“生きたまま腸に届く”にこだわる必要なし
近年、腸内細菌の働きは便秘改善や健康状態に留まらず、肌の状態や体形など美容とも深い相関関係にあることが明らかになり、腸を整える「腸活」は便秘対策を超え、一大ムーブメントとなった。それゆえ、便通が順調であっても整腸作用のある食品を積極的に摂っている人も多いだろう。しかし、日本養腸セラピー協会会長で腸もみセラピストの真野わかさんは、そうした“腸活フード”にも落とし穴があると指摘する。
「腸内にはおよそ1000種類、100兆個以上の細菌がいるといわれており、人によって種類も数もバランスも千差万別です。そのため、万人に効果的な食品は存在しません。確かにヨーグルトや納豆などは多くの人に有効ですが、それでも人によっては体が受けつけないこともある。乳製品を積極的に摂って腸内環境を整えようとする人もいますが乳製品が体に合わない人も一定数います。腸内環境の改善のために取り入れたい食材や成分があれば、まずはその量を多めにした食事を1週間ぐらい続けてみて、便通やガスのにおいなどをチェックして、体に合うかどうか確認することをおすすめします」
その際、商品選びや食べ方にも気を配ってほしいと真野さんは続ける。
「腸にいい食品でも、一緒に口にするものに悪い成分が入っていれば本末転倒です。添加物と塩分を含んだ納豆のたれ、糖質や人工甘味料の多いヨーグルトドリンク、保存料や添加物で長持ちさせている“低糖質・食物繊維入り”をうたった総菜パンなどはその代表格といえます。
また、“生きたまま菌が腸に届く”ことを売りにしている乳酸菌飲料やサプリメントも注意が必要。胃酸で死滅しても、乳酸菌の成分には腸内環境を改善する働きがある。生菌にこだわる必要はありません」
発酵食品と同様に高い整腸作用を持つ食物繊維たっぷりの野菜も、必ずしも効果があるとは限らない。
「むしろ、診察していてよく見かけるのは、野菜ばかり食べているせいで便秘の症状が悪化しているケースです。野菜の食物繊維は消化に時間がかかるため、大腸の働きが正常な人の場合はその過程で腸をきれいにしてくれますが、すでにガスや便がたまってお腹が張っている場合、うまく消化できずに腸内に停滞し、便秘に拍車をかけることになります」(中島さん)
石黒さんも、野菜の摂りすぎは便秘対策として逆効果になることもあると話す。
「確かに食物繊維は腸内をきれいにしますが、野菜ばかりの食生活はすでに食物繊維で掃除された腸を再度ほうきで掃くようなもので、次第に便の量が減っていく。よく“野菜サラダにオリーブオイル”が腸活メニューとして紹介されていますが、それよりもしっかり肉や魚を摂るべきです。
腸を活性化し、便のかさを増やすためには適度な油分とたんぱく質が必要であり、肉や魚は両者のバランスがいい。さらに動物性脂肪はオリーブオイルよりも消化スピードが緩やかであるため、便が軟らかくなりやすいです」
腸内洗浄に根本的効果はない
罠が潜むのは“腸活フード”に留まらない。真野さんは、腸を休めるためのファスティングに疑問を投げかける。
「1日のうち16時間断食し、残りの8時間で食事をする『16時間断食』をはじめとして腸活にファスティングを取り入れる人は少なくありません。しかし、短い時間で必須カロリー分を一気に摂取することになるため、胃腸が弱い人にとっては大きな負担になる。
胃腸を労りたいのであれば、むしろ1日分の食事を3〜5回に分けた方が内臓への負担が減り、ひいては便秘解消につながります」(真野さん)
自身の腸の状態を把握して、最適な方法を探ってほしい。食生活に加え、腸を活性化させるためには体を動かしたり、直接腸を刺激することも大切だとされているが、それもやり方を間違えれば逆効果になる。鳥居内科クリニック院長の鳥居明さんが解説する。
「適度な運動は腸の動きを活発にしますが、激しすぎたり、体に大きな負荷がかかってストレスが生じるものは逆効果になる。実際、マラソン選手などアスリートの中には便秘に悩んでいる人が少なからずいる。
緊張状態が続くことによって自律神経が乱れ、交感神経が優位になって、腸の動きが停滞することがその理由だといわれています」
腸内洗浄が便秘対策になるというのも大きな間違い。
「腸内洗浄によって一時的に便は排出されますが、便秘や腸内環境を根本的に改善する効果はありません」(中島さん)
マッサージも強すぎれば腸に負担をかけ、効果を感じづらくなる。
「マッサージは強くもむほどに効果が出ると思っている人もいますが、腸は繊細なので痛みを感じると緊張して動きが悪くなる。自分で行うときは、力をかけすぎないように気をつけること。指を立てて押し込んだり、息を止めるほど力を入れたりするのはやめましょう」(真野さん)
便秘でかかる医師は「問診」で見分ける
食生活からマッサージまで、もし普段の生活で間違った便秘対策や腸活を実践していた場合は、すぐに改めてほしい。そのうえで、排便状況が改善されない場合は便秘で病院に行くのは恥ずかしいという気持ちは捨て、適切なタイミングで病院を受診することが明暗を分ける。
「便がうさぎのフンのように硬くて出しにくいという人や、お通じが週3回未満の状態が3か月以上続く人は、一度は病院での治療を検討した方がいいでしょう。通常、排便の回数は1日2回~2日に1回程度。便秘の影に大腸がんなど重大な病気が隠れていることもあるので、病院で調べてもらった方が安心です」(中島さん・以下同)
病院で受けられる治療は日進月歩で、効果の高い新薬も登場していると中島さんは続ける。
「便秘のタイプにもよりますが、現在は野菜や水分を摂るなど生活習慣の指導を行いつつ、投薬を行うのが治療のスタンダードになっています。その際に第一選択になるのは、酸化マグネシウム、マクロゴールなどの『浸透圧性下剤』。水分を腸壁から便に引き込んで軟らかくする薬です。
効果が不充分な場合には、胆汁酸を増やして便通を促す『胆汁酸トランスポーター阻害薬』、小腸に作用する『上皮機能変容薬』といった新薬を使います。便秘は治療が遅れるほど治りにくいので、できるだけ早く受けた方がいい」
では適切な治療を受けるために、いい病院や医師をどう選ぶべきか。鳥居さんがアドバイスする。
「見極めのポイントは、問診をしっかりしてくれるかどうか。患者にとって、便秘の話は医師に伝えづらいもの。だからこそ、問診の際に患者の話を丁寧に聞こうとする医師を選ぶことが大事になります」
問診時には、お通じの情報もしっかり伝えよう。
「排便の回数や便の硬さ、形状、色は問診時に必ず聞かれる項目ですが、意外と自分の便を観察していない人は多い。胆管がんやすい臓がんでは胆汁が出なくなるので白っぽい便、胃や食道から出血があれば黒い便、大腸から出血があれば赤い便になるなど、病気の早期発見にもつながるので、普段からチェックする習慣をつけておくといいでしょう」(石黒さん)
何より大切なのは、医師任せにしないという意識だ。佐々木さんは「最後は自分次第」だと言い切る。
「病院にかかっても“自分で治す”という意識を忘れないでください。無条件に医師を信用して身を任せると、過剰な治療を受けるリスクも高くなる。医師の言うことをうのみにせず、自分で調べて考え、納得できなければセカンドオピニオンを」
腸を整えることは健康への近道。さっそく今日から正しい腸活に取り組もう。
※女性セブン2024年9月5日号