
虫歯予防デー(6月4日)や歯と口の健康週間などで改めて歯の健康について意識している人もいるだろう。自分の歯で食事をすることは、健康寿命を延ばすことにも直結する。大切な歯を守るため、歯科医が「避ける」食品と飲み物を徹底取材し、リストアップした。
5月21日、大阪公立大学は歯科健診未受診の高齢者の死亡リスクが、受診者に比べ約1.5倍になるという研究を発表した。
健康寿命を延ばすうえで「自分の歯を残す」ことの重要性が高まっている。自分の歯できちんと噛んで食事をすることは栄養の吸収を助けるだけでなく、表情筋を鍛えたり脳に刺激を与えるなど多くの効果が期待できる。逆に、歯の健康を損なうことは寿命を縮めることに直結する。飯塚歯科院長の飯塚宏明さんが言う。
「歯も体の一部であり、不具合があると全身に影響が出ます。特に歯周病は認知症や糖尿病、脳卒中や心筋梗塞などの病気のリスクを引き上げてしまう。また脳でのアミロイドβの蓄積を増やし、アルツハイマー型認知症の発症率を1.7倍にするという研究もあります」(飯塚さん・以下同)
大切な歯をダメにする2大原因は歯周病と虫歯だ。
「口腔内に存在する細菌の数が増えると悪さを始めます。虫歯や歯周病の予防には、口のなかを細菌が増えにくい環境に整えることが大切になります」
口腔内環境を悪化させる大きな要因は、食べ物や飲み物。治療や予防医療で歯の健康を守る歯科医に「絶対に口にしない」食品、飲料を聞くと、意外なものが挙がった。
虫歯の原因となる食べ物は「糖」と「酸」
虫歯の原因となる食べ物の特徴は、大きく分けると「糖」と「酸」が挙げられる。糖は糖分のことで、歯の隙間に糖分の多い食べ物が詰まると、それが細菌の餌となり増殖し、さらに細菌は糖を餌に酸を作り出し、歯のエナメル質を溶かして虫歯になる。
大塚歯科医院理事長の大塚勇二さんが言う。
「糖と聞くと、砂糖を多く含むアイスクリームやチョコレートを思い浮かべるかたも多いと思いますが、虫歯になりやすい食べ物の特徴は、“どれだけ口のなかに残りやすいか”と、“唾液中の糖分の濃度”です。
和菓子のようにゆっくり味わうものや、餅のように歯につきやすい食べ物の方が虫歯リスクが高い」
口のなかにある時間が長いグミやガム、飴玉は言わずもがなだろう。
さらに健康のために食べるべきとされる食べ物も、実は虫歯のリスクを上げると、歯学博士の照山裕子さんが指摘する。

「白米は粘りがあるので歯の隙間に残りやすいです。また、お茶漬けやおかゆだと、咀嚼回数が減るので唾液の分泌量が減って、口のなかに糖が残ってしまう。
そうめんやうどんなど、あまり噛まずに食べられるものにも同じリスクがあるので、薬味や具を多くして噛む回数を増やし、唾液を出すようにしましょう」(照山さん・以下同)
歯の隙間に残る食べカス対策には、歯磨きとフロスが効果的だが、いつでもできるとは限らない。
「歯磨きができないときは、水でゆすぐと糖質を洗い流せます。何もしないよりもずっといいので、何かを口にしたら必ずぶくぶくうがいをしましょう」
歯に直接影響を与える酸には2種類あり、口腔内細菌が糖から作り出す酸と、食べ物に含まれる酸がある。
「歯に与えるダメージは、細菌が出す酸も、酸性の食べ物も同じです。歯はカルシウムやリン酸で硬さを維持していますが、口のなかが酸性になるとそのカルシウムやリン酸が歯から溶け出してもろくなって穴が開いてしまう。酸性のものを飲食すれば少量でも口のなかは即酸性になるので、注意が必要です」(飯塚さん)
酸性の食べ物は、想像以上に身近にあふれている。

「発酵食品のみそを使ったみそ汁は、毎日の習慣にすすめられるほど健康効果が期待されますが、酸性です。レモンやオレンジなどの果物は酸性であるうえ、果糖も多く含みます。野菜ジュースやスムージーも酸性であったり、砂糖やはちみつで甘みを出しているものもあるので朝食代わりにしている人は注意しましょう。
健康のためとお酢ドリンクや乳酸飲料を習慣にしている女性も多いですが、どちらも酸が強いので飲んだら水で口をゆすいで中和する習慣を」(照山さん)
美容のためジュースの代わりに炭酸水を飲む人も多いが、炭酸は強い酸なので歯の表面を溶かす。またコーヒーのようにいれたては問題がなくても、時間が経つと酸性になっていく飲料もある。飯塚さんが続ける。
「何かを食べたら口のなかは必ず酸性になり、唾液の作用で少しずつ中性に戻っていきます。虫歯対策としては、口のなかが酸性でない時間をいかに増やすかが重要です。間食もよくありません。3食以外の時間の飲み物選びは非常に重要になります」