制度の利用者が急増し、寄付額が1兆円を突破した「ふるさと納税」。来年から仲介サイトによって付与されていたポイントが禁止されるなど、制度や費用の問題がクローズアップされているが、もっと深刻なのは食品の偽装だ。専門家が明かした驚くべき「闇」とは──。
ふるさと納税の返礼品に表示偽装が起こりやすい事情
肉や魚介、果物、お米など全国各地の特産品が手に入るうえ、所得税や住民税が控除されるなど、一見いいことづくしの「ふるさと納税」で、相次ぐ産地偽装が問題になっている。
過去4度にわたり、寄付受入額全国1位に輝いた宮崎県都城市で、2022年10月~2023年4月にかけ、県産若鶏をうたう同市の返礼品に外国産が使用されていた。
ほかの自治体でもいちごや米、しいたけに至るあらゆる食品の産地を偽り、返礼品としてパッケージングされていた。寄付のお礼にその土地が誇るグルメが提供されるという「幸福な関係」は過去のものに──。
元農林水産省の幹部で、不適正な食品表示を調査・是正する「食品表示Gメン」だった中村啓一さんは、ふるさと納税の返礼品には「表示偽装が起こりやすい特有の事情がある」と解説する。
「返礼品の製造は、地域の小規模事業者が担うケースが多く、大手事業者に比べると原料調達や品質管理の体制が脆弱である傾向にある。通常の販売品であれば、過去の販売実績を踏まえた原料確保や生産計画も可能ですが、いわば『通信販売』のような形態をとっている返礼品は供給能力以上の注文を受ける場合もある。原料が確保できずに目先の注文に間に合わせるための偽装が誘発されるのです」(中村さん・以下同)
業者も消費者も“審査がゆるい”
店頭で販売されている食品と異なり、行政の監視の目が行き届かないため、返礼品の偽装は露見しにくいという特徴もある。
「返礼品のコンプライアンスは、採用する自治体がチェックすることになっていますが、返礼品事業者と利害を共有する立場なので性善説に立った、つまりゆるい審査になりやすい」
消費者問題研究所代表の垣田達哉さんは「返礼品に対する消費者の目も、一般の商品ほど厳しくない」と指摘する。
「2022年度のふるさと納税利用者数は約900万人。一般販売されている食品に比べると、返礼品の産地表示などを目にする人の絶対数が少ないことは間違いありません。また、どうせ払わないといけない税金を自治体に寄付することで実質ほぼタダで受け取れる返礼品は、身銭を切って買う食品と比べると人々の警戒度も低いといえます」
産地偽装が発覚した際のペナルティーも、一般商品に比べて格段に低い。
「偽装が明らかになったとしても、行政処罰を受け、返礼品の取引が中止され、幹部が逮捕されるケースもあるものの、一般商品での産地偽装スキャンダルと比べて社会的制裁という意味では軽微です。
さらに、返礼品を採用する自治体に至っては、業者に責任を押し付けるだけ。都城市の返礼品が、産地偽装が発覚して以降も人気ランキングの上位に入っていることを見ても、『やったもん勝ち』の状況にある」(垣田さん)
偽装が行われやすい環境に加え、続発に拍車をかけているのが自治体同士の競争の激化だ。北海学園大学経済学部教授で、地方財政学が専門の西村宣彦さんが解説する。
「ふるさと納税は、『応援したい自治体への寄付』が本来の趣旨だが、実態は『返礼品による自治体間の寄付金の奪い合い』になっている。返礼品の魅力が寄付額に直結するため、少しでも多く寄付を集めようと、基準のギリギリを攻めて“オーバーラン”しているものもある。
もともと自治体主導だった返礼品の企画・開発も、最近ではポータルサイトやコンサルティング業者が丸抱えすることが増えています。返礼品の種類が飛躍的に増える一方、自治体自身でチェックしきれなくなっているのです」
ひそかに原材料を外国産に切り替える
摘発が相次ぐ一方、返礼品の数は年を追うごとに増え、「ふるさとチョイス」には、うには4000件以上、牛肉に至っては6万件以上の返礼品が掲載されている。その膨大なリストの中から偽装をすべて洗い出すのは不可能に近い。加えて専門家が懸念するのは「産地ロンダリング」だ。
「国内の別の産地や海外から安い食材を輸入し、現地で加工して返礼品として提供する例が散見されます。地域の名産品としてブランド力が強い高価格帯の生鮮食品や地域名から連想されやすい加工食品などは、産地に注意した方がいい。〝当然、当地の名産品を使うだろう〟という思い込みこそ、つけ込まれる可能性がある。これまでも牛肉や鶏肉、豚肉、うに、まぐろ、シャインマスカットなどで返礼品の産地偽装が起きている」(中村さん)
ふるさと納税の返礼品には地場産品を採用することが定められて
いる。しかし、総務省によると、返礼品を提供する市区町村の外や海外で生産されたものであっても、精米と熟成肉以外のものに限り、市区町村内で「製造、加工その他の工程のうち主要な部分を行うことにより相応の付加価値が生じている」ことを条件に、地場産品と認められるのだ。
北海道の自治体による「厳選うに」がそのひとつ。ポータルサイトを見ると「原産地:チリ産」と書かれてある。
自治体に話を聞くと、「むき身の状態で輸入したうにから苦味を取る作業や添加物の添加を行い、冷凍してお届けしている」という回答があった。
この作業が「相応な付加価値を生む工程の主要な部分」に当たるのだろう。しかし、水産商社の輸入担当者は首をかしげる。
「一般的にチリ産うには、現地でむき身作業から型崩れや品質劣化を防ぐためのブランチング(蒸気による表面の加熱処理)までを済ませ冷凍状態で輸入します。わざわざ生で輸入して国内でブランチングして冷凍するのはコスト的にも無駄でしかなく、一般の商材としてはあり得ません。
返礼品の地場産品基準をクリアするために、現場は大変手間がかかった作業を強いられることになる。保存加工にどのくらいのクオリティーが担保されるかは未知数です」
ちなみに外国産うにを返礼品として採用している自治体はほかにも多数あり、いずれも「当地加工」し、地場産品として認められているとみられる。