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【絶対に失敗しない遺言書のルール】「誰に」「何を」「どれくらい」相続させたいかをハッキリと書く エンディングノートはベストな遺言書の入門に

遺言状
遺言書の重要性を知っておこう(Ph/PIXTA)
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夫から妻へ、親から子へ、祖父母から孫へ──。「相続」は、いつか必ず訪れる別れと同時に、家族の手から手へと渡る“最後の贈り物”でもある。だが、残す側の準備や受け取る側の心構えが足りないと、大切な財産はたちまち、必要以上の税金で大きな損につながったり、“負債”となって暮らしを圧迫したり、お金を奪い合う争いを招いたりと、不幸の種になる。あなたとあなたの家族の大切なお金と絆を守るために、いまからできることを知っておくべきだ。家族が集まるお盆に“ウチのお金”について話し合おう。

相続で失敗しないためのキーポイントとなる「遺言書」は、ただ単に自身の意思を書き残せばいいというわけではない。特に不動産は相続財産の中でも分けにくいため、もっとも「相続争い」の火種になりやすい。円満かつ損にならない相続のためには“正しい遺言書”の作成が必須なのだ。

遺言書の重要性について、相続実務士の曽根惠子さんが語る。

「とある3人姉妹の相続で、遺言書がなく、亡くなった両親と同居していた独身の長女が分割協議の間もずっと自宅に住み続けており、残った現預金も長女が使い込んでしまっていました。

結局、長女が家を明け渡して売却、分割できるようになるまでに10年かかりました。遺言書さえあれば、これほど時間はかからなかったはずです」

致命的な自筆証書遺言のミス

遺言書には大きく分けて、自分で書く「自筆証書遺言」と、公証役場で公証人がまとめる「公正証書遺言」の2つがある。日本司法書士会連合会の常任理事で司法書士の中本彰さんが語る。

「自筆証書遺言は、自宅で保管していると発見されないまま遺産分割協議に入ってしまうリスクがありましたが、いまは自筆証書遺言を法務局で保管してもらえる制度があります。とはいえ、保管してもらう自筆証書遺言は書式や用紙の細かいルールを守って主要な部分を手書きしなければならないため、間違いも起きやすい。

多少費用はかかりますが、公正証書遺言の方がトラブルがなく、確実に法的効力のある遺言書をつくることができるのでおすすめです」

自筆証書遺言には、紙のサイズや余白など細かい様式の規定があるため、法的に有効なものを確実につくるには公正証書遺言の方が安心だ。

「自筆証書遺言は規定の範囲内ならどんな書き方をしてもいいという自由度はありますが、『日付』『自分の名前』『印鑑』のうちどれか1つでも欠けていたら無効になるなど、厳しいルールが設けられています」(曽根さん・以下同)

遺言書の書き方
公的な遺言書にはルールがある
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さらに、肝心の遺産分割割合に関する記述にも注意点がある。

「“仲よく分けてください”“子供のうちの1人に託します”といったよくある記述は、実際にはルール違反。こうした曖昧な書き方をすると、法的効力がなくなります。

以前『土地・建物の全部を子供たち一同の共有財産として維持して保有すること』と書かれた遺言書が見つかったことがありますが、こうした文言では法務局で登記できないため、無効になりました。

その被相続人は株も持っており『株の売却益は先祖の供養やお墓の管理などに充てるように』とも書かれていましたが、誰に何をどれだけ分けると明記していなければ遺言にはならず、そもそも遺言書で使い道まで指定することは不可能です」

「遺留分無視」「共有名義」がトラブルを招く

たとえ法的効力のある遺言書を残すことができたとしても、分割割合に大きな偏りがあれば、相続争いは免れない。

法律で保証された各法定相続人の最低限の分割割合(原則、法定相続分の2分の1)である「遺留分」を下回る場合、分割協議の後で遺留分を請求される場合もある。相続財産が不動産しかない場合、ほかの相続人に「代償金」を渡せるように、お金を工面しておく必要があるのだ。プレ定年専門ファイナンシャルプランナーの三原由紀さんが語る。

「離婚歴のある夫が亡くなり、後妻と先妻が自宅を取り合うというケースはよくあります。すでに離婚している先妻には相続権はありませんが、子(先妻との間の子供を含む)には後妻と同じく『財産の2分の1』の権利がある。

自宅しかなければ売ってお金にすればいいのですが、後妻が面識のない先妻との子のために家を手放したがる可能性は低く、円満に解決するのは難しいでしょう」(三原さん・以下同)

離婚歴がなくとも、不動産が共有名義になっているままだと、遺言書をつくるのにも苦労する。

「不動産は必ず、遺言書を書く前に、名義を整理して単独所有にしておくこと。子供のいない夫婦が共有名義にしていると、例えば夫が亡くなると、その親、またはきょうだいにも相続権が発生するため、残された妻は自宅を売って代償金を支払わなければいけないこともある」

男性に手をあげる女性
トラブルを起こさないために留意したい遺言書の内容(Ph/PIXTA)
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エンディングノートは遺言書入門

遺言書には「誰に」「何を」「どれくらい」相続させたいかをハッキリと書いておかなければならない。

「もし不動産を相続させたい人がいるなら、“最後まで介護してくれたから”“評価額は充分だから、売ってお金にしてほしい”など、相続させる理由を遺言書の付言事項として書いておくと、分割協議がスムーズになります」

そのためには、元気なうちから自分の持っている財産を把握しておくことが第一歩だ。日本司法書士会連合会の理事で司法書士の齋藤毅さんが説明する。

「不動産の評価額や預貯金、株、生命保険ばかりではありません。借金などの“負の財産”のほか、インターネットのパスワードといった『デジタル遺産』も整理しておくべきです」

それらを踏まえた上で、認知症などになっていない、判断能力がある元気なうちに遺言書を完成させておく必要がある。

だが、親世代の中には遺言書をつくることへの心理的なハードルが邪魔している場合も少なくない。

「まだ、日本の風潮として子供に遺言書を残しておいてねと言われると早く死ぬことを望んでいるなどと勘違いされ、関係が険悪になってしまうお話はよく聞きます。

やはり、子供の口からは切り出しにくい雰囲気があるので、遺言書の入り口として気軽にすすめやすいのが『エンディングノート』。終活の一環としてメモ感覚でいろいろ書き残すことができ、遺言書やそれに添付する財産目録の雛形としても使えます」(中本さん・以下同)

エンディングノートには、所有している財産(不動産や預貯金、株などの有価証券、デジタル資産なども含む)だけでなく、自身が要介護状態になった後に家族にしてほしいこと、葬儀などに呼んでほしい人選、もしものときの連絡先、家族へのメッセージなど、なんでも書き込んでいい。

相続トラブルを防ぐベストな遺言書をつくるための準備は、どれだけやりすぎても、やりすぎることはない。

その中でももっとも重要かつ見落としがちなのが、日頃から親族間の人間関係を円滑にしておくこと。

「例えば、普段から年賀状のやりとりがあれば、いざというときの連絡先がわかります。海外在住の相続人から届いたクリスマスカードが唯一の手がかりとなって不動産登記の手続きが進んだケースもある。結局のところ、最終的にもっとも大切なのは、書類上の手続きを済ませることよりも、親族間の日頃の人間関係なのです」

立つ鳥跡を濁さず──いちばんの財産は、死後、子供や家族に迷惑をかけないために「準備をしておくこと」なのだ。

※女性セブン2024年8月22・29日号

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