健康・医療

「納豆や乳製品の腸活フード」「腸内洗浄」は便秘や腸内環境の改善に効果はあるのか?医師が解説する「便秘と腸活の落とし穴」

「便秘と腸活の落とし穴」
「便秘と腸活の落とし穴」とは?(写真/PIXTA)
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便秘を改善するために、食物繊維の入った野菜をたっぷり摂り、ハーブティーやサプリメントで腸をきれいにしつつ、マッサージをして便を腸から押し出す。それでも出なければ、薬を一粒―お腹のため、ひいては全身の健康と美容のためにやっているはずのそれらの行動、すべて間違っているかもしれない――。

便秘はもはや“世界的な病”

便秘の改善や治療を担う商品や市販薬の市場規模は2032年までに50億ドル増加する――。これはアメリカのコンサルティング会社「レポートオーシャン」が今年2月に発表した最新予測だ。デスクワークが増え、ストレスも多い多忙な現代社会において、便秘はもはや“世界的な病”だといえるだろう。

加えて近年、数多くの研究データにより血管病から虫歯まで排便状況や腸内環境があらゆる病気と相関関係にあると示唆されている。その結果、多くの人が便秘対策をし、腸を整えることの重要性を認識するようになった。

それゆえ、酵素ドリンクやサプリメント、ツボ押し、ストレッチに至るまで腸を活性化させ、排便を促すための“あの手この手”をさまざまな業界がこぞって商品やサービスとして提供し、人気を集めている。

便秘の原因の8割は「腸」ではなかった

しかしそれらすべてが正しいとは限らないと横浜市立大学大学院医学研究科肝胆膵消化器病学教室主任教授で日本消化器病学会専門医の中島淳さんは話す。

「確かに慢性的な便秘は心筋梗塞、脳卒中、認知症など命にかかわる疾患を引き起こすリスクを上げます。

実際、アメリカの調査によれば、便秘の人はそうでない人に比べて15年後の生存率が約20%低いことが明らかになっているうえ、日本人を対象とした調査でも、認知症の進行スピードが約2.7倍早いというデータがあります。

健康寿命を延ばすためにも便秘対策や腸活は必須ですが、間違った知識のもと自己流で対策し、さらに悪化させて病院に来る人も少なくないのが現状です」

放置すれば”死に至る病”を遠ざけたい一心で続ける努力が、かえって寿命を縮めている可能性があるのだ。

まず見直すべきは「腸を整えれば便秘が改善する」という思い込み――。そう断じるのは、『便秘の8割はおしりで事件が起きている!』(日東書院本社)の著者で大阪肛門科診療所副院長の佐々木みのりさんだ。

「多くの人は便秘の原因が腸内にあると思っていますが、実際に便通に悩みを抱えて来院する患者さんの8割がお尻に原因がある『出口の便秘』です。

大腸は正常に動いて便を排出しようとしているのに、直腸に到達したときに起きる『排便反射』が弱いため、便を出し切れず、直腸や肛門内に留まってしまう。日常生活で便意をがまんすることが続いたりストレスなどで自律神経が乱れたりすることで排便のリズムが崩れることが大きな理由です。その場合、いくら腸内環境を改善してもまったく意味がありません」

腸活に励んでも効果が出ないという人は、出口の便秘を疑ってほしいと佐々木さんは続ける。

「定期的に排便はあるものの切れが悪く残便感があるという人や、温水洗浄便座を使わないとお尻の汚れを取りきれないという人も、出口の便秘である可能性が高い。いずれにせよ、お尻に便をためたままでいると肛門に大きな負担がかかるため、放置すれば切れ痔やいぼ痔を引き起こすリスクもあります。

自分の便秘の原因を把握することが全身の健康への第一歩であることは間違いありません」

※1つでも当てはまるものがあれば要注意。3つ以上だとかなり危険な状態。5つ以上の人は間違いなく「出口の便秘」。出典/『便秘の8割はおしりで事件が起きている!』
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”のむだけで出る”に注意

「出口の便秘」に限らず、多くの医師たちが間違った対処法だと声を揃えたのは“のむだけで出る”とうたわれている市販薬や健康食品に頼ること。

中島さんが解説する。

「特に私が懸念しているのはセンナ、大黄などが含まれる『刺激性下剤』の常用です。腸のぜん動運動を誘発して排便を促す薬ですが、毎日使うと次第に効果が薄くなり、2錠、3錠と量が増えていく。1日60~70錠のんでいたという患者さんも少なくありません」

佐々木さんは「同様の成分は便秘改善を売りにしたサプリメントやハーブティーにも含まれている」と注意を促す。

「“美容にいいサプリ”“便秘に効くハーブティー”の多くは、原材料としてセンナや大黄が使用されていますが『キャンドルブッシュ』『ゴールデンキャンドル』など、一見わからない別名で書かれていることもあるので、気づかぬうちに摂取している可能性がある。

それらの成分を長期間摂取すると、腸が黒くなる『大腸メラノーシス』を引き起こし、腸の機能も著しく低下します。

そもそも下剤や健康食品に頼って軟らかい便ばかり出していると、次第に肛門が狭くなり、便が出しにくくなってしまう。使用には慎重になるべきでしょう」(佐々木さん)

薬によって便秘がかえって悪化するケースもある。新横浜国際クリニック理事長で日本消化器学会専門医の石黒智也さんが指摘する。

「整腸剤の服用がそれにあたります。“腸内環境を整えてくれるから”と便秘対策にのんでいる人は少なくありませんが、病院では腸内細菌が弱くて下痢になりやすい人に処方することが多く、目的が逆です。

下痢でない人が服用すると便が硬くなるため、便秘を引き起こしやすくなることがあります」

“生きたまま腸に届く”にこだわる必要なし

近年、腸内細菌の働きは便秘改善や健康状態に留まらず、肌の状態や体形など美容とも深い相関関係にあることが明らかになり、腸を整える「腸活」は便秘対策を超え、一大ムーブメントとなった。それゆえ、便通が順調であっても整腸作用のある食品を積極的に摂っている人も多いだろう。しかし、日本養腸セラピー協会会長で腸もみセラピストの真野わかさんは、そうした“腸活フード”にも落とし穴があると指摘する。

“腸活フード”にも落とし穴が
“腸活フード”にも落とし穴が(写真/PIXTA)
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「腸内にはおよそ1000種類、100兆個以上の細菌がいるといわれており、人によって種類も数もバランスも千差万別です。そのため、万人に効果的な食品は存在しません。確かにヨーグルトや納豆などは多くの人に有効ですが、それでも人によっては体が受けつけないこともある。乳製品を積極的に摂って腸内環境を整えようとする人もいますが乳製品が体に合わない人も一定数います。腸内環境の改善のために取り入れたい食材や成分があれば、まずはその量を多めにした食事を1週間ぐらい続けてみて、便通やガスのにおいなどをチェックして、体に合うかどうか確認することをおすすめします」

その際、商品選びや食べ方にも気を配ってほしいと真野さんは続ける。

「腸にいい食品でも、一緒に口にするものに悪い成分が入っていれば本末転倒です。添加物と塩分を含んだ納豆のたれ、糖質や人工甘味料の多いヨーグルトドリンク、保存料や添加物で長持ちさせている“低糖質・食物繊維入り”をうたった総菜パンなどはその代表格といえます。

また、“生きたまま菌が腸に届く”ことを売りにしている乳酸菌飲料やサプリメントも注意が必要。胃酸で死滅しても、乳酸菌の成分には腸内環境を改善する働きがある。生菌にこだわる必要はありません」

発酵食品と同様に高い整腸作用を持つ食物繊維たっぷりの野菜も、必ずしも効果があるとは限らない。

「むしろ、診察していてよく見かけるのは、野菜ばかり食べているせいで便秘の症状が悪化しているケースです。野菜の食物繊維は消化に時間がかかるため、大腸の働きが正常な人の場合はその過程で腸をきれいにしてくれますが、すでにガスや便がたまってお腹が張っている場合、うまく消化できずに腸内に停滞し、便秘に拍車をかけることになります」(中島さん)

石黒さんも、野菜の摂りすぎは便秘対策として逆効果になることもあると話す。

「確かに食物繊維は腸内をきれいにしますが、野菜ばかりの食生活はすでに食物繊維で掃除された腸を再度ほうきで掃くようなもので、次第に便の量が減っていく。よく“野菜サラダにオリーブオイル”が腸活メニューとして紹介されていますが、それよりもしっかり肉や魚を摂るべきです。

腸を活性化し、便のかさを増やすためには適度な油分とたんぱく質が必要であり、肉や魚は両者のバランスがいい。さらに動物性脂肪はオリーブオイルよりも消化スピードが緩やかであるため、便が軟らかくなりやすいです」

腸内洗浄に根本的効果はない

罠が潜むのは“腸活フード”に留まらない。真野さんは、腸を休めるためのファスティングに疑問を投げかける。

「1日のうち16時間断食し、残りの8時間で食事をする『16時間断食』をはじめとして腸活にファスティングを取り入れる人は少なくありません。しかし、短い時間で必須カロリー分を一気に摂取することになるため、胃腸が弱い人にとっては大きな負担になる。

胃腸を労りたいのであれば、むしろ1日分の食事を3〜5回に分けた方が内臓への負担が減り、ひいては便秘解消につながります」(真野さん)

自身の腸の状態を把握して、最適な方法を探ってほしい。食生活に加え、腸を活性化させるためには体を動かしたり、直接腸を刺激することも大切だとされているが、それもやり方を間違えれば逆効果になる。鳥居内科クリニック院長の鳥居明さんが解説する。

「適度な運動は腸の動きを活発にしますが、激しすぎたり、体に大きな負荷がかかってストレスが生じるものは逆効果になる。実際、マラソン選手などアスリートの中には便秘に悩んでいる人が少なからずいる。

緊張状態が続くことによって自律神経が乱れ、交感神経が優位になって、腸の動きが停滞することがその理由だといわれています」

腸内洗浄が便秘対策になるというのも大きな間違い。

「腸内洗浄によって一時的に便は排出されますが、便秘や腸内環境を根本的に改善する効果はありません」(中島さん)

マッサージも強すぎれば腸に負担をかけ、効果を感じづらくなる。

マッサージも強すぎれば腸に負担をかけ、効果を感じづらくなる
マッサージも強すぎれば腸に負担をかけ、効果を感じづらくなる(写真/PIXTA)
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「マッサージは強くもむほどに効果が出ると思っている人もいますが、腸は繊細なので痛みを感じると緊張して動きが悪くなる。自分で行うときは、力をかけすぎないように気をつけること。指を立てて押し込んだり、息を止めるほど力を入れたりするのはやめましょう」(真野さん)

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便秘でかかる医師は「問診」で見分ける

食生活からマッサージまで、もし普段の生活で間違った便秘対策や腸活を実践していた場合は、すぐに改めてほしい。そのうえで、排便状況が改善されない場合は便秘で病院に行くのは恥ずかしいという気持ちは捨て、適切なタイミングで病院を受診することが明暗を分ける。

「便がうさぎのフンのように硬くて出しにくいという人や、お通じが週3回未満の状態が3か月以上続く人は、一度は病院での治療を検討した方がいいでしょう。通常、排便の回数は1日2回~2日に1回程度。便秘の影に大腸がんなど重大な病気が隠れていることもあるので、病院で調べてもらった方が安心です」(中島さん・以下同)

病院で受けられる治療は日進月歩で、効果の高い新薬も登場していると中島さんは続ける。

「便秘のタイプにもよりますが、現在は野菜や水分を摂るなど生活習慣の指導を行いつつ、投薬を行うのが治療のスタンダードになっています。その際に第一選択になるのは、酸化マグネシウム、マクロゴールなどの『浸透圧性下剤』。水分を腸壁から便に引き込んで軟らかくする薬です。

効果が不充分な場合には、胆汁酸を増やして便通を促す『胆汁酸トランスポーター阻害薬』、小腸に作用する『上皮機能変容薬』といった新薬を使います。便秘は治療が遅れるほど治りにくいので、できるだけ早く受けた方がいい」

では適切な治療を受けるために、いい病院や医師をどう選ぶべきか。鳥居さんがアドバイスする。

「見極めのポイントは、問診をしっかりしてくれるかどうか。患者にとって、便秘の話は医師に伝えづらいもの。だからこそ、問診の際に患者の話を丁寧に聞こうとする医師を選ぶことが大事になります」

医師にかかる際は問診をしっかりしてくれるかどうかを判断基準にすべし
医師にかかる際は問診をしっかりしてくれるかどうかを判断基準にすべし(写真/PIXTA)
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問診時には、お通じの情報もしっかり伝えよう。

「排便の回数や便の硬さ、形状、色は問診時に必ず聞かれる項目ですが、意外と自分の便を観察していない人は多い。胆管がんやすい臓がんでは胆汁が出なくなるので白っぽい便、胃や食道から出血があれば黒い便、大腸から出血があれば赤い便になるなど、病気の早期発見にもつながるので、普段からチェックする習慣をつけておくといいでしょう」(石黒さん)

何より大切なのは、医師任せにしないという意識だ。佐々木さんは「最後は自分次第」だと言い切る。

「病院にかかっても“自分で治す”という意識を忘れないでください。無条件に医師を信用して身を任せると、過剰な治療を受けるリスクも高くなる。医師の言うことをうのみにせず、自分で調べて考え、納得できなければセカンドオピニオンを」

腸を整えることは健康への近道。さっそく今日から正しい腸活に取り組もう。

※女性セブン2024年9月5日号