考え、薬を使わず痛みを我慢しようとすると、がんの苦しみは増すばかり。痛みを和らげる医療用麻薬などを適切に使えば、がんであっても笑顔で生きることができる。
「最期まで穏やかに過ごすためには、モルヒネなどの医療用麻薬で痛みや苦しみを取り除く緩和ケアが必要となります。どの薬を使うのか、どれだけの量を使うのかが、医師としての腕の見せ所でもあります。医療用麻薬を上手に使うと、延命効果も現れます」
合わない病院に通い続けたり、痛みを我慢したりするのは、病気の悪化や苦しい闘病につながりかねない。言われるがまま治療をしたり、とにかく延命をしたりするのではなく、どうすれば穏やかに笑顔で生きられるかを考えることが重要だ。
◆教えてくれたのは:在宅ホスピス医、僧侶・小笠原文雄さん
おがさわら・ぶんゆう。医学博士。浄土真宗大谷派聖徳山伝法寺住職。日本在宅ホスピス協会会長。医療法人聖徳会 小笠原内科・岐阜在宅ケアクリニック院長。名古屋大学医学部卒業後、同医学部附属病院第二内科を経て小笠原内科を開院。医師として約2500人、僧侶として約500人の死を見つめる。著書に『大往生のコツ ほどよくわがままに生きる』(アスコム)など。